見出し画像

各駅停車は

君を連れ去っていく
僕の関われない毎日へとガタンゴトン


意味は分かるんだけど、状況が想像もできなければ感情移入することもできなかった。私の生きる狭い街では、一駅ごとに景色を変えたりしない。30分経って運ばれる場所も、多くの車に少しの人、見上げれば遠くに山が見えるぐらい。何も変わらない。


東京は違う。どこか懐かしさを感じさせる東京駅から京葉線の快速に乗れば、15分とかからず夢の国へ行ける。渋谷のスクランブル交差点で人波に揉まれていたかと思えば、30分で人力車が行き交う浅草に辿り着く。1駅乗り継げばまったく違う景色が待っている東京とは違って、私の街を走る各駅停車はどこにも連れて行ってくれないような気がしてた。


1月末から引越しのために東京へ行って、電車に乗るたび脳内でこの曲が流れていた。本当にそうだ。たった一駅なはずなのに、全く知らない街に着く。すぐそばにいるはずなのに、遠い。ガタンゴトンって電車にしか使えない表現だと思っていたけど「僕の関われない毎日」にも係るんだな。この街は広いから多分すれ違っても気付かない。寂しいけどそれぐらいが良くて、私はこの場所を選んだ。一切の脈絡なく浮かんでくる言葉に頭がぐるぐるして、歌詞だけが頭を流れて、「今度は君を追いかけてもう今日はここにいなよってちゃんと言うからまた~」ってついつい口ずさんでしまう。この歌を好きだったのは高校生の頃だけど、大学を卒業する今になって初めてこの主人公の見ている景色と重ねられた気がする。


小説も歌詞もそうだけど、私には見たことのない世界がたくさんあって。現実ではそんな簡単にフランスにもアメリカにも行けないし結婚も離婚もできない、もちろん子供だって作れないし、一人っ子だから兄も妹もいない。私の知らない世界や感覚、境遇を知りたくて、この世界に生まれた他の誰かは知っているはずだけど私は知ることのできないピースを一つでも埋めたくて、昔からフィクションに没頭してしまったりするんだけど。そういうフィクションの中で覚えた感覚に、何年か経って現実の世界で出会えた時が一番嬉しい。


世田谷ラブストーリー/back number

(2020.02/07)

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?