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Private 出産

SBSK自然分娩推進協会では、ご希望の方にメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ12号(2021.7.19)の配信内容です。

前回、頼るところもなく止む無く自宅出産をされたご夫婦のお話を書きました。

これを「プライベート出産」といいます。
どうしてこのようなことが起こったのか、このケースに関する課題を私なりに挙げて見ました。どうしてこのようなことが起こったのか、このケースに関する課題を私なりに挙げて見ました。

  1. 個々の事情によらず医師はガイドライン通りの対応で良いと信じている。

  2. 骨盤位牽引術の出来る現役医師が殆どいない、という実態がある。

  3. 医師はリスクのありそうなお産(結果的になくても)は帝王切開で良いと考えている。

  4. 助産師は助産師ガイドラインにより逆子の妊婦を扱うことを禁じられている。

  5. この患者にとっての最大の利益は何か、を考える場がない。

  6. 結果的に産婦が追い込まれ、「闇のお産」をせざるを得なくなった。

さらにこのご夫婦の場合、誰が生んだのかについて役所が事実だとして認めてくれるのか、大きな課題が残ったはずです。

順にコメントすると、

1.個々の事情によらず医師はガイドライン通りの対応で良いと信じている


ガイドラインでは、「十分な技術を持つスタッフが常駐していて、妊婦の同意を得ている。それ以外は帝王切開が望ましい。‥安全性の確保が十分でないと医療者が判断した場合は経膣分娩を提供しなくてもよい」ということで、多くの医者はもっぱら後半に重きを置くことになります。リスクを理解した上で逆子で生みたいと言われて、技術向上のせっかくのチャンスなのにもったいない話だと、私なら思います。江戸時代の御殿医(幕府や大名に召し抱えられた由緒ある医者)であれば、殿様の命令の範囲で最善の努力をしたはずで、この場合も患者さん一家はリスクを理解した上で、助けを求めているのだから現代の医者も最善の努力をしてあげればいいじゃないかと思います。既往帝王切開も同じです。

2.骨盤位牽引術の出来る現役医師が殆どいない、という実態がある

実は、逆子に対応できる産科医がいなくなったことが問題です。
大学病院や研修病院でも、技術を持った医師がリタイアし技術の伝承がなくなったのです。産婦人科といっても大学では、産科は研究部門としてマイナーで、癌や不妊症や分子遺伝学などをやりながらお産も手伝う、というスタイルです。産科でも胎児超音波の専門医制度はありますが、外回転術や骨盤位牽出術、回旋異常の整復などの技術に秀でた産科専門医などの制度はありません。これを作ることが急務のように感じます。回旋異常への対応は総じて開業助産師のほうがレベルは高いと思います。

産婦人科専門医の手技としては会陰切開、吸引分娩、ラミナリア、メトロ、コルポ、指導者の元で帝王切開くらいです。

3.医師はリスクのありそうなお産(結果的になくても)は帝王切開で良いと考えている

「頑張れ助産院」で書いたとおり、帝王切開は最高のお産ではなく、赤ちゃんを助けるための最終手段であり、子どもの成長発達を考えると、デメリットがあることは知っておかなければなりません。

ケニアの田舎の県立病院では助産師が「これは無理」と判断すると、一般(総合)外科医が帝王切開を引き受けます。産科医がいないのでスッキリしています。ケニアから帰ってから私はこれも捨てがたいシステムだと思うようになりました。

4.助産師は助産師ガイドラインにより逆子の妊婦を扱うことを禁じられている

助産師ガイドラインを守らない助産院は、助産師会から締め出されるだけでなく、医療保険や産科医療補償制度からも締め出され、事実上廃業せざるを得なくなります。しかし現実にこういう方が存在する以上、緊急避難的に助産師が駆けつける制度を認めるべきだと思います。

5.この患者にとっての最大の利益は何か、を考える場がない

ヒポクラテスの誓いの一つに「全ては患者の利益のために」というのがあります。もちろん「リスクがある以上帝王切開を薦めることが患者の利益」だという理屈もあるでしょう。しかし、実際に自宅で素人で無事生むことができたのですから、このケースに限れば「逆子=危険」という判断は間違いでありました。ガイドラインは不必要な帝王切開率の上昇に一役買っていたことになります。
「真のリスクと偽のリスクを選り分けることが確実にはできない」ということを認めて、患者さんの最大利益が何であるかを慎重に検討しないといけません。

しかし、何が正しいかを医師のみが決めてかかるのは倫理上問題があります。この場合は、院内に臨床倫理チームが必要で、そうすれば担当医師や助産師の悩みは解決され、法的追求からも解放されます。なぜなら裁判所はことの善悪の判断はしないしできないから、重要なのは「この患者さんにとって何が最大利益か」チームで検討し結論をだしたというプロセスです。
日本ではまだ殆どの病院でその体制が整っていませんが、これから整えて行くとよいでしょう。

まとめ

逆子の経膣分娩希望者はハイリスク妊婦ですから、病院で断られたといっても、助産院では扱えません。出張して応援することもできないので、止む無く自分で生むしかないのです。逆子だけでなく、病院で産みたくないとか前回ショックを受けて病院に行きたくない上に助産院も近隣にない、となるとプライベート出産をせざるを得ないことになります。その数は全国でみると2019年で296件だそうです(清泉女学院市川きみえ先生情報、実際にはもっと多いと推測されます)。

制度を頼れない上に、プライベート出産をした人は周囲から変人扱いされたり、嘲笑を受けたり、児童虐待者のように扱われることがあります。ですから放置することは法的・倫理的に大きな問題があります。緊急避難として地域の助産師が関わる事のできる体制を備えるべきだと思います。

またガイドラインに従うだけでなく、「患者さんの最大利益」に資するよう行政や助産師会や医師団体、地域のヘルスプロバイダーは、人権・倫理問題として議論を深めるべきであると思います。ガイドラインとは、変更されるためにあるもので、状況が変われば速やかに変更されるべきです。

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