自閉症の正しい理解⑤
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.05.29配信のメルマガ内容です。
前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。Amazonでも購入できます。
5-5. 感覚過敏と感覚鈍痲
■ 感覚過敏
感覚過敏は自閉症の人たちが自伝を書くようになってから注目されるようになった自閉症の特徴である。
テンプル・グランディンの自伝(1994)から引用する。
自閉症の人は聴覚や味覚や嗅覚が鋭い人が多い。それで、自閉症の人たちが多くの物事を怖がるのは感覚過敏が原因だという解釈が生まれたのである。
しかし、ネコはゴキブリの足音でさえも感知して、ゴキブリをつかまえるほど聴覚が鋭い。
また、ほとんどの動物は水でさえも匂いで見つけるぐらい嗅覚が鋭い。
このような聴覚や嗅覚が鋭いことは、動物の生活に役立つことはあっても、生活に困るということはないはずである。
盲導犬は聴覚も嗅覚も鋭いが、騒々しい街でも落ち着いて歩くことができる。
自閉症の人が突然の大きな音でパニックになるのを聴覚過敏が原因だと解釈したら、それは間違いである。
また、いつも食べている物と違う物を食べないのを味覚過敏や嗅覚過敏が原因だと解釈したら、それも間違いである。
自閉症の人が突然の大きな音でパニックになるのも、いつも食べている物と違う物を食べないのも、自閉症の人の世界が恐怖の世界だからである。
これまで、母親への信頼が生まれていない自閉症の子どもの世界が恐怖の世界だということが理解されていなかった。
それで、自閉症の人が様々な物事を怖がるのは感覚過敏が原因だという誤解が生まれたのである。
■ 感覚鈍痲
グニラ・ガーランド(2000)は、第1章で書いたように、怒りも痛みも感じない。また、アクセル・ブラウンズ(2005)は痛みも熱さも冷たさも感じない。
注射も平気で、看護師さんから我慢強いとほめられた。
しかし、我慢していたのではなく、痛みを感じていなかったのだ。
また、熱いお風呂に入って身体が赤くなっても平気で、冷たい海に入っていても平気である。
痛みも熱さも冷たさも、アクセルの意識には届いていない。
グニラもアクセルも感情や感覚の一部が意識に届かないように遮断されている。
こういった感情や感覚の鈍さが感覚鈍痲と呼ばれている。
自閉症の子どもエリーのお母さんクララ・パーク(1976)から引用する。
エリーは消防自動車のけたたましい音にまったく反応しなかった。
突然の大きな音にまったく反応しなかったのは、脳が恐怖を感じないように音を遮断していたからである。
自閉症の子どもは突然の大きな音でパニックになることもあるが、突然の大きな音にまったく反応しないこともある。
遮断できる音には個人差がある。
自閉症の子どもの世界は恐怖の世界である。
その恐怖の世界を自閉症の子どもは何も問題ありませんというポーカーフェイスでサバイバルしている。
これは、恐怖の世界をサバイバルするために脳が編み出した戦略である。
それで、多くの自閉症の男の子は、何不自由なく幸せに育った貴公子のような整った顔立ちになる。
多くの自閉症の女の子は、妖精のような美しい子どもになる。
感覚鈍痲は刷り込みの障害にともなう恐怖が原因で生まれる。
5-6. 恋愛感情の欠如
刷り込みには、性刷り込みと呼ばれている繁殖相手の種を特定する機能がある。
自閉症の人は刷り込みに障害があるので、人という種を繁殖相手として特定していない。
それで自閉症の人は人に恋をするという恋愛感情がない。
アスペルガーの夫婦が書いた『モーツァルトとクジラ』という本によると、夫婦が所属していた自閉症の当事者の会では、女性会員は結婚している人が大半で、半数以上に子どもがいて、孫がいる人もいた。
自閉症の女性は求婚されると、疑うことを知らないのと断るのが苦手なので、結婚している人が多いと著者は書いていた。
それに対して、男性で結婚している人は80人に1人だった。(pp.265-269)
このアスペルガーの夫婦は、1回目の結婚生活はお互いに相手に干渉しすぎて、お互いが苦しくなって破綻している。
しかし、その後よりをもどし、2回目の結婚生活はお互いに相手の世界を尊重して暮らしている。
生殖は、ほとんどの種にとって最大といっても過言ではない重大なイベントである。
普通の人は思春期になると、恋愛や性的なことに関心を持つようになり敏感になる。
しかし、テンプル・グランディンは、「恋に落ちて有頂天になるということがどんなことかわからないのです」と、オリヴァー・サックスに語っている(オリヴァー・サックス、1997, p.298)。
テンプルには恋愛感情がない。
アクセル・ブラウンズ(2005)は、色々な人から彼女はいるかと聞かれるので、「彼女がいますといえるようになるために、彼女が欲しい。それ以上のものはいらなかった」(p.387)と書いている。
彼女が欲しかったが、性的な関心はなかった。
アクセルは女の子が可愛いかどうかを判断する感覚を持っていない。19歳の夏休みに家族と休暇で海に行ったとき、アクセルに彼女ができた。
お兄さんから彼女は可愛いかどうか聞かれたが、可愛いかどうかわからないのを隠すため、「明日一緒に海岸に行って、自分で見てみたら」と返事をして切りぬけた。
翌朝、お兄さんはアクセルの彼女を見て、言葉が出なかった。
とんでもなくかわいかった。(pp.415-416)
アクセルが夜の散歩をしていると、その彼女がカメラマンの男と2人で歩いているのを見かけた。そして、カメラマンにちっとも嫉妬しなかったことに気がついた。
アクセルには、恋愛感情も、嫉妬という感情もない。
これは、妻帯をしない聖職者のようなものである。
自閉症の人には恋愛感情がないが、軽度の自閉症の女性は男性がプロポーズをするので結婚している人が多い。
それに対して、男性は自閉症が軽度でも結婚している人は少ない。
カナーの本(1978)では、結婚していて子どもがいる男性が1人報告されている。
これは、子どものころに重度の自閉症だった人でも結婚した男性がいることを示している。
以上、自閉症の代表的な6つの特徴(自閉症の正しい理解①に記載)は刷り込みの障害によって生まれることを示した。
自閉症の特徴は、
教育によっておぎなう必要があるものと、
安心の世界を広げる支援で解消できるものと、
変えることができないもの
という、3つに分けて考える必要がある。
自閉症の子どもは刷り込みに障害があるが生まれつきの障害はない。
もちろん、生まれつきの知的障害もない。
パソコンに例えると、普通の子どもとはインストールしたソフトがちがうようなものである。パソコン本体に障害はない。
自閉症の子どもは普通の人とはソフトがちがうので、普通の人によって構成されている社会に適応するのに苦労する。
自閉症の子どもは普通の子どもよりも多くの教育が必要である。
また、安心の世界を広げる支援も必要である。
しかし、適切な教育と支援があれば、自閉症は恐れるような障害ではない。
大人になったときに自立していれば、自閉症は障害ではなく個性になるのである。
次回は「後期発症型の自閉症」です。
白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。
第一部 自閉症の原因と予防
第1章 自閉症の原因
第2章 刷り込み
第3章 新生児室
第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
第5章 自閉症の正しい理解
第6章 後期発症型の自閉症
第7章 恐怖症の治療
第8章 恐怖症の治療と教育
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