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あたしが100歳になったら… 地域で活動する助産師と女性の健康③

中央道を走っていると藤野PAあたりで
山の中腹にある、巨大な白い便せんが目につきます。
「緑のラブレター」という名前の、このオブジェ。
〝芸術のまち藤野〟の象徴なんだそう。
 
藤野は「シュタイナー学園」を誘致するなど、
全国に先駆けて先進的な取り組みを行っている地域だ
と言われる一方で、都市部と比べると、
医療リソースが十分ではなく……。
 
そんな藤野で訪問看護、保健師として
地域の人びとの健康支援を行いつつ
助産院「mid-U」を運営している
井上愛智(いのうえ・まち)さん。
 
「女性の健康寿命」を左右すると言われる
更年期前後の過ごし方と対策について、
愛智さんにお話をうかがってきました。


気になる症状、みんな、どうしてる?

女の子から年齢を重ねたご婦人まで、
女性のからだ、こころは、女性ホルモンの影響を受けています。
 
そのことを実感するのは、生理前後の体調不良
あるいは、閉経前後の体調の変化が現れたときではないでしょうか。
 
第一三共ヘルスケアが2023年に実施した調査によると
◎9割以上の女性が、生理痛があるとき何らかの我慢をしている
◎受診しない理由で最も多いのが
「病院に行くほどの痛みではない」
 次いで「市販の鎮痛薬で対処できる」
◎6割の女性は、市販の鎮痛薬の正しい服用方法を知らない
◎生理痛のある女性の3割は「誰にも相談しない」
 
また、厚労省「更年期症状・障害に関する意識調査」(2022年発表)によると
◎更年期の症状がある女性のうち、症状を緩和するために
 特に何もしていないのは4割
◎更年期の症状がある女性のうち、
 誰にも相談していない人の割合は40代、50代で割以上
◎受診していないが「更年期障害かもしれない」と思っている女性は
 40代28.3%、50代38.3%
 
結構、みなさん、体がつらくてもガマンしているのですね。

それは、どうしてなのでしょうか。
 
「病院に行くほどではない」と思っているのかもしれません。
「病院は敷居が高い」と思っている人もいるでしょう。
「女性だから仕方がない、我慢するしかない」と思っている人も
もしかしたら、いるかもしれません。
 
でもですね……。

病院・クリニックの前に、女性によりそう専門職という選択

あたくし小2のとき、わりと頻繁に
保健室に行って休んでいました。
 
保健室って、敷居が低かった印象があるんです。
 
✋で、いま、全国各地の看護協会が「まちの保健室」という事業を
いろんな機関と提携しながら行っています。
 
看護師さんが健康状態をチェックしてくれたり、
健康に関する心配事の相談に乗ってくれるんだそう、
「学校の保健室」のように。
 
また、あたしはよく知らないのですが
都道府県、指定都市・中核市では
「女性健康支援センター事業」というのをやっていて
お医者さん、保健師さんまたは助産師さんが
健康に関する悩みの相談にのったり
指導をしているのだそうです。
 
「えー、知らなかった」
思わず声を出してしまった方も、
もしかしたら、いるかもしれませんね。
 
知らなかったら、そのサービスにタッチできる機会は、
あまりないかもなあ…・・・と心配になったのですが、
女性の健康づくりを支援しているのは、
公的機関・団体ばかりではないのですよね。
 
看護師さんや助産師さんなど、医療にかかわる専門職の方で
地域の女性たちの健康づくりを支援していて
しかも、SNSなどで発信をしている、
そういう方もいるんです。
 
藤野の助産院「mid-U(ミットユー)」を運営する
井上愛智(いのうえ・まち)さんもその一人です。

 

神奈川県と山梨県の境目にある「藤野」。
四方を山に囲まれ、森や湖など、豊かな自然に恵まれた「藤野」には市外からの移住者が多い。

知っていけど、わからない「更年期」

助産師さん、というと、
お産のときに赤ちゃんをとりあげる人、
産婆さんをイメージする方がいらっしゃるでしょう。
 
実際は、妊婦さんの健康とお産のサポートはもちろん、
赤ちゃんのお世話や育児の支援と、
これから妊娠する女性や、産後の女性、更年期以降の女性の
健康づくりを支援するのもお仕事のひとつ。
 


「一人ひとりの妊婦さんにしっかりかかわれる助産をしたくて
病院を辞めて、開業することにしました。
助産師の役割は、妊娠出産、産後だけじゃない、
女の子~おばあちゃん世代まで
生涯にわたっての女性の健康を支援することだと
私は前から思っていましたので、
助産院mid-Uを始める前に、
まずは会場を借りて〝更年期の講座〟をやりたい、
そう思って地元の公民館に行ったら、
個人では会場を借りられないことがわかったんです。
どうしようかな?って考えに考えて、
女性のために何かできる人、一緒にやりませんか、って声をあげてみたら、
『私、やりたいです』『私も』って、手を挙げてくれた方がたくさんいて、
その方たちと『女性の健康を育む会YUZU』を結成しました」(愛智さん)
 
「女性の健康を育む会YUZU」のメンバーは、
助産師で保健師で訪問看護師でもある愛智さんをはじめ、
女性を健康にする特技や専門知識を持つ人びと。
その方々が講師になり、セルフケアの方法を伝授する
イベントを定期的に開催しています。
 
「いろんな講座があるなかから、
自分に合うもの、やりたいものを選んで受講、
健康になっていただきたいなあと願いながら、
『女性の健康を育む会YUZU』を続けています」(愛智さん)
 
また、愛智さんは、YUZUのイベントとして「更年期講座」を実施するのはもちろん、他のイベント主催者の要請を受け、講座を実施しています。
 
「どこのイベントで講座をやっても、
受講した女性たちから『知ってよかった』と言われます。
自分が更年期を迎えること、閉経することはわかっているんだけれど、
そこに至るまでに何をしたらいいのか『知らなかった』のだそう。
更年期を迎える前後、体にはどんなことが起きてくるのか、
教えてもらう機会も、教わる機会もなく
自分で調べなきゃって思うこともなく更年期を迎えた。
そういう方でも、講座を受けていただくと
今、体が感じている不調は、実は更年期の症状なんだと気づく。
自分の体調と健康知識、点と点だったものが、
一つの線に結びついたことが『よかった』言われました。
それから、もう一つ喜ばれたのは、
いつかくるであろう更年期の不調に対して
どのように対処したらよいのか、
知ることができて『よかった』と言っていただきました」(愛智さん)

病院にまかせっきりでは自分の健康は守れません

あたくし道井、仕事柄、更年期の知識は持っているほうだ
と自負していたのですが、
実際、更年期に突入したときに
今まで体験したことのない体の変化――漠然とした不安感、
睡眠サイクルの乱れ、親指関節の痛み、頭痛などーーが起きてきたときは
ビックリ慌てました。
 
自分が自分ではなくなってしまったかのような気がして、
それがより一層不安感をあおる、みたいなことがあったんです。
 
「更年期になると、体はどうなるのか、
事前に知っておくと、予防のために食事はこうしよう、
運動不足はよくないから意識的に歩こうということになるでしょう。
また、症状が出たとしても慌てることは少ないでしょうね。
症状がここまでになったら婦人科を受診しよう、
というふうになると思うんですね。
更年期によく見られる症状の一つに『うつ』があるんですが、
『うつ』だから心療内科だと思ってしまう方がいるんです。
心療内科に受診すると、患者さんは『うつ』だから、
お医者さんは『うつ』のお薬を出しちゃうんです。
もし、40~50代の方で心療内科のお薬を飲んでいるのに
なかなかよくならない、ということがあったら
婦人科を受診してみるのも一つの方法ではないかと思います」(愛智さん)
 
更年期の症状で、仕事や日常生活に支障をきたしているのに
ひたすらガマンしている女性もいるのですが、
愛智さんは、専門の婦人科で、適切な治療を受けることを勧めています。
 
「ホルモン剤の使用について心配する声があるのですが、
仕事や日常生活に支障をきたすぐらい、症状が強く出ている人にとって
症状の緩和に役立つホルモン剤は必要な治療ではあるんです。
また、女性ホルモンの低下に伴う骨量の減少を防ぐ、という意味においても
重要な選択肢の一つです。
婦人科の医師のなかには、漢方薬や鍼灸など東洋医学の知恵も生かしつつ、
患者さん一人ひとに合った治療をしてくれる医師もいますので、
一人で悩まず、婦人科を受診していただきたいですね」
愛智さんはそう言った後、
 
「ただ……」
 
「病院にまかせっきりにしていたのでは、なかなか自分の健康は守れません。
自分の健康は自分で守る、という意識を持っていただけるよう、
講座を続けていきたいと思っています」(愛智さん)

すべての女性がもつ「女性ホルモンの低下」というリスク

ほんとに、ふがいない
あたくし道井、今年になってやっと認識したのですが、

厚労省は、毎年3月1日から8日までの期間を
「女性の健康週間」と定め、
女性の健康づくりを国民運動として展開しています。
 
それはなぜかと言いますと、
女性の体とこころの状態は、
その時々で変化する、女性ホルモンのバランスに
なにがしかの影響を受けています。
 
とくに、バランスが大きく変化する
妊娠・産後、更年期は
体もこころもゆらゆらゆらぎがち。
 
そこで厚労省は、人生の各段階に応じて大きく変化する、
という女性ならではの特性に着目した施策を実施することに。
その一つが「女性の健康週間」なのですね。
 
そんな中、あたくし道井が、今回、更年期にスポットを当てたのは、
これから訪れる〝人生100年時代〟
一生、自分の足で歩きたい、死ぬ直前まで働いていたい
ずーっと若くてキレイでいたい(#^.^#)
そのためには、女性ホルモンが急激に減少する
更年期前後の過ごしかたを見直す必要があると
思ったからであります。
 
というのは、女性ホルモンが減少すると
いわゆる更年期症状に加えて
●肥満になりやすい
●生活習慣病になりやすい
●骨量が減少、かつ骨量が増えにくくなる
といった変化が見られるようになるからです。
 
「更年期の健康課題としてお伝えしたいのは、骨のことですね。
自分では骨がどんどん弱くなっていることに気がつかず、
ある日、背中が痛くて整形外科を受診したら、背骨の圧迫骨折で
『だいぶ骨、弱ってますね』と言われて、えっ⁉ 驚く。
そういうパターンが、50代以降の方によく見られます」(愛智さん)
 
骨というと、体を支える屋台骨と思ったら、
その他にも、全身の健康にかかわる
重要な働きをしていることが最近わかってきました。
 
骨を形成する骨芽細胞から分泌される
「オステカルシン」というたんぱく質は、
糖質や脂質の代謝に影響していると考えられ、
糖尿病や肥満などのメタボリックシンドロームの予防に
一役買っているのではないかと、
近年、注目されているのです。
 
さらに言うと、
 
日本人女性は世界でもっとも平均寿命が長いのですが、
亡くなるまでの何年間は、何らかのケア・介護が必要になる
ケースが少なくありません。
なかでも、多く見られるパターンが
「骨が弱くなる→骨折して入院→寝たきり」なのです。
 
「骨量は、だいたい40代中ごろで頭打ちなんですね。
それ以降は維持できれば御の字、と言ってもいいでしょう。
だから、それ以前に、骨の中身を充実させて
強くしておくことが重要なんです。
40代以降、ちょっとずつ減ったとしても
くしゃみ程度の負荷で圧迫骨折するようなことには
ならないようにしていきたいですね。
そう考えると、やはり、30代になったら
知っておいたほうがいいかなって、
私自身は思っています」(愛智さん)
 
愛智さんは、他にも訪問看護のお仕事もされていて
地域の高齢者と接するなかで
人生の100年時代を健やかに生きるには
人と人とのつながりも重要であることも
肌感覚で認識している、とのことなのですが、
このことは、またあらためて取材させていただいて
ご報告したいと思っています。
 
「地域で活動する助産師と女性の健康」は
これでおしまいです。
 
愛智さん、そして、この記事を読んでくださったみなさん、
心から、m(__)m
 
ありがとうございます!

藤野の助産院mid-U院長 井上愛智(いのうえ・まち)さん

助産師・看護師。大学で母性看護を学び、病院での助産、NICU(新生児集中治療室)看護などを経て、開業助産師に。
お産を扱う病院がない藤野・相模湖・津久井・上野原で、「つくい助産院」の早船院長とともに助産を行っている。
2023年、助産院「mid-u」を開設、産後ケアをはじめ「生涯にわたる女性の健康づくり」をサポート。
このほか、訪問看護、啓もう活動など、地域でさまざまな活動を行っている。
ホームページhttps://mid-u.life/
 

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