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創作大賞感想──みなさまの作品を読んで

創作大賞、みなさま本当にお疲れ様でした。お疲れが残っていませんか? わたしはしばらくぐったりして、寝込んでおりました。テヘヘ。まだ本調子ではありませんが、ゆっくりとリハビリも兼ねて綴っていきたいと思います。

創作大賞は、みなさまの作品を読ませていただけて、とても嬉しい時間になりました。ただ自分の持病もあって、情報を心と体に入れすぎてしまうと、寝込んだりしてしまうので、あまりたくさんは読めないのが悲しいです。応援期間までにたくさん読まなくちゃ……!と気張っていましたが、それはどうやら難しいと気付き、断念しました。

この記事では、ご縁あって出会った作品の感想を綴ってまいります。応援期間が終わっても、この記事は随時更新していこうと思います。応援期間のうちに反映できなくてごめんなさい……。来年はもっと、計画的に創作大賞を楽しんでいけたらいいなあと願っています。のんびりまいります。




◆紺乃未色さん「私にヨガの先生はできません!」(お仕事小説部門)

【あらすじ】

「ヨガのインストラクターとしてデビューすること」
ホットヨガスタジオの受付・事務社員の笹永いと葉は、ある日突然、業務命令を受ける。
体の柔軟性や学生時代のトラウマが気がかりとなり「できません」と答えるものの、上司に押され、しぶしぶ研修を受けることに……。
前例のないトラブルを起こしつつも、なんとかデビューするいと葉。
ところが、今度は集客数が伸びずに悩んでしまう。
自信が持てない彼女のもとにやってくる新たな課題とは!?
モデルの先輩や元美容師の友人、はたまた取引先の担当者など、身近な人たちとともに奮闘するいと葉の約1年間の物語。
不安という名の壁を乗り越え、成長する主人公を描く『令和のお仕事小説』

「私にヨガの先生はできません!」より


紺乃さんの小説は、語り口がとても巧みなんです。「この方、表現がとても上手いなあ……!!」と惹き込まれ、気がつくと主人公・いと葉の一年間の冒険を手に汗握りながら応援していました。

ホットヨガには以前通ったことがあったので、その情景もリアルに想像できました。こんなお洒落なスタジオで、親身になってくださる先生がいらしたら、めちゃくちゃ素敵……!と、うっとりしました。

紺乃さんの作品の特徴として、特筆すべき点は身体感覚の表現の豊かさと誠実さです。

第一話の冒頭では、

 前屈をする。
 わかっていたけどやっぱり痛い!
 太ももの裏側はびりびりするし、ふくらはぎの後ろも、無理やりピンと引っ張られている感じ。皮膚の繊維が、ぷちん、ぷちんと音を立てて千切れるんじゃないかと思った。
 全身の毛穴から滲むイヤな汗も、これじゃ涙だ。

「私にヨガの先生はできません!」第1話より

体が柔らかい方ではない私は、この冒頭に一気に共感が深まりました。読んでいるだけで、アキレス腱がぴりぴりする感覚になりました。

紺乃さんの身体感覚を描く表現は、とても誠実なものです。主人公・いと葉が徐々に心身の柔軟性を得る過程など、深い共感を覚える表現の数々に触れ、自分の中で言語化できていなかった感覚にあらためて気づくことが出来ました。心から感謝しています。

私がこの作品の中で好きなのは、いと葉の高校時代の友人・カレンとのやり取り。お互いに、自分にはない要素を感じている友人同士が、物語が進むにつれて自分の胸の内をぽつりぽつりと素直につぶやき始めます。そして自分自身の心が向かう方向に正直になっていく過程では、胸が熱くなるのを感じました。

読んでいて、体と心のことを大事にしたくなる作品です。ぜひ、お読みください。


紺乃さんの最新作「失恋少女と狐の見廻り」は、和風ファンタジー。導入から心を掴まれます。こちらも、ゆっくり読ませていただきます!



◆横山小寿々さん「私を 想って」(ミステリー小説部門)

【あらすじ】

 高校二年生の鮎沢鞠毛は自分の名前について悩んでいた。
 でも、不器用な性格もあって相談できる友達はいない。
 父、正臣の再婚相手の涼花と認知症の和と暮らしはじめることになった矢先、父が家からいなくなってしまう。
 父が失踪してから一ヶ月がたった夏休みの前夜、少し気になっていたクラスメイトの山中篤人から
「おじさんの失踪を一緒に探そう」と言われたのだが、どうしても乗る気になれない。
そんな中、「あいつが息子を殺したんだ」と和が暴れ出す。
家族が心に抱えていた秘密とは……。
新しい環境、父の失踪、気になる人に素直になれない自分。
生きづらさを感じながらも、自分の居場所を探していく――

「私を 想って」より

小寿々さんの描く世界は、とても優しいです。ご自身のしなやかな強さ、この世界をまるごと肯定する懐の深さなどもあると思うのですが、すべての登場人物を優しい眼差しで見つめているのが、初めて読んだ時に印象に残りました。

主人公・毬毛(まりも)は、自分の名前に悩む高校生。父親が帰ってこない日が続き、同級生の篤人と共にその謎に迫っていくことになります。地域に根差したコミュニティの中での濃密な人間関係、その中で静かに深まるドラマが丁寧な筆致で描かれ、小寿々さんの作家としての技量と経験値が遺憾なく発揮されています。

父がいない中で毬毛がともに過ごすのは、父の再婚相手の涼花と、涼花のかつての夫の母親である和。涼花と和のあいだにも、隠された事情があり、物語が進むにつれて明かされていきます。

不安定な「家族」の中で暮らす毬毛の胸の内は、以下のように語られます。

 二人への思いは、やはり父に対するものと同じではない。
 かといって、二人のことが嫌いではない。この生活に不満もない。でも、嬉しさを感じているのではないし、安心とも違う。
 自分の気持ちを表す的確な言葉が思いつかない。もやもやとした気分になる。他人との距離が上手くつかめたのなら、もっと違う感想を抱いていたのだろうか。
 和さんや涼花さんは、私のことを本当に家族だと思っているのか気になった。

「私を 想って」第二話より

毬毛の中の名付けられない感情が丁寧に描かれることで、彼女の心もとなさや宙ぶらりんな感覚が伝わってきます。ここ、小寿々さん上手いなー!!と心で拍手しました。人生の中で抱えている感情を名付けてはいけない段階って、確実にありますよね。それを認識し、許容している小寿々さんの観察眼の鋭さと懐の深さが大好きです。


小寿々さんの最新作「Horror House カンパニー」は、打って変わって軽やかな筆致で描かれるホラー小説。登場人物のネーミングにニヤッとします。ホラーが苦手な私ですが、この作品の軽やかさには救われました。途中、とっても怖いですが……! こちらもぜひ!



◆みくまゆたんさん「それは、パクリではありません!」(お仕事小説部門)

【あらすじ】

中井紀子は、本の制作に携わる仕事(小説家や、出版社など)に憧れていた。ところが就活、公募コンテストも上手くいかず、夢破れて編集プロダクションで派遣社員として働く日々。

 ある日、紀子はインターネットで「漫画広告」を目にする。漫画は、紀子が小説サイトで綴っていた小説と、タイトルや内容が酷似したものだった。

 作品をパクられたと感じた紀子は、漫画家をSNSで告発をするが、今度は名誉棄損などの罪で法的措置を取られる羽目に……。頭を抱えていた矢先、ファンと名乗る男性からDMが届く。男は弁護士で、紀子をサポートしたいと伝える。

 著作権問題と戦う、派遣社員の奮闘ストーリー。

「それは、パクリではありません!」より

みくまゆさん渾身の一作! ご自身の実話を基にした部分もあるとのことで、非常にリアリティのある作品です。書くことをしていると避けては通れない「著作権」の問題に真正面から挑んでらして、めちゃくちゃかっこいいなあ……と思いながら夢中になって読みました。

また、細部に至るまでのディテールの書き込みが非常に細密であるにもかかわらず、リサーチの苦労をまったく見せないみくまゆさんの筆力の高さにも唸りました。法律関係など自分の言葉・表現に昇華させるのが難しい領域であるにも関わらず、その壁をらくらくと超える様子を、指をくわえて見つめておりました。

冒頭、主人公・紀子は、現在の仕事や日々の生活にくすぶりを感じていて、同僚の女性からは「ふわふわしている」と指摘を受けます。この同僚の方とのやり取りに、心をきゅっと掴まれました。

「私はそれ以上に、目の前の仕事をきっちり責任持ってこなすことが大切だと思うの。中井さん、いつもふわふわしてるから気になっていて」

「ふわふわって。前からよく近藤さん言うけど、何ですか?」

「心ここに在らずという意味よ。本当は、なんでこんな仕事してるんだろうって思ってない?」

 近藤さんからそう言われて、紀子はぎくりとした。

「目の前の仕事を責任もってこなさないと、やりたい仕事には辿り着けないから。あなた、頑張りなさいよ」

「それは、パクリではありません!」第1話より


近藤さんの最後のせりふは、とても重たいものです。ただ、この時の紀子は底の底までは受け止めきれず、のちの展開へと進んでしまうのですが……。

「目の前の仕事を責任もってこなさないと、やりたい仕事には辿り着けない」──これは、ライターとして働いてこられたみくまゆさんの矜持でもあるのだろうなと感じました。この言葉を読んで、私もがんばろうと姿勢を正したのを思い返します。


みくまゆさんは創作大賞に非常に多くの作品を応募されておいでです。どの作品をご紹介しようか迷うのですが、迷ったらこれ!ということで、「【振り返り&あとがき集】創作大賞2024にガチで挑んで、ぶっちゃけどうよ?過去応募作とともに振り返る(※企画の提案あり)」をご紹介させていただきます。

ここから「#創作大賞2024あとがき集」も始まった、伝説のnoteですね。みくまゆさんの呼びかけに応えて、多くの方々があとがき集を出されて、とても嬉しいです!



◆蒼龍 葵さん「砂の城」(恋愛小説部門)

【あらすじ】

田畑麻衣は実兄の忍を幼少期より敬愛していた。年々歪んだ愛の形は膨れ、父親の他界をキッカケに家族は崩壊する。

 昔から母親と衝突を繰り返す兄は仕事で住み込みをすると偽り、行先を告げずに家を飛び出しそのまま絶縁状態となった。

それから3年。

 大学を中退し最愛の兄を探し続けてた麻衣は働いていたキャバクラでの源氏名を使い、彼と念願の再会を果たす。

 背徳に塗れた彼女の行為に幸せの城への道は続いているのだろうか。

「砂の城」より


兄と妹の禁断の愛。これ、じつはオペラでも描かれているんですよ。ワーグナー作曲の四部作《ニーベルングの指輪》の第一夜《ワルキューレ》では、生き別れになった双子の兄妹が再会し、惹かれ合います。彼らは悲劇的な運命をたどりますが、彼らの息子・ジークフリートは英雄として育ちます。

わたしがワーグナー好きだからなのか、兄と妹という設定を不思議なほどすんなりと受け入れることが出来ました。なにより、葵さんの描く麻衣と忍がとても魅力的な人物なので、読み進めるうちに親戚のおばちゃんのように、「ふたり、うまくいくといいんだけど……」と心配するようになってしまいました。こうして共感を抱けるキャラクターを描けるのは、葵さんの才能ですね。

忍へと向ける麻衣のひたむきな思いは、冒頭の描写からも感じられます。

 私の職場は新宿歌舞伎町。それなのに、毎日反対方向の青梅街道を電動自転車で駆ける。今日はもしかしたら、あの人に逢えるんじゃないか……なんて淡い期待を抱いて。

 でもこんな馬鹿げた生活を何年続けた所できっとあの人には逢えない。彼は、私を捨てて家を出ていった。3年前に父さんが事故で他界して、変わった母さんと全く折が合わなかったから。

 ──ねえ、忍。貴方がこの近くを毎日毎日ランニングしているのは知ってるんだよ。
 一体いつになったら逢えるんだろう。親から独立した今なら、きっと忍も私の思いに応えてくれるんじゃないかな。

「砂の城」第1話より


毎日、会えるかどうかわからない人を探すために、職場とは違う方面に向かって自転車を走らせる……私にはきっとできません。なんだかんだ言い訳をして、断念してしまいそうです。でも、主人公・麻衣はそれをしない。決して諦めない。

その麻衣の想いの強さは、物語の随所にあらわれます。途中、想いを断念しようとする場面もあるのですが、それでも麻衣は迷いの果てに、忍への想いをつらぬく道を選びます。

ふたりの想いの純粋さが際立てば際立つほど、私の中の親戚のおばちゃんは、「あんたたちいいわね! がんばりなさいよ!!」と大喜びしておりました。若者が一途な想いをつらぬくというのは、嬉しいものです。

途中「砂の城」の由来が語られる場面もありますが、それはぜひ、お読みになって確かめていただきたいと願います。


葵さんは、多くの作品を書かれているのですが、看護師としてのご経験を生かしたこのマガジンはぜひみなさまにお読みいただきたいです。


特に「体験談から語る水分摂取の必要性」は必読! 気がつくと熱中症になりがちなこの季節の対処法が、専門家の立場から細かく書かれています。ご自身の経験をもとに書かれたこのnoteは、鬼気迫るものです。どうか葵さん、お大事になさってくださいね……! 私もお水をたくさん飲みます。


◆and more……!

創作大賞応援期間は過ぎると思いますが、皆様方の作品を読んだ感想をこの記事に加えていく形で綴っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

夏はまだまだ続きます。この夏を健やかにのりきっていきましょうね!!








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