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神の言葉を聞いたかもしれない

みなさんはご存知だろうか。
『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』『創竜伝』数々の名作を生み出した作家、田中芳樹先生のことを。
読んだことはなくとも、上記3作のうちどれかはタイトルを聞いたことはあるのではないだろうか。
かく言うわたしは高校生の頃に『創竜伝』にどハマりしたのだが、まわりに暑苦しく語れる仲間がいなかったのでひとり黙々と読み耽っていた。今ならネットの世界でいくらでも仲間を見つけられるのにね。世界は変わった。

 さてそんなわたしのことを知っている友人の誘いで、田中芳樹先生の講演?トークショー?的なものに行ってきました。簡単に言うとめちゃくちゃ楽しかった。
いろんなお話があっていろいろ書きたいことがあるのだが、とても心に響いたことがいくつかあったので、それを書き留めておこうと思う。

1.物心がついたときにはもう本を読んでいた

自らの読書遍歴を問われて、先生はこう切り出した。さすがだ。わたしも子供の頃から本が大好きだったが、物心ついたときから本を読んでいたかと問われると自信がない。ていうか読んでない。作家になれるなんて思ってなかったともおっしゃっていたが、やはりインプットはものすごく大切で、物心ついた時にはすでにインプットが始まっていたからこそ、その膨大な蓄積がその後の名作アウトプットにつながるのだなと、そんな当たり前のことにひどく心を打たれてしまった。神だ。

2.立派な生き方をした人の人生を読んでもつまらない

名言出ました。子どもの頃にハマった本として、『宝島』『奇岩城』『三国志』などを次々と挙げられていたのだが、田中先生のご両親は『次郎物語』『路傍の石』などの路線に行ってほしかったようだ。でも先生は「立派な生き方をした人の立派な人生を読んでもつまらない」から、「もう本当に読むものがなくてどうしようもない時にしか読まなかった」。
この話の最高ポイントはふたつあって、ひとつは見出しそのもの、立派な生き方をした人の人生を読んでもつまらないというところだ。これは本当にその通りなんだけど今まで言語化して教えてくれた人はいなかった。今日これを聞いたとき頭をハンマーで殴られた感じがした。そうなんです!その通りです!先生ついていきます!
 ふたつ目のポイントは、そう言った立派な生き方をした人の物語を、暇で暇で何も読むものがなくてどうしようもない時に仕方なく読んでたという点。これも本読みなら分かる感覚。本読みにしか分からない感覚。
「読むものがないなら読まなきゃいい」と普通なら思うところ、そうはならないのだ。何かしら読んでないといてもたってもいられない。それがどんなにつまらなく、どんなに自分の好みとかけ離れていても、何かしら読むものが欲しい。さすが先生だ。やはり神だった。

3.そもそも民主主義とは、民主主義と反する主義主張にさえ思想の自由を与えるものである

すこし政治的な話になった。今の世界情勢のなかで、『銀河英雄伝説』が民主主義の手本のように評価されていることについての考察。先生が銀英伝を書いたのは30代の頃で、その頃はアメリカでも日本でもとにかく『善の共和国vs悪の帝国』の構図が定型であった。銀英伝ではそれをひっくり返してみたのだというお話だった。
流れの中で、先生がさらりとおっしゃった見出しの言葉は、真理だ。真理なのに今、みんな忘れてしまっているか、もしくは意図的に無視しているのか、世界ではイデオロギーの対立が戦争に直結している。
わたしたちは異なるイデオロギーをもつ相手を許容できない。そこに争いが生まれる。でもそもそも民主主義とは、異なるイデオロギーにさえも自由を保証するものであったはずだ。
これは世界の指導者たちにいま、必要な言葉だ。真理を語る先生は神だった。

4.死んだ人間は生き返らない

あたりまえのこと。揺るぎない事実。
先生はファンタジー作家として、冒頭に自分の考えるファンタジーの定義を「物語の中に1箇所でも"非科学的な"設定があって、それをなくすと物語が成立しないこと」と話された。ということは、非科学的な設定として、死者が生き返るとかも理論上"アリ"のはずだ。けれども、先生は「死んだキャラクターを生き返らせることだけは絶対にしないようにしている」と仰った。
死んだ人間は生き返らない。だからキャラクターの死に様はものすごく大事にしている。キャラクターが生まれる時には、死に様までしっかり考えて書いている。それが時には予定通りうまくいかないこともあるけれども、死を弄ぶことだけはしない。先生は神ではない。死んだ人間を生き返らせることはできない。

他にも本当にたくさんの気づきがあり、様々な示唆に富み、ユーモアあふれる言葉の数々に、時間があっという間に過ぎたのだけれども、その中でも特に震えたいくつかを紹介させていただいた。

いやあ、なんだか創竜伝読み返したくなってきた春の宵。電子書籍で買い直そうかしら。

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