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鏡の前に立つ、その男を見つめなければいけない

ホテルで扱うプロダクトをセレクトするために淡路島リサーチに出かけた。たった1日で高濃度な出会いに考えがぐるぐる巡る。ここでは暮らしと仕事が気持ちよく握手しているような不思議な空気がある。

いや、暮らしから仕事が伸びているのか。なんしか地続きな景色を見た。秋の心地よい風が吹き遠く鳥が風に乗り停滞している。薄らと空に浮かんでいた月は徐々に存在を増し紫色と青の間の名前のない色に染まる風景を眺めていた。

都会と島では忙しさが違うとは思っていない。どこにいたって忙しない人はいるし、自分の速度をしっかり持っている人もいる。僕は確実に前者になっており、かつては後者だったのになと反省する。そうなったのにはいろんな理由もあるし決してシンプルではないけれど、今の慌ただしさに不安を感じたのも確かだ。

このふわりと水面に浮上したような不安をじっくり見つめて考えている。これはなんなんだろうと。

月に一度しか開かない「よかちょろ酒場」という店がある。車を走らせ山を登る。こんな先に飲み屋なんかある訳ない…と確信までにいたったころに現れるこの風景。


絵本かよ!と思わず突っ込んでしまうほどの風景だった。周りは闇夜で鈴虫たちが合唱し、木々が描き風でざわめく。人より自然が圧倒的に強い時間帯に灯りをともし、賑やかな空間が浮かび上がる。空は星がひしめき合っていた。そちらから見ると、ここもその光の一点なのかもしれない。

おいしく楽しく美しい時間を終えるのは食材が尽きて酒も飲み干したころ。自然と散開していくお客さんたち。みんな仕事の話をしたり、笑い話をしたりと、音も良かった。音量は控えめにキッチンから夏の終わりの音楽が流れている。

車から真っ暗な海を眺めて、じっくり考える。自分の仕事、流れる時間、動く感情にもっと真摯に向き合わなければいけない。月の光が墨汁みたいな瀬戸内海でぬらぬらと光を映していた。

僕の周りには、派手にぶち上げる人もいる。
同時に湖畔でじっくり向き合う人もいる。

僕は何を望むのか。何度考えても後者だった。どのように生きるかを考えることは、自分の周りとどう向き合うかと同じなのだろう。強がるわけでもなく鏡の前に立つ、その男を見つめなければいけない。忙しさにかまけて、そのような時間を捨て去っていたのだと気付かされた。

移動は出会いを運び、出会いは対話を生み、対話は気づきを与える。とても勉強になったリサーチでした。お時間くれた皆さんに感謝。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。