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場への愛

ギュッと絞ると茶色い水がこぼれ落ちる。
期末に1人事務所の大掃除。気温は高くホコリが舞うのでクーラーはつけない。新品の雑巾があっという間に汚れていく。

打ち合わせをし、雑巾で乾拭き。また打ち合わせに出て次はワックス。事務処理を終えて二度塗りワックス。どんどんと綺麗になる床。新品みたいだ。床が綺麗になるにつれて僕は汗だくで汚れていく。さっきの雑巾みたいだな。

うちの社員もがんばったし、言葉を持たないこの秘密基地のような事務所も同じくらい頑張った。活かしきれないままの空間に少しずつ手を入れて子供のように成長していく不思議な空間。

たった8ヶ月ほどの歳月に本当にたくさんの笑い声と思い出が詰まっている。コロナの時の静寂も寂しさも大事に抱えて月日を越えていくのだろう。いろいろな感謝を込めて事務所のお掃除。

社長が朝イチで会社の掃除をするところも多い。その理由が分かった気がした。社員に気持ちよく働いてもらうことと、その人たちを守る箱への感謝があるような気がする。多くのものに支えられているのだ。それに社長は気付きやすい。

使い倒したペンも、ノートもなかなか捨てられない子供だった。実は今でも使えなくなった中学生から使っていたシャープペンシルを机の中にしまっている。宿ると言うか一緒にいた時間が長い道具こそ捨てることが出来ないものだ。空間も道具も同じだ。

いくつかの空間とお別れをしてきた。昔住んでた家も、事務所だった場所も、たくさんだ。

最後の掃除をして、ありがとうございました。お世話になりました。と誰もいない空間に話しかけ壁をさする。そこにはたくさんの思い出が詰まっている。心の中にはあるのだけれど、その空間に紐づいているような、空間もその登場人物の1人のような感じに思うのだ。

心霊スポットに行った時にお化けはいないけど、たくさんの人の「怖いな…」という感情がギューギューに詰まってるのだと想像した。逆に気持ちの良い場所に行くと「最高じゃん」なんていう気持ちがギューギューなのだと思う。その空間にどんな感情を詰め込んでいくのか。それが場の価値や空気になっていくのだと思う。

これからもっとたくさんの楽しい思い出を詰め込むために埃を払い掃除機をかけ、雑巾で拭きながらワックスをかける。これからもよろしく。お前は俺らの空間だ。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。