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お産と自閉症 赤ちゃんの刷り込み

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.05.09配信のメルマガ内容です。

前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。


これまでに分かったこと

  • 一般に「母親への信頼は刷り込みである。刷り込みがないと信頼がおけず、母親への甘えもなく、傍にいても安心できず不安が生じ、さらには恐怖を感じるようになる。恐怖のために同一性に固執し孤立する」

  • 「鳥では、刷り込みには、母親を特定するだけではなく、自分が属する種や、仲間の種や、繁殖相手の種を特定する機能があることが分かっている。また、自分の種への共感能力が生まれるという機能がある」

  • 「哺乳類でも、早成種であるキリンの子やカバの子だけではなく、晩成種であるネコの子も生後早期に刷り込みが生じている」

2-3. 赤ちゃんの刷り込み

人間の赤ちゃんは刷り込みをしていないとこれまで考えられてきた。しかし、赤ちゃんが刷り込みをしていることを示している例を3つのカテゴリーで紹介する。

1. 母親への選好

【母親の匂い】
ベビーベッドにいる生後数時間の新生児の顔の左右に、自分の母親の身体や母乳や羊水の匂いを染み込ませた脱脂綿と、ほかの母親の匂いを染み込ませた脱脂綿を置くと、新生児は自分の母親の匂いがする方を向いた。(フィリップ・ロシャ、2004, p.88)

この実験で、新生児が生後数時間で、母親の匂いをほかの母親の匂いと識別できるだけではなく、母親の匂いが好きになっているということが分かった。

【母親の顔】
赤ちゃんがおしゃぶりを吸うと映像が流れるという装置で実験をしたところ、生後12〜36時間の新生児が、ほかの女性の顔の映像を見るためよりも、自分の母親の顔の映像を見るためにおしゃぶりを良く吸った。(同、pp.146-147)

この実験で、生後12~36時間の新生児が、母親の顔をほかの女性の顔と識別できるだけではなく、母親の顔が好きになっていることが分かった。

【母親の声】
ソニーの創立者のひとりで幼児教育にも尽力した井深大が、ベネズエラの国立産院での経験を書いている。

お母さんが出産で入院するのは三日間だけ。二日目に、赤ちゃんを真ん中にして、お母さんが一方から、反対側から他の人が、その子の名前を呼ぶ。何回やっても、お母さんの方を向く。お母さんに、「あなたと赤ちゃんとの絆がいかに強いか」ということの証拠を見せてあげる為に、行われている。(河合隼雄他編、1983, p.284)

(河合隼雄他編、1983)

赤ちゃんは生後2日で、匂いでも顔でも声でも母親をほかの女性と識別できる。そして、母親の匂いも顔も声も好きになっている。これは通常の学習では説明できない。人間の赤ちゃんも鳥類のヒナで発見された刷り込みをしていることを示している。

2. 新生児人見知り

小児科医の小西行郎(2003)から引用する。NICU(新生児集中治療室)にいた未熟児の例である。

未熟児の赤ちゃんは、いつもマスクをした看護師といっしょにいます。ある日、面会に来たお母さんを見て、赤ちゃんが泣き出したことがありました。そのお母さんにマスクをつけてもらったら、赤ちゃんは泣きやみました。赤ちゃんは、マスクをしている看護師をお母さんと思ったのかもしれません。こうしたことからも、人間の赤ちゃんにもインプリンティングがあることは確かです。(p.44)

小西行郎(2003)

マスクをした看護師の顔には口がない。口がない顔を刷り込んでいたので、口がある顔を見て泣いたのである。

マスクをした顔を刷り込んだ新生児が、マスクをしていない顔を見て泣いたりする現象を「新生児人見知り」と名づけた。

この赤ちゃんは母親に抱かれて問題なく退院したという。

マスクをした看護師の顔を刷り込んでも、ほとんどの赤ちゃんに刷り込みの障害は生まれない。

しかし、刷り込みに障害が生まれた赤ちゃんがいた。アスペルガーの夫婦が書いた『モーツァルトとクジラ』という本から引用する。

多くの親が報告することであるが、受胎後週数33週を過ぎる頃、20~30センチの距離で視線を合わせようとすると、子どもが視線を避ける傾向が観察される。同時期に眼球運動が開始され、おそらく見つめられる刺激はかなり強いという理由から、実際に子どもが視線を避ける現象が現れるのだろう。それを「子どもが嫌がっている」と読み取る親は多い。(p.30)

『モーツァルトとクジラ』

受胎後週数33週を過ぎるころ、未熟児は目が見えるようになる。そして、マスクをした看護師の顔を刷り込んでいたので、口がある親の顔を見ないように視線を避けたのである。

3. 新生児分離不安

日本でただひとり家庭出産をおこなっていた産婦人科医の大野明子(1999)から引用する。自宅で生まれて、出産直後からお母さんに抱かれていた赤ちゃんの例である。

体重を測り、洋服を着せるだけの間の、ごくわずかな時間、お母さんからほんの少し、30センチほど離されただけなのに、さっきまで静かだった赤ちゃんが泣いたりします。お母さんにもう一度抱っこされると、すぐ泣きやみます。(p.261)

大野明子(1999)

生まれたときは、赤ちゃんは誰がお母さんか知らないはずである。お母さんを刷り込んだからこそ、お母さんが好きになったのである。

クラウス&ケネル&クラウス(2001)もおなじ例を書いていた。
お母さんに抱かれていた新生児が、お母さんから離されると泣き、お母さんに戻されると泣きやんだ。

生まれて間もない赤ちゃんが頼るべき母親を特定していたということは、お母さんを刷り込んでいたことを示している。

「母親への選好」、「新生児人見知り」、「新生児分離不安」で例を挙げて、人間の赤ちゃんも刷り込みをしていることを示した。

人間の赤ちゃんも刷り込みによって頼るべき母親を特定している。したがって、自閉症の子どもに母親への信頼が生まれていないのは刷り込みの障害が原因である。

刷り込みに障害があると、母親への信頼が生まれていないだけではなく、多くの脳の機能に障害が生まれる。

それが自閉症と呼ばれている障害になるのである。

(以上白石さんの本から要旨を伝えています。どれも注目すべき内容です)

次回は新生児室です。


白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。

第一部 自閉症の原因と予防
  第1章 自閉症の原因
  第2章 刷り込み
  第3章 新生児室
  第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
  第5章 自閉症の正しい理解
  第6章 後期発症型の自閉症
  第7章 恐怖症の治療
  第8章 恐怖症の治療と教育


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