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丸山文隆『ハイデッガーの超越論的な思索の研究:『存在と時間』から無の形而上学へ』刊行記念フェア・ブックリスト

2022年7月6日から8月11日まで、ブックファースト新宿店様にて、丸山文隆先生(東京大学)初の単著『ハイデッガーの超越論的な思索の研究:『存在と時間』から無の形而上学へ』の刊行記念ブックフェアが開催されました。このフェアにおいて並べられていた、丸山先生のコメント付き選書30冊のリストを公開いたします。


Ⅰ 入門書類(『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』の全体に関する参考書)

『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』をいきなり読むのは難しそう、と思う読者には、まずこれらの参考書が頼りになるだろう。


1  細川亮一 『
ハイデガー入門』ちくま新書(筑摩書房)

ハイデッガーについて知りたいひとに第一におすすめしたい一冊。


2 ハイデガー・フォーラム 『
ハイデガー事典』(昭和堂)

ハイデッガーの独特な用語を解説するだけでなく、彼の思想のもつ多種多様なひろがりを示している。(なお、テーマ項目「カント」は丸山が担当した。)

3 冨田恭彦  
カント入門講義:超越的観念論のロジック』ちくま学芸文庫(筑摩書房)

カントの『純粋理性批判』の入門書として抜群に分かりやすい一冊。最大の難所「超越論的演繹論」についても分かりやすく説明している。


4 御子柴善之 
カント:純粋理性批判』KADOKAWA シリーズ世界の思想

『純粋理性批判』を実際に読んでみたいひとのための、信頼できるコメンタリー。


5 谷徹  『これが現象学だ』講談社現代新書

 フッサール現象学を正確に理解したい読者にとっては、この本がいちばん頼りになる。


6 植村玄輝、八重樫徹、吉川孝/編著  富山豊、森功次/著
ワードマップ現代現象学』新曜社

「歴史上の哲学」としてではなく「現代の哲学」として現象学を紹介する。「真」、「善」、「美」という哲学の古典的問題に対し、現象学はどのようにアプローチするのかを学ぶことができる。


7  鈴木生郎、秋葉剛史、谷川卓、倉田剛
ワードマップ現代形而上学』新曜社

存在論とは、存在者の存在を問うことであり、アリストテレス以来の伝統においては「カテゴリー論」として発展した。本書によって、こうした問題系が現代においてどのように論じられているのかを知ることができる。


8  クラウス・リーゼンフーバー/著 矢玉俊彦、佐藤直子/訳  
西洋古代・中世哲学史』平凡社ライブラリー

『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』において「感性と悟性の区別に関する教説」がしばしば登場するが、この区別を切り口にして古代・中世哲学をあざやかにまとめている。


Ⅱ 死、良心、自己をめぐって(『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』第一部との関連)

ハイデッガーの『存在と時間』は、死と良心という現象に注目することで、われわれ人間の独特の在りかたを明らかにする。そうした議論は現代哲学におけるパーフィットの主張を部分的に先取りするものであり、サンデルやマッキンタイアらに代表される「コミュニタリアニズム」の考え方とも多くの共通点をもっている。


1  トマス・ネーゲル/著 永井均/訳  
コウモリであるとはどのようなことか』勁草書房

死、道徳における運、性的倒錯など、さまざまな話題について平明な語り口で鋭い洞察を示す現代哲学の名著。


2  小松美彦  『死は共鳴する』勁草書房

現代における死の捉えかたを、科学史の視点から「個人閉塞した死」として批判的に指摘し、現代における脳死・臓器移植の問題へと連結させる、スケールの大きな一書。


3  小坂井敏晶 『増補・責任という虚構』ちくま学芸文庫

哲学・哲学史についても深い理解をもった著者が、社会心理学の立場から「虚構としての責任」について論じる。
ハイデッガーの「良心」の議論について考える際に傍に置いておきたい一冊。


4  アンリ・ベルクソン/著 合田正人、平井靖史/訳
意識に直接与えられたものについての試論』ちくま学芸文庫

ベルクソン第一の主著。「時間と自由」を重ねて考えるという発想はハイデッガー『存在と時間』に確実に継承されている。


5  デレク・パーフィット/著 森村進/訳 『理由と人格』勁草書房

ハイデッガー『存在と時間』の「時間性」論は、人格の同一性に関する本書の議論と多くの洞察を共有している。丸山文隆の論文「ハイデッガー『存在と時間』に基づく生と死の理論」でも詳しく紹介した。


6  マイケル・サンデル/著 鬼澤忍/訳
これからの「正義」の話をしよう』ハヤカワ・ノンフィクション文庫

政治哲学における「コミュニタリアニズム」の利点を、「功利主義」や「カント主義」といった競合するほかの立場との対比のなかで分かりやすく説明する名著。


7  アラスデア・マッキンタイア/著 篠﨑榮/訳 
美徳なき時代』みすず書房

〈人生の統一性は物語的なものである〉という論点に関する最重要文献。



8  池田 喬・堀田義太郎 
差別の哲学入門』アルパカ シリーズ・思考の道先案内

〈差別とはそもそも何なのか〉という重大な問いを哲学的な問いとして扱う近年の話題作。


9  稲原美苗、川崎唯史、中澤瞳、宮原優  
フェミニスト現象学入門』ナカニシヤ出版

ハイデッガーの『存在と時間』は〈中立的ではありえない「私」から出発する現象学〉という意味で、現象学のフェミニスト的展開に対してかなり親和的であるといえる。


Ⅲ  「存在論の存在者的基礎」をめぐって(『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』第二部との関連)


『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』は『存在と時間』刊行直後のハイデッガーの思索を集中的に読解したが、この時期の最大の関心事だった「存在論の存在者的基礎」の問題は、おそらくその後エマニュエル・レヴィナスによって継承されたと言うべきだろう。また、かつて「何トンも」ノートを取りながらハイデッガーを読んだというミシェル・フーコーもこの同じ問題を別の仕方で展開していたのではないだろうか。


1  熊野純彦 『レヴィナス入門』ちくま新書

フッサールやハイデッガーの哲学のポイントを確認しつつ、彼らとの関係のなかでレヴィナスの独自の思想を繊細かつ明瞭に紹介している。


2  小手川正二郎 『甦るレヴィナス:『全体性と無限』読解』水声社

それまで「他者論」としてとらえられてきたレヴィナスの哲学を、むしろ「自己論」として読み直すという、あたらしい世代の解釈方針を打ち出した一冊。


3  渡名喜庸哲 
レヴィナスの企て:『全体性と無限』と「人間」の多層性』勁草書房

最新の資料をもとに多層的な『全体性と無限』の姿を描き出している。「〈観念論から抜け出し切れていないハイデガー存在論〉」というレヴィナスの論点への注目はとりわけ興味深い。


4  重田園江  『ミシェル・フーコー:近代を裏から読む』ちくま新書

『監獄の誕生』を中心にフーコーの思想を分かりやすく、愛を込めて紹介する。


5  手塚博 
ミシェル・フーコー:批判的実証主義と主体性の哲学』東信堂

カント的な批判哲学を継承するものとしてフーコーを描く試み。


6  ミシェル・フーコー/著 渡辺一民、佐々木明/訳  
言葉と物』新潮社

思想史の名著。「有限性の分析論において、人間とは奇妙な経験的・超越論的二重体である」という本書の有名な主張は明らかにハイデッガー『カントと形而上学の問題』の議論をふまえている。



Ⅳ〈無の形而上学〉をめぐって(『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』第三部との関連)

ハイデッガーが1929年に発表した「形而上学」三部作において〈無の形而上学〉と呼ばれるべき独特の問題系が展開された。近年注目が集まりつつあるこの問題系は、「神」の不在として「無」や「深淵」を垣間見るものであり、ジョルジュ・バタイユやシモーヌ・ヴェーユの思想との興味深い共鳴のなかに位置づけられるだろう。


1  串田純一  『ハイデガーと生き物の問題』法政大学出版局

ハイデッガーが1929/30年冬学期講義「形而上学の根本諸概念」において展開した「生き物」論に注目した研究書。アリストテレス的な「可能性」に関する議論は非常に透徹したものである。


2  中川萌子  『脱‐底:ハイデガーにおける被投的企投』昭和堂

後年のハイデッガーの立場に軸足を置いて、『存在と時間』や「形而上学」三部作と後期思想とを対比的に論じており、いわば『ハイデッガーの超越論的な思索の研究』と同じストーリーを反対側から語ったかのようである。


3  永井晋 『現象学の転回:「顕現しないもの」に向けて』知泉書館

20世紀後半における、いわゆる「現象学の神学的転回」について、神秘主義の伝統を丁寧に踏まえて論じている。


4  酒井健  『バタイユ入門』ちくま新書

なぜ20世紀において多くの思想家が理性に反対していたのかを非常に分かりやすく教えてくれる。現代がどのような時代であるのかを理解したいひとにはぜひ読んでほしい。


5  横田祐美子 
脱ぎ去りの思考:バタイユにおける思考のエロティシズム』人文書院

良くも悪くもアカデミックな議論において取り上げることがふさわしくないとされてきたバタイユの思想を、あえて哲学として解釈することを宣言する勇敢な研究。


6  ミクロス・ヴェトー/著 今村純子/訳 
シモーヌ・ヴェイユの哲学:その形而上学的転回』慶應義塾大学出版会

ヴェーユの思想を、特にプラトンおよびカントの哲学との連関のなかに位置づけ、その形而上学的議論を中心に分かりやすく提示している。


7  シモーヌ・ヴェイユ/著 今村純子/編訳 
シモーヌ・ヴェイユ アンソロジー』河出文庫

シモーヌ・ヴェーユは、丁寧な言葉づかいによって力強く思考を組み立てていく特別な著者だ。まずはこの本から、ヴェーユの文章の魅力に触れてみてほしい。




丸 山 文 隆 まるやま・ふみたか

東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員、博士(文学)。近年は、ハイデッガー研究の成果を現代の形而上学や倫理学と接続させることを試みている。論文に「ハイデッガーの『存在と時間』に基づく生と死の理論」等。

『ハイデッガーの超越論的な思索の研究:
『存在と時間』から無の形而上学へ』

丸山文隆 著
A5判変形上製/336頁/本体価格5000円+税
ISBN:978-4-86528-084-5
装幀:佐野裕哉

左右社より好評発売中


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