後期発症型の自閉症①
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.06.02配信のメルマガ内容です。
前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。Amazonでも購入できます。
第6章 後期発症型の自閉症
自閉症は早期発症型と後期発症型という2つのタイプがある。しかし、後期発症型は自閉症ではなく、幼児期における全面的恐怖症の発症が原因である。
(日本では、後期発症型の子どもは発達が途中から後退するので折れ線型自閉症と呼ばれている)
早期発症型は、赤ちゃんのときにお母さんと目を合わせなかったり、お母さんが赤ちゃんを抱こうとしたときに抱かれることを予期した反応を示さなかったりといった、生後早期から刷り込みの障害が現れているタイプである。
後期発症型は、お母さんと目を合わせて笑うなど、母子関係が生まれていて言葉も出ていた幼児が、母親を求めなくなり、言葉がなくなり、自閉症と診断されるタイプである。
しかし、後期発症型は、発症するまでは母子関係が成立しているので、母親を刷り込んでいる。
だから、後期発症型の自閉症の子どもは全面的恐怖症の治療をおこなうと自閉症から回復する。
6-1.後期発症型の自閉症
後期発症型は重度の自閉症の約3分の1と言われている。
これまで、後期発症型の自閉症の子どもは重度のままだと考えられていた。しかし、劇的に改善する子どもがいることがわかってきた。
■ アン‐マリーとミシェル
キャサリン・モーリスの『わが子よ、声を聞かせて』という本は、後期発症型の自閉症を発症した姉のアン‐マリーと弟のミシェルが自閉症から劇的に回復したという闘いの記録である。
アン‐マリーは赤ちゃんのころ、ひとりでじっと座っておとなしく遊んでいた。手のかからない赤ちゃんだった。しかし、よく泣いた。
母親のキャサリンがアン‐マリーを初めて歩行器に入れようとしたとき、アン‐マリーは体がこわばって恐怖に脅えているようだった。キャサリンは、アン‐マリーが泣く理由のひとつは、慣れないものに対する恐れがあると気がついた。
ひとりでおとなしく遊んでいて、慣れないものへの恐れがあったというのは、刷り込みの障害がうかがえる。
1歳3か月のアン‐マリーには親子関係が生まれていた。
したがって、レオ・カナーが自閉症の診断基準にしていた「孤立」という特徴にはあてはまらない。
しかし、アン‐マリーが1歳半になるころ、お母さんのキャサリンは心配になってきた。
1歳半の検診で病院に行った。
アン‐マリーは1歳半のときは自閉症であることを否定されたが、3か月後の1歳9か月のときは自閉症の診断基準を満たすようになっていた。
次は弟のミシェルである。
ミシェルは社交的で抱っこが好きだった。1歳の誕生日には「ノー」が言えた。
しかし、それから言葉はほんの少ししか増えなかった。
1歳半のときは、つま先歩きが少し増えてきて、両親以外の人にはあまり興味を示さなくなっていた。
ミシェルは、1歳7か月のときは自閉症とは診断されなかったが、5か月後の2歳のときに自閉症と診断された。
アン‐マリーは赤ちゃんのころ、ひとりで遊んでいて慣れないものを怖がるなど、多少は刷り込みの障害をうかがわせる行動があった。
しかし、1歳のころのミシェルには、刷り込みの障害をうかがわせるような行動はなかった。
■ 発症の契機
アン‐マリーやミシェルは、特にこれといったきっかけ(契機)はなく、徐々に後退して自閉症と診断された。
しかし、北畠道之(1993)とフランスのアルフレッド・ブローネ(1993)から自閉症を発症した契機をまとめた。
母の入院
なついていたお手伝いさんがやめた
祖父母の死
弟や妹の誕生
引っ越し
突然の激しい恐怖(注射、予防接種、サイレンの音)
耳炎、小児特有の病気, 外科手術
したがって、ショックやストレスが契機になって自閉症を発症したことになる。
■ 全面的恐怖症の発症
ラッセル・マーティン著、『自閉症児イアンの物語』のイアンは、抱っこが好きで、愛嬌のある子どもだった。そして、生後11か月で歩くなど、発達にも問題はなかった。(ただし、1歳6か月で初めて話した言葉はママでもミルクでもなくCOW(牛)だった)
イアンは1歳7か月のとき、3種混合ワクチンの4回目を受けた。それからぐっすり寝て、起きたのは翌朝だった。
翌朝、イアンは元気だった。しかし、以前とはまったく違った子どもになっていた。
イアンは様々なものに怯えるようになった。全面的恐怖症と言えるほど広範囲に恐怖が広がっていた。
また、覚えている道から車が少しでもそれると激しく泣いたり、決まったものしか食べなくなったり、寝るまでの手順も決まっていたりといった同一性の固執も生まれていた。
同一性の固執が生まれていたのは、イアンの世界が恐怖の世界になっていたことを示している。
イアンは3種混合ワクチンの接種が契機になって全面的恐怖症を発症し、自閉症と診断された。
したがって、後期発症型の自閉症は全面的恐怖症の発症が原因になっている。
■ パニック障害
恐怖症として代表的なものにパニック障害がある。おもに青年期に発症するが、子どもも発症することがある。
発症の契機は、身近な人の死、ペットの死、両親の離婚などのショックやストレスになる出来事だけではなく、睡眠不足や疲労なども発症の契機になる。
パニック障害を発症する契機と後期発症型の自閉症を発症する契機は、ショックやストレスという点で共通している。
また、睡眠不足や疲労などでも発症するというのは、特に発症の契機がないアン‐マリーやミシェルの例と重なる。
したがって、2人とも始めになんらかの恐怖症を発症し、その恐怖症が徐々に広がって全面的恐怖症になり、自閉症と診断されたと推測できる。
6-2. 全面的恐怖症と自閉症
■ 恐怖と意識
私(※白石氏)が中学1年生のときである。
家の近くを流れる川の上流に、山田の滝と呼ばれている滝があった。夏のある日、友だち5、6人と山田の滝に泳ぎに行った。
友だちの1人は、滝壺から10メートルはあろうかという滝の一番上の崖から滝壺に飛び込んだ。
私も崖に登ったが、一番上から飛び込むなんて、あまりにも危険に思えてとても無理だった。
そこで、3メートルぐらいの高さにある岩棚から飛び込むことにした。
それでも、飛び込もうとしても、飛び込もうとしても、恐怖で身体がすくんで飛び込めなかった。
そこで、飛び込むことを意識しないようにした。
「飛び込まないよ! 立っているだけだよ!」という振りをした。
そして、周りの景色を、「いいながめだな! 綺麗だな!」とながめた。
そして、ひょいっと、飛び込んだ。
そのあと数回おなじようにして飛び込んだが、恐怖が湧いてこなくなった。
■ 意識の遮断
怖いことを意識すると恐怖が湧いてくる。
しかし、怖いことを意識しなければ恐怖は湧いてこない。
幼児が全面的恐怖症を発症すると、この何も意識をしないという戦略を採用するのである。
意識を閉ざすというのはどういうことなのか。
私(※白石氏)は学生時代に座禅の修業をしたことがあるので、30秒ぐらいなら意識を止めることができる。しかし、意識をずっと止めていることはできない。
おそらく、言葉を身につける過程にいる幼児は、何も意識しないという戦略を容易に採用できるのであろう。
たとえば、戦争で悲惨な経験をした人は戦争の話をしない。
悲惨な記憶がよみがえるから戦争のことを話せないのである。
記憶を封印しているのは脳の働きである。
全面的恐怖症を発症した幼児も、脳が全面的に意識を遮断することで、恐怖を感じないで生きていけるようになる。
しかし、全面的に意識が遮断されているので、言葉が使えなくなる。
それで、言葉が消えてしまうのである。
また、全面的恐怖症を発症した幼児は、家のなかでさえも恐怖の世界である。
通常であれば、幼児は母親のそばにいれば安心が生まれる。
しかし、この場合は、母親のそばにいても、母親に抱かれても、安心が生まれなくなる。
幼児が全面的恐怖症を発症すると、言葉が使えなくなり、母子関係がなくなり、ほとんど何もできなくなる。
こうして、自閉症の診断基準を満たすようになり、自閉症と診断されるのである。
荒堀より、雑感
今回は「後期発症型の自閉症」でしたが、私(荒堀)がかつていくつかの病院の思春期外来で遭遇した「不登校」の事例の多くもこれに似ているような気がして、興味深く読みました。
不登校問題は小学校や中学校に入ってからなので、状況は少し異なりますが、母親への信頼感や安心感が低かったのは共通していたと思います。当時は母親や家庭のあり方が議論されましたが、母親の刷り込みの失敗とそれによる子どもの恐怖心が原因と考えると、違った対応ができた可能性があります。
次回は「後期発症型の自閉症②」です。
白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。
第一部 自閉症の原因と予防
第1章 自閉症の原因
第2章 刷り込み
第3章 新生児室
第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
第5章 自閉症の正しい理解
第6章 後期発症型の自閉症
第7章 恐怖症の治療
第8章 恐怖症の治療と教育
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