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ムラ社会三重県に住み愛知に出勤する義兄に捧ぐ


各地で県境での検問検温など囁かれる中、感染者宅に投石など嫌がらせがあった三重県から愛知に出勤する義兄のFBのコメント欄に書いたものです。実際メンタル的にはこのくらい県境越えるの大変なのでは。

【長良川突破】  

もう何時間歩いた事だろう。
俺は、、、やっと山奥を歩いて進み三重県に入ったんだ。この川を越えれば少し楽になるだろう。潔癖症で胃腸が弱い俺はスーツを畳んで防水バッグに入れパンイチで最短距離で川を泳いで渡らなければいけない。冬じゃないのがせめてもの救いだ。
俺はそろそろと川に入り一気に飛び込んだ。泳ぎは俺は得意だったか?こんな事なら自宅学習中の娘を連れて来るんだった。娘は水泳が得意なのだ。紐で繋いで引っ張って欲しい、暗闇の恐怖とも戦いながら俺はふとそんな事を思った。無事に家に辿り着いたら翌日の出勤には娘を連れて行こう。どれだけ嫌がったとしても。俺は思ったより社畜なのかもしれんな。苦笑いする。大丈夫だ、水を飲み込み咽せながらもこんな事考えている余裕があるじゃないか。この川に潜む無数のバクテリアが大量に俺の胃の中に入るのを感じながら川を越えたら直ぐに野糞して出さねばならないと思った。俺は胃腸が弱いのだ。
川の中央部まで来た。息が上がっているが大丈夫だ、このままなら、、。
そう思った瞬間、目の前が真っ白になった。なんだ!なんなんだ、この光は!
目が慣れるまで数秒かかった。俺の前には何艘もの船が並んでいる。船?いやよく見てみろ、アレは、、屋形船だ!落ち着け、俺。自分にそう言い聞かせサーチライトの向こうの屋形船を見渡した俺の目に無数の船に掲げられた三重県のロゴの付いた旗が目に入った。マンホールでよく見かける見慣れたマークだ。
そして拡声器からの声。

「愛知県からの侵入者発見!鵜飼い部隊、ヨーイ!」

拡声器からの無機質な声は俺を我に返らせて反転させ元来た方向に全速力で泳がせるのに充分だった。スーツを入れた防水バッグの紐も切った。ここで捕まってはならない。
一斉に不気味な羽音がした。後ろを振り返るな。振り返っては俺は負ける。
娘の2倍のスピードで俺は泳いだ。こんなに速く泳げるんだぜ、家に帰ったら娘に自慢しよう。帰れれば。
羽音と水飛沫の音が俺の背後に迫ってくる。どんどん近づいてくる。
何かに髪を引っ張られた。いや気のせいだ、俺は超ショートヘアだ。引っ張る髪なんてない、そう思った瞬間、頭と首筋に激痛が走った。そして次の瞬間に俺に群がる鳥たちによって俺の姿は見えなくなった。  

薄れゆく意識の中で笛のような音を聞いた。そして体が軽くなった。羽音が遠ざかっていく。
ビールが飲みたい、無性に思った。  



いやもうこんなシーンしか浮かばない。
閉鎖ムラ社会って怖いですね。
ちなみに義兄によると鵜飼いは岐阜県のもので管轄は宮内省だそうです。

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