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【全文公開】『ウクライナ戦争日記』 はじめに

『ウクライナ戦争日記』
2022年7月29日発売
(電子版、英語電子版は8月4日より発売)

2022年2月24日から現在までーー。ロシアによるウクライナ侵攻によって、戦渦に引き込まれた24人が綴る日記を緊急出版!ロシアが侵攻してきてから数ヶ月間にわたり起こったできごとを当事者たちが綴った、唯一無二の日記アンソロジー。

この本に込めた思いを少しでも届けたいという気持ちから、日記の一部を無料公開します。この本に対する思いを綴った「はじめに」の全文です。ご一読いただき興味を持っていただけたら、お近くの書店やamazonでお買い求めいただけると幸いです。

なお、本書の「はじめに」執筆を手がけたのは、ウクライナへ支援を行なうNGO団体「Stand With Ukraine Japan」で代表を務めるサーシャ・カヴェリーナさんです。(※本書の収益は一部、「Stand With Ukraine Japan」を通してウクライナの人々へ寄付いたします。)

はじめに

2月24日、我々ウクライナ人にとって当たり前の世界が、崩壊しはじめました。地元ハルキウにいる友人とのチャットグループが不安に満ちたメッセージでいっぱいになった現地時間午前5時ごろ、私は東京でお昼休みをとっていました。

「家の上にミサイルが飛んでいるのを見た」
「今のは爆発?」
「おばあちゃんのことがすごく心配なの、ロシアとの国境のすぐ近くに住んでるから」

現実が真っ二つに裂けたように、激情に苛まれました。この戦争は、信じられないほど露骨な人権侵害であり、私の人生と、何百万人ものウクライナ人の人生をひっくり返したのです。

ロシア軍は無差別に人口密集地域を砲撃し爆撃し、民間人を殺害しました。そして、病院、学校、穀物倉庫を破壊し、罪のない女性たちをレイプし、人々に暴力を振るった。これまでの平和でにぎやかな生活は終わり、代わりにまったく新しい、厳しい現実が私たちを打ちのめしたのです。


そんなとき左右社編集部から、ウクライナの人たちの日記を本にして世界の人たちに読んでもらいたいという申し出を受けました。私自身も戦況が展開するにつれ、この感情を言葉にすることが、次々と襲い来る耐えがたいできごとに耐え、国際社会からの手助けを求めるのに役立つのではないか、と思いはじめていました。

それからは、家族から送られてきた動画や写真をSNSなどで共有し、何が起こっているのか書くようにしています。あらゆるものが動き、変化するということだけが唯一の変わらないことであるこのようなときには、書くことで正気を保てるのです。
それは、ロシアの侵略によってもたらされた恐怖を記録するだけでなく、私自身の絶え間ない不安を和らげ、楽にするための手段でもありました。


もちろん、戦争日記を集めるという使命は決して簡単なことではないとわかっていました。文章を読むのはとても苦痛で、耐え難いものでした。

どの日記を読んでも、腸に針が突き刺され、内臓から血があふれるように感じていたほどです。占領下の惨めな生活、避難所に隠れ、爆弾や砲撃から延々と逃げまどう日々。文章は、不信感や怒り、落胆まで、あらゆる種類の感情にあふれています。

24人の執筆者たちは、日記として綴る行為を通して、それぞれの世界が崩れ去っていく事実をどうにか受け止めていたように思います。冷静な言語と思考力をなんとか保ちながら現状を伝えている者もいれば、終わらない悪夢の中をさまよっているような書きぶりの者もいます。



これから始まる24人の物語すべてが、ハッピーエンドなわけではありません。
ウクライナ南部に住む執筆者はまだ占領下で、侵略者の銃声とどんどん減っていく資源とともに、今も恐怖の中で生きています。海外に逃げた執筆者たちもまた、苦労しています。
住んでいる街に残った人たちだって家を建て直す必要がありますし、なんといってもどうにか生活を送る必要があるのです。香港のジャーナリストであるカオルたちは、ドンバスの近くでロシアのミサイルの標的になりました。彼は生きていますが、運転手であるウクライナ人は重傷を負いました。

何よりもまず、この無意味な戦争を止めなければなりません。しかし、戦闘は終息する気配がありません。今こそ、世界中の人々が、快適なソファの上で戦況を眺めるのではなく、戦争を直接体験した人々の目と言葉を通して、戦争を見ることが重要です。

死者が復活することも、めちゃくちゃになった生活が完全にもとに戻るような奇跡が起こることもありません。ですが将来、同じような過ちを繰り返さないための努力が必要なのです。全世界が、「二度と繰り返さない」という強い誓いを立てなければなりません。

ロシアの犯しているすべての残虐行為を止め、罰するべきです。そして、侵略者の烙印を押し、そもそもこんな戦争を始めることができてしまうような権力が二度と現れないようにすべきです。



恐怖を感じたからと言って、急いで本を閉じないでください。不穏な話が出てきても、決して目をそらさないでください。

ときにはクスッと笑えるジョークや、人生を安心させる瞬間も登場します。この本の中にある、つらく、正直で、まさに今起こっているリアルな物語を存分に味わい、あなたの心の奥まで染み込ませてください。


日記を書いた人は、特別な人々ではありません。残酷にも、いきなり恐ろしい状況下に投げ込まれてしまっただけの、あなたや私と同じ人間であるということを忘れないでください。
本書は、ウクライナが子どもたちを守るために払った犠牲の証であり続けるでしょう。そして、本当の勝利を収めるまで、ウクライナの味方でいてください。

サーシャ・カヴェリーナ
「Stand With Ukraine Japan」の共同創設者

Stand With Ukraine Japan(SWU Japan)
二〇二二年二月のウクライナ侵攻後に日本の東京で生まれたNGO団体。
ウクライナ侵攻の初日から、東京で働くウクライナ人(およびさまざまな国籍の友人)が集まり、ウクライナの人々への支援を行なっている。
Official website  Twitter  Instagram

(#2は、こちらから)

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