見出し画像

お産と自閉症 新生児室②

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.05.14配信のメルマガ内容です。


前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。Amazonでも購入できます。

これまでに分かったこと

  • 一般に「母親への信頼は刷り込みである。刷り込みがないと信頼がおけず、母親への甘えもなく、傍にいても安心できず不安が生じ、さらには恐怖を感じるようになる。恐怖のために同一性に固執し孤立する」

  • 「鳥では、刷り込みには、母親を特定するだけではなく、自分が属する種や、仲間の種や、繁殖相手の種を特定する機能があることが分かっている。また、自分の種への共感能力が生まれるという機能がある」

  • 「哺乳類でも、早成種であるキリンの子やカバの子だけではなく、晩成種であるネコの子も生後早期に刷り込みが生じている」

  • 「人間の赤ちゃんも刷り込みによって頼るべき母親を特定している。したがって、自閉症の子どもに母親への信頼が生まれていないのは刷り込みの障害が原因である」

  • 「出産直後から母子同床であれば、刷り込みに障害が生まれる余地はない。それで、団塊の世代に自閉症の子どもはほとんどいない」

(新生児室誕生の裏側で)
小児科医と心理学者(の暴論) ※()は荒堀記

サイエンスライターのデボラ・ブラム(2014)から、新生児室が考案されたころの小児科医と心理学者の主張を紹介する。

■ 小児科医

当時の小児科医の第一人者はコロンビア大学のルーサー・ホルトだった。ホルトの『子どものケアと食事』という本は、1894~1935年まで15版も版を重ねていた。

それ以前のアメリカでは、両親はたいてい小さな子どもと同じ部屋や、同じベッドで寝ていたのだが、ホルトは陣頭に立って、子どもを別室で寝かせる改革運動を推し進めた。

赤ちゃんを親の寝室で寝かせてはなりません。
-(略)-
子どもにキスするほど悪いことがあるでしょうか
?(pp.53-54)

赤ちゃんを親の寝室で寝かせてはならない、愛情あふれる身体的接触もご法度、子どもにキスするほど悪いことがあるか、というのが当時の小児科医の第一人者の主張だった。
親をバイ菌の塊のように見なしていた。

■ 心理学者

当時の心理学の第一人者はジョン・ワトソンである。
ワトソンは、アメリカ心理学会の会長だった。ワトソンの『子どもと乳幼児の心のケア』という本は1928年のベストセラーだった。

ワトソンはまるまる一章を割いて「過剰な母性愛の危険性」について書き、あからさまな愛情は必ず子どもを「軟弱」にすると警告した。

子どもを抱きしめる親は、結局のところ、泣き虫で無責任な依存心の強い人間のクズを作ることになるのだ。(pp.58-59)

あまりにも幼稚な心理学だった。しかし、それまでの軽薄な心理学を科学に基づいた自然科学の一分野にしたともてはやされた。
また、病気予防のための「接触禁止」というポリシーとも辻褄が合っていたので、ワトソンは医学界でも英雄になった。

小児科医の第一人者は、赤ちゃんを親と一緒に寝かせてはならないと主張した。
心理学の第一人者は、親が子どもを抱きしめると子どもは人間のクズになると主張した。

当時の小児科医と心理学者が新生児室を普及させたのである。

3-2. 消耗症と自閉症

■ 孤児院と感染症

デボラ・ブラム(2014)によると、1915年の調査でアメリカの孤児院の乳児死亡率は100%に近かった。孤児院の乳児死亡率が高かったのは、感染症が原因だと考えられていた。

それで、孤児院は感染症の対策をしていた。
デボラの本から、ルネ・スピッツの研究を引用する。
(ルネ・スピッツは孤児院の子どもと刑務所内の保育園の子どもをそれぞれ4か月間観察した論文を書いた)

輝くばかりに清潔で、子どもたちは、吊り下げられたシーツで隔てられたベビーベッド――スピッツの言うところの「独房」――の中に寝かされていた。
孤児院では子どもへの「接触禁止」が遵守されていた。子どもたちに見えるのはいつでも天井だけだった。
感染症に対する「非の打ちどころがない」防衛態勢にも関わらず、子どもたちはひっきりなしに病気にかかった。
対照的に、刑務所の保育園は、大きな部屋にはおもちゃが散乱し、子どもたちはしょっちゅうぶつかっては転んでいた。
そこでは、母親が自分の子どものそばで、一緒に遊ぶことが許されていた。-(略)-スピッツの研究期間中、そこでは子どもがひとりも死ななかったのである。(p.75)

孤児院では感染症対策として子どもへの「接触禁止」が守られていた。それにもかかわらず、4か月で88人中23人の子どもが感染症で亡くなった。

それに対して、刑務所の保育園では、4か月でひとりも亡くならなかった。
なぜ感染症の対策をしていた孤児院で多くの子どもが亡くなっていたのだろうか。

■ 消耗症

1943年に、マーガレット・リッブルの『乳児の精神衛生』という本がアメリカで出版された。この本から引用する。

数年前までは、子どもの病気のなかでは消耗症(marasmus)という名で知られていた病気が、一番厄介な問題のひとつでした。-(略)-
研究の結果、次のような驚くべき事実が発見されたのでした。
それは、最もよい家庭や病院で、最も注意深く身体的に保護を受けた乳児が、しばしば、徐々に死んでゆくのに反して最も貧しい家庭の乳児でも、母親がよければ、貧乏と非衛生というハンディキャップにうちかって、元気のよい子どもになっていくということです。(pp.10-11)

リッブルは、「欠けていたのは“母親の愛情”である」と書いている。

しかし、母親の愛情が欠けていたというよりは、ほとんど抱かれないで寝かされていたのが原因だった。

消耗症になった赤ちゃんを抱くようにしたら治ったのである。

孤児院で100%近い乳児が1歳前に亡くなっていたのも消耗症が原因だった。感染症対策の「接触禁止」という方針で、孤児院にいた乳児はほとんど抱かれないで寝かされていたからである。

しかし、なぜ赤ちゃんは抱かれないで寝かされていると亡くなってしまうのだろうか。デボラ・ブラムの本から引用する。

「生まれて最初の数週間か数か月、哺乳類は母親の世話がなければ生き残れない。そのため、母親との接触が長時間途切れると(たとえば、ラットでは45分以上途切れると)、赤ん坊の代謝が遅くなる」と彼は書いた。
母親不在のとき、赤ちゃんラットは少しのエネルギーしか使わなくなる。そうすれば、赤ちゃんは母親ともっと長く離れても生き延びることができるわけだ。(p.369)

母親が不在のときに赤ちゃんの代謝が遅くなるのは、哺乳類の赤ちゃんが母親の不在を生き延びるための戦略である。

小林登(1993)の実験で、このことが明らかになっている。
小林はサーモグラフィーで生後2~3か月の赤ちゃんの心を見ることを思いついた。お母さんと一緒にいるときの赤ちゃんの顔の温度は、額の部分が1番高くて約37度だった。

お母さんにそっと部屋から出てもらうと、赤ちゃんの額の温度が1度ほど下がった。これは、額の下にある脳の血流が低下したことを示している。(pp.109-110)

生後2~3か月の赤ちゃんは、母親がいなくなっても泣かない。

脳の血流が低下して、静かに寝ている。これはエネルギーの消費を抑えて、母親の不在を生き延びるための戦略である。

しかし、ほとんど抱かれないでいると、赤ちゃんは代謝機能が低下して亡くなっていたのである。

■ 消耗症と自閉症

マーガレット・リッブルの本がアメリカで出版されたのは1943年である。レオ・カナーが自閉症の論文を発表したのも1943年である。

最もよい家庭の赤ちゃんが消耗症で亡くなっていた。そして、知的で裕福な家の子どもが自閉症になっていた。おなじ時期におなじ階層の子どもが、消耗症になったり、自閉症になったりしていた。

なぜ、最もよい家庭の子どもが消耗症になったり、自閉症になったりしていたのだろうか。

知的で裕福な親は病院で子どもを産んで、子どもを新生児室に入れていたので、そのうちの一部の子どもが自閉症になったのである。

また、自宅でも、子ども部屋に赤ちゃんを寝かせてほとんど抱かなかったので、そのうちの一部の子どもが消耗症になって亡くなったのである。

しかも、赤ちゃんが亡くなったのは感染症が原因だと考えられていたので、知的で裕福な親は子どもが感染症にかからないように、ますます我が子を抱かないようにしただろう。
知的で裕福な親はしかし、我が子が健康に育つことを願ったからにほかならない。
小児科医や心理学者の主張に従ったのは親が知的だったからである。そして、病院で子どもを産んだのは親が裕福だったからである。

それで、カナーが自閉症の診断をしていた当時、自閉症の子どもの親は知的な富裕層にかたよっていたのである。

■ 新生児室の普及

消耗症の原因がわかったことで、乳幼児の隔離はおこなわれなくなった。しかし、新生児を隔離する新生児室は残った。

そして新生児室は世界中に普及し、日本にも普及したのである。

生まれたばかりの赤ちゃんを新生児室に隔離したのが、子どもが自閉症になった原因である。

しかし、ほとんどの赤ちゃんが自閉症にならなかったので、新生児室に隔離したことが自閉症の原因だということがわからなかったのである。

自閉症の子どもに母親への信頼が生まれていないのは、生まれた赤ちゃんを母親からはなして新生児室に入れるといった、病院の出産環境がおもな原因である。

(以上白石さんの本から要旨を伝えています。立場によっては異論もあるかも知れませんが、どれも注目すべき内容です)

次回は病院出産の問題です。


白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。

第一部 自閉症の原因と予防
  第1章 自閉症の原因
  第2章 刷り込み
  第3章 新生児室
  第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
  第5章 自閉症の正しい理解
  第6章 後期発症型の自閉症
  第7章 恐怖症の治療
  第8章 恐怖症の治療と教育


動画コンテンツ、DVD販売中です!

SBSK制作の動画コンテンツ「自然なお産の再発見 ~子どもの誕生と内因性オキシトシン~」は好評発売中です!
DVDでの購入は SBSK-momotaro's STORE からどうぞ!
動画配信でご覧になりたい方は memid.online よりご購入ください!

2023年2月18日開催の講演会「頑張れ助産院 自然なお産をとり戻せ」のアーカイブ動画をDVDとして販売しております。

数量限定のため、売り切れの際はご容赦ください。
ご購入は SBSK-momotaro's STORE からどうぞ!


こちらもどうぞ。
SBSK自然分娩推進協会webサイト
メルマガ登録(メールアドレスだけで登録できます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?