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お産と自閉症 刷り込み②

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.05.06配信のメルマガ内容です。

前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの電子書籍に割愛、太字等の変更を加えています。もっとよく知りたい人は白石さんの原著書をご購入ください。Amazonで税込み1650円です。


これまで主に鳥の観察から得られたことを、自分なりにまとめてみます。

  • 母親への信頼は刷り込みである。刷り込みがないと信頼がおけず、母親への甘えもなく、傍にいても安心できず不安が生じ、さらには恐怖を感じるようになる。恐怖のために同一性に固執し孤立する。

  • これが自閉症の病理だと思われる。

  • 刷り込みには、母親を特定するだけではなく、自分が属する種や、仲間の種や、繁殖相手の種を特定する機能がある。また、自分の種への共感能力が生まれるという機能がある。

  • 逆に刷り込みが障害されれば、これらの機能に混乱が生じることになる。

では今回は哺乳動物についてのお話です。

2-2. 哺乳類の刷り込み

哺乳類の子どもが刷り込みをしていることはほとんど知られていない。

鳥の刷り込みが発見されたのは、ハイイロガンのヒナがローレンツの後を追いかけてきたといった、異常な現象が観察されたからである。

哺乳類の場合も、神戸市立王子動物園の飼育員亀井一成の本に、哺乳類の子どもが刷り込みをしていることを示している異常な現象が2例載っていた。

■ キリンの子の刷り込み

1956年、神戸市立王子動物園でキリンの子が生まれた。そのとき、園長をはじめとして多くの職員がキリンの出産を見守っていた(亀井は見守っていたと書いているが、多くの人が見ていると出産をする母キリンにはかなりのストレスになる)。

キリンの子は生まれて40分ほどで立ちあがろうとしたが、転んだ。そして、運悪く母キリンの糞尿のなかに顔を突っ込んで、顔がウンコだらけになってしまった。それを見かねた飼育員が、キリンの子の顔をタオルできれいに拭いてあげた。すると、キリンの子は人の方にばかり近づいてくるようになった。
これは大変だということで、職員は全員キリンの檻から離れた。しかし、キリンの子は母キリンのお乳を飲まないで死んでしまった。(亀井、1985, p.52)

キリンの子が人の方にばかり近づいてきたというのは、「人という種」を刷り込んだことを示している。「人という種」を刷り込んだので、母キリンのお乳を飲まないで死んでしまったのである。

■ カバの子の刷り込み

1961年、神戸市立王子動物園でカバの子が生まれた。プールで生まれたカバの子は、父カバのそばから離れなかった。そこで、父カバを違うプールに移したが、カバの子は母カバの乳を飲まないで死んでしまった。

自然界では、母カバは群から離れて出産するが、このときは飼育員が油断して、父カバを違うプールに移していなかった。(亀井、1992, pp.139-140)

カバの子が父カバのそばから離れなかったのは、父カバを刷り込んでいたことを示している。キリンの子は視覚で「人という種」を刷り込んでいる。しかし、プールで生まれたカバの子は嗅覚(匂い)で父カバを刷り込んでいる。嗅覚による刷り込みは始めから頼るべき母親を特定している。それで、カバの子は父カバのそばから離れないで、母カバの乳を飲まなかったのである。

この2つの例は、哺乳類の早成種であるキリンの子やカバの子が生後早期に母親の後を追いかけるようになるのは、母乳を求めるという食欲ではなく刷り込みによることを示している。

■ 子ネコの刷り込み

キリンやカバのような生後早期に走れるようになる早成種の子どもは、後追い行動で刷り込みをしたことを確認できる。しかし、人間のような生後早期はほとんど動けない晩成種の子どもは、どうか?

人間とおなじ晩成種であるネコの子が刷り込みをしていることを示す。
(※以下、一人称は白石氏を指す。)
我が家は、ほとんどいつもメスネコを飼っている。それで、母ネコの子育てと子ネコの成長から多くのことを学んでいた。

母ネコが子ネコを産む前に、段ボール箱の横に穴を開けた出産場所(巣箱)を作る。母ネコはいつも私が作った巣箱のなかで子ネコを産んでいた。
子ネコが生まれて数時間して巣箱の穴から中をのぞくと、入り口の近くにいた子ネコが「フー!」と怒って、まだ歯は生えていないが威嚇するしぐさをした。生まれたばかりの子ネコはまだ目は開いていない。母ネコの匂いとは異なる匂いが急に接近してきたので威嚇したのである。しかし、ほぼ1回で怒らなくなった。

子ネコは生まれて1週間過ぎに目があく。目があいたころに巣箱の穴から中をのぞくと、私のことを怒らなくなっていた子ネコが私の顔を見て「フー!」と威嚇した。今度は、母ネコとは異なる顔が急に接近してきたので威嚇したのである。これも、ほぼ1回で怒らなくなった。子ネコは威嚇する必要がない安全な対象だという学習が非常に早い。

ある夏、母ネコが子ネコを5匹産んでから3時間ほどして、水を飲みにお風呂場に行った。(お風呂場の洗面器に水が入れてある)
そこで、子ネコを1匹、巣箱の穴から10センチほど離れた外に出した。子ネコは「にゃー」と小さな声で1回鳴いて、鼻を上に向けてしばらく匂いを嗅いで、それから巣箱に向かって這って行って巣箱にもどった
次に出した子ネコも、「にゃー」と小さな声で1回鳴いて、鼻を上に向けてしばらく匂いを嗅いで、這って行って巣箱にもどった

生まれたばかりの子ネコは巣箱から出すと、巣箱の匂いを嗅いで、巣箱に這ってもどった。巣箱には母ネコの匂いが充満している。したがって、子ネコが母ネコの後を追いかけたことになる。そして、子ネコが母ネコの匂いを刷り込んでいたことを示している。
また、巣箱から10センチほど出しただけで「にゃー」と鳴いたというのも、母ネコの匂いを刷り込んでいることを示しているはずである。

子ネコは生後早期に母ネコの匂いを刷り込む。そして、生まれて1週間過ぎに目が開くと、母ネコの顔を刷り込むのである。

子ネコが私を威嚇するという強い拒否はすぐに消えた。しかし、顔をそむけて私の顔を見ないという軽い拒否はしばらく続いた。

そんな子ネコも、生後5週ごろになると、私と目を合わせるようになる。また、私の膝の上で眠るようになる。私がベランダに行くと、子ネコもベランダについてくるようになる。刷り込みによって生まれた母ネコへの信頼が私にも広がっている。

ローレンツは、鳥を刷り込んだハイイロガンのヒナは、人がどんなに努力をしても人の後を追いかけるようにはならないと書いた。しかし、刷り込みによって生まれた母ネコへの信頼が飼い主にも広がるのがネコの特徴である。

以上、哺乳類の早成種であるキリンの子やカバの子だけではなく、晩成種のネコの子も生後早期に刷り込みをしていることが分かった。

次回は、いよいよ人間の赤ちゃんの刷り込みです。


白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。

第一部 自閉症の原因と予防
  第1章 自閉症の原因
  第2章 刷り込み
  第3章 新生児室
  第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
  第5章 自閉症の正しい理解
  第6章 後期発症型の自閉症
  第7章 恐怖症の治療
  第8章 恐怖症の治療と教育


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