白湯

テキトーに言葉で遊ぶ場所。過去の作品は一旦仕舞ってあります

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最近の記事

黒猫を飼い始めた

黒猫を飼い始めた。 在り来りだけれど、チビと名付けたソイツは一晩で倍の大きさに成長した。その次の日も倍の大きさになった。 私の狭いワンルームでは、体の向きを変えるのですら困難になってきた頃、さすがに不味いと思い友人の里子に電話した。里子はペットショップの店員だった。 「飼い始めた黒猫がデカくなった」 「そりゃ動物だから、成長はするよ」 「ちがうちがう、部屋と同じ大きさになった」 「なにが?」「猫が」「は?」 「だから、猫がありえない大きさになったの!」 「猫が

    • 永遠の上映会

      空気に揺蕩う埃の群れを眺める。ジーッと焼き付けるような光のビームがスクリーンを照らす。その光線を辿っていくと、複数人の男女が慌ただしく右往左往している、よく分からないモノクロ映像が映し出されていた。 あの撫で肩の女の人は、たぶん赤い服だろうな。そんなふうに物語を咀嚼する。はたして物語かどうかは分からないけれど、この人達は何か目的があって動いているに違いないのだと思う。その女性がカタカタと笑うと、周囲の男性達もつられてゲラゲラと笑いだした。 スクリーンから少し目を逸らす。視

      • 短編小説『死んじゃえば』

        『じゃあさ、死んじゃえば?』 チャイムが鳴り終わって、亜季は私に向かってそう言った。 退屈な授業中、私と亜季でこっそりとメモの交換をしていた。 "人生ミスったわ" "わかる" "大学とかムリ" そこまでいって、チャイムが鳴った。 担任が、宿題を忘れるなとか身だしなみがどうとか言っているけれど、皆はいつも通り無視していた。 私達もご多分に漏れず、担任の話を無視して、お互いの椅子の背を向かい合わせて馬乗りになった。 「亜季はどうするの?」 「私も未来と同じ。だ

        • 5000文字の短編『終わりに向かう世界と、』

          うだるような暑さに僕は思わず顔を歪ませる。時折木々がざわめいて、ふわりと運ばれて来る微風が少しだけひんやりとして気持ちが良い。体にべったり張り付いたTシャツの胸元をパタパタ動かしながら母の横を歩く。境内の狭い石畳を大勢が往来して、肌を焦がすような陽射しが彼らを照らす。人熱れに酔った僕は、とにかく早く家に帰りたい、それで頭がいっぱいだった。 一時間ほど前、冷房の効いた自室で寝そべって漫画を読んでいると、母が突然部屋にやってきて言った。近くの神社で風鈴祭りをやっているから行くよ

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