やくざの制裁はとどめを刺さない/町田康
一方その頃、弁五郎はと言うと、コン吉という百姓の家に隠れていた。村はずれの小さな百姓や、小川武一と次郞長が復讐しに来ることを予測して、いち早く逃亡したのである。
「いいか。俺が匿ってやるから、こっからけっして出るんでねぇぞ」
コン吉はそう言うと弁五郎を家の裏手の物置に案内した。畳二畳分ほどの本当の物置で、農具や肥料などがしまってあった。狭い、汚い、暗い、臭いところであった。案内された弁五郎は板壁の破れ目から外の様子を窺った。裏は畠になっており、少し先の土手には、春うらら、