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銭湯の先生たち

老人に学ぶべきことの多さに驚いている。僕の倍ほど生きている先輩たちなので当たり前だが、それだけ生きてるからこそ気づけたことや、もう取り返しがつかないことをたくさん教えてくれる。僕は彼らを先生と読んでいる。

平常運転時には週に1回、多忙極まる時には週に最低2回は銭湯にいく。疲れを癒しにいくことが目的であったが、ここのところ別の目的がある。先生たちに会いにいくためだ。

常連たちのルーティンはDNAに刻まれているのか?というくらい正確だ。僕は大体8時か9時台に銭湯に向かうと、毎度決まった先生たちがいる。お疲れ様ですと挨拶したり、会釈をしたり、各々と僕のコミュ力ごとに程度は異なる。

「にぃちゃん、学生か?」という嬉しいのかどういうリアクションしていいのかわからない会話から始まる。「この時間帯よーいるよな」という具合だ。全然おっさんです。40歳。もう歳を取るとたいていが若者で本当の若者との差異は銭湯マナーらしい。「あんたはよーできてる」というお褒めの言葉から仲良くなる。そりゃ大学から銭湯使わせていただいているので軽く20年選手だ。

サウナや湯船で人生の何たるかを教えてくれる。あと今流れている歌謡曲の時代背景も。これがまたいい。居酒屋のカウンターかスナックで仲良くなった先輩としかできないと思っていた会話が銭湯でできる。俺得である。

この前、木工所の仕事をされていた先輩が熱く語ってくれたのが「自分のやっていることを信じるな」というパワーワードだった。これは結構銭湯で電撃が走った。

自分がやっている仕事も技術も正しい・必要とされていると思ってずっとやってきた。これは自分の天職だと信じていたし、それに没頭した。これがあかんかった。今、まわりみてみー兄ちゃんが知らないところでワシみたいなもんがたくさん仕事を失っている。かつては断る仕事の方が多かったくらいだったのが、今はもうそんな仕事はない。ワシは廃業できたからええけども、もう少し若かった連中はもう大変だ。

元木工所職人の先生

「兄ちゃんは、何の仕事や?」という困った質問にアイデアと考えてますみたいな回答をするとポカーンとさせちゃったけど、ガハハと笑って「その知らない仕事があることを知らないことが失敗だったんや」と肩をどつかれる。うわーなるほどなーーと深く共感した。おっさんのぼせるし先出るなといって先生はサウナを出ていく。松倉中年は大いなる気づきののち、震えるのだった。

あの先生、違う世界線の俺が教えに来てくれたのかもしれんとかSFチックな妄想をスイングさせたが、松倉の気づきを言葉にすると「自らのあったかもしれない可能性を殺すのは自分」ということだ。そして、没頭しがちな僕のような性格の人ほど、自分の正しさを信じきって生き続ける。他の可能性を疑うこともなくやってしまう。

目の前のことに夢中になって、はたと目を挙げると20年、30年経っている。目を挙げることができたのは、おそらくは仕事が減ってきたことへの違和感で周辺を見たのかもしれない。時すでに遅し、タイムスリップしたかのようにもう自分は時代の何かしらのニーズの端にも触れず佇んでいる。

とても怖い想像とわりかしありえそうな未来像にゾッとした。仕事を始めて20年ほど。ありがたいことに夢中になったまま、黙々と何かを作れてこれた。40歳になった時、心のどこかに疑問みたいなものが湧き出て、銭湯へ体力回復と考え事に足を運ぶようになった。アイデアを考えたり、経営を考えたり、いろいろだ。

そのササクレみたいな疑問なのかわからないものの答えは、銭湯であった先生たちが教えてくれるというミラクル。銭湯に呼ばれていたのかもしれないとすら思ったのだ。それ以外にも先生たちの話はたくさんある。話し出すとキリがないが先生は街のどこかに潜んでいる。大抵はタイガースの話が主軸なのでシーズンオフの際には人生の話も聞けるだろう。

多忙にかまけて仕事ばかりしている。
このままでもいいのだろうかという疑問を次のタスクが隠していく。
それでも心の片隅に生まれたササクレは放置せず、向き合うことが必要だ。その問いに向き合い続けることで、とあるどこかで誰かが神様のお告げのような言葉をくれる。

最近では、今の自分に他どのような可能性があるのかを考えている。
気づけば銭湯に1時間近く滞在し、銭湯グッズを脇に抱えて家路を辿る。
いつか俺も80歳を超えたらサウナで若者に声をかけよう。
そして、何かのお告げを授けよう。

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