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『私たちは子どもに何ができるのか』

『私たちは子どもに何ができるのか』という本を読みました。
非常に面白かったので、感想を少し。

子どもの非認知能力についての本です。

主な内容は
子どもの非認知能力の獲得は、家庭の経済格差が如実に反映されてしまう。
では、その格差をどのように埋めれば良いか?というものです。

本の帯にもあるように「子どもの貧困は、一生の財産になる"非認知能力"を獲得する機会を奪い取ってしまう。ではどうしたら良いのか。」といった内容。

…が、これからの時代に求められる非認知能力の育成については、多くの親の関心事だと思いますので、普通のご家庭の方も、もし良ければお読みください。

まず、これは有名な話ですが、親からの虐待やネグレクトなどによって、子どもの脳は傷ついてしまうという話。

今までもよく言われていることでしたが、本書ではもう一歩踏み込んで
虐待と言えないまでの口論などについても取り上げられています。
暴力を伴わない夫婦間の口論でも、十分に子どもの脳を傷つけるそうです。

ストレスフルな環境では、非認知能力を育むことが難しいということです。
家庭が安全基地であって初めて人は安心して成長できます。
そのためにも親側も大らかで寛容でいることが大切です。


本書で最も勉強になったのは
「非認知能力は教えるものではなく、環境の産物である」という言葉です。

貧困地区で、非認知能力を発達させることが困難だった子どもたち(刑務所に入る寸前のような子どもたち)に、「ターン・アラウンド・フォー・チルドレン」というメソッドで関わっていくと、次第に非認知能力が向上し学力も目に見えて向上したそうです。

これの面白いところは「協同学習」を特徴としているところです。
あえて講義の時間や個人のワークシートでの反復学習を減らし、小グループでの活動に時間を使い、みんなで協同して問題を解いたり、討論をしたり、長期間かけて何かを作るプロジェクトに取り組んだりすることを特徴としています。

このメソッドを貫く思想は、学業のためのマインドセットです。
マインドセットに関する大量の研究から、カギとなる4つの信念が挙げられています。
①私はこの学校に所属している。
②私の能力は努力によって伸びる。
③私はこれを成功させることができる。
④この勉強は私にとって価値がある。

こうした集団への帰属意識や、自己有能感などによって「学業のための粘り強さ」が生み出されるのだそうです。

①私はこの学校に所属している。
ってちょっと面白いですよね。
へえ〜。と唸ってしまいました。
たしかに、「ちゃんと私もここに所属しているんだ」という安心感が前向きな学びを促すのでしょう。

ターン・アラウンド・フォー・チルドレンでも、子どもたち同士が学校という場で絆を作り出せるように配慮し、ミーティングなどを頻繁にするそうです。
学校という場所に対する所属意識が子どもたちのやる気をアップさせる。

「われわれは乗り組み員(クルー)だ、乗客ではない」というスローガンを掲げて成功している学校もあるのだとか。
子どもたちが自主性をもって学校に参加・参画しているという自己有用感・自己有能感が、子どもたちの否認知能力を伸ばすそうです。
そのためには教師は子どもを信頼しないとならない。
信頼されているという自尊感情も、非認知能力には必要不可欠なもの。

つまり総合して…環境から非認知能力を伸ばしていく。ということです。
研究として、反復の個人ワークをさせたグループはあまり学力は伸びなかったそうですし。
やはり人は人の中で育つのかもしれません。
色々な子どもたちの中でもまれて、我慢もして…。
だけれどもそうした経験の積み重ねによって、自制心や自己の感情を調整していくことを学ぶ。
それが結局のところレジリエンスの発達に繋がっていて、非認知能力を高めるんですね。

しかし、最も驚いたのは、筆者(アメリカ人)が日本の学校における算数の授業を賞賛していたことです。
教室で子どもたちに考えさせて、話合わせて、時にグループワークをさせる。
このような環境が素晴らしいと
著者は『日本の算数・数学教育に学べ』という本も執筆されているのだとか。

兎角日本人は、西洋に対する劣等感や憧憬から、自国の学校教育を否定しがちですが、日本の学校教育にも良い所はたくさんありますよね。
もちろんより改善すべき点もあると思うのですが。
客観的に冷静に、今後の教育の在り方を考えていきたいものです。


余談で、本とは関係のない話ですが…
アメリカでは、スクールカウンセラーよりも、現代では科学的根拠に基づいた支援が主流だそうです。
不登校や問題行動など、カウンセリングで本人の変容をじっくり待っている間にも月日は流れていってしまいます。
子どもたちは問題を抱えたまま卒業して大人になってしまうのです。

カウンセリングは素晴らしいものだけれど、時間がかかりすぎる。
待っている間に時間ばかりが過ぎていってしまう。
という焦燥感を抱えている先生も多いのではないかと思います。

私もいつも感じます。
変容を待つことに対する焦り。


アメリカでは科学的データに基づく支援のメソッドがあり。
例えば不登校はごく初期段階で介入しないと、その後の改善の見込みが薄くなってしまう。などといった統計に基づいた支援です。(○日以内に介入するなど決まっている)
アメリカの公立学校の20%に導入され明白な成果を挙げています。

にも関わらず日本では、今更のごとくスクールカウンセラーを増員しているというタイムラグ。
一人の親としてそのタイムラグについて色々考えてしまいます。

日本でもそのメソッドを取り入れている学校があるそうですが、なかなか日本での運用は難しいようです。
日本には日本の教育の良さもありますが、良いものは一日でも早く取り入れて欲しいものです。
ですが現実は…なかなか変わらないですし…。
やり切れない思いがします。


夫がその導入校の校長先生と今度お話する機会があるそうで。
もし有用なお話が聞けたら、そちらの話も書けたら書いてみたいです。
書けないかもしれませんが。
まあ気が向いたら。(需要があるのか…?)


数多ある教育論の是非は難しい話ですが、非認知能力は教育を受けるための土壌ですから…どのお子さんにとっても必要不可欠なものです。
環境から作られるものであって、もし家庭環境が恵まれないお子さんでも、家庭以外の大人も十分にその子たちの非認知能力を伸ばすことができると本書には書かれていました。
周囲にいる大人たちがその子の環境となるのです。
ささいな言葉かけでも良いので、地域のお子さんに目配りたい。
みんなで共に成長していけたらなあと思います。

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