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音の旅・2──呼吸と歌のこと

昨日の東京は風と雨の吹き荒れた一日でした。明けて今日は春の青空が広がっています。嵐の一日があると、こうした穏やかな一日のはじまりをとても愛おしく思えます。

昨日はおかのきんやさんとZOOMでお話させていただいたあと、ボイストレーニングのお教室のレッスンに行ってきました。

3月末に発表会を終えて、新年度のはじまりは心機一転、基礎のトレーニングから始まりました。体を動かして、呼吸法や脱力に時間をかけ、「さくらさくら」の最初の部分をラララで歌っていただきながら、おひとりずつ心と体の使い方を整えていきました。

おひとりおひとり、積み重ねてらした経験や思考が違うので、心と体の使い方の癖もそれぞれに異なります。その方に合わせて、さまざまなお声がけをさせていただき、心と体の調整のお手伝いをさせていただきました。


遠くまで響く声は、余計な力のない声

お教室にはいろんな方がいらっしゃいます。ちょっと反り腰で、肩や首に力が入りすぎている方。全身から力が抜けているけれど、おなかがちょっと出っ張っている方。歌う時になると顔の表情筋に力が入りすぎてしまう方。様々な方がいらっしゃいます。

全身に力が入りすぎている方の声は、近くで聞く分には立派な声です。討ち入りをする武士のような雄々しさもあります。けれど残念ながら、そうした声は遠くまで届くエネルギーを持っていません。近くでボトリと失速してしまいます。

それに対して、全身の筋肉が柔らかく、にこやかに微笑みをたたえて歌われる方の声は、はっとするほど深く響きます。必要十分な力は入っているものの、余計な力は取れている、濁りのない声。部屋中に波紋が広がるように、響きが深く広がっていきます。クリアに広がる響きに、私の心も清まっていくようでした。

体の状態は、心の状態も如実に表します。心と体の積み重ねから抽出される声からは、その方がどのように人生を生きてきたかがわかります。ひと声聞かせていただくと、その方がどのような方か、だいたいわかります。

体と心をつなぐのが、呼吸。呼吸を自分の意思で調整することで、自律神経も整っていきます。どんな呼吸の仕方を選ぶかは、自分の意思、つまり心で決められます。そうすると、呼吸を変えることによって体の状態も整ってきます。こう書き出してみると、自分の体の状態には意思や心のあり方も大きく反映されているのだということも理解できます。

にこやかに、朗らかな息で

歌がうまくなりたいという方のお話を聞くと、大きな声を出せるようになりたい、綺麗な声を出せるようになりたいということをよく聞きます。もちろん、そのお気持ちはよく理解できます。

ただ、きれいな声を出せるようになりたいからと言って、声そのものにアプローチするのは実は遠回り。それよりも、呼吸の仕方を整えていく方がおすすめです。

たとえば、長いフレーズをひと息で歌いたいからと言って、苦しくなるぐらい息をたくさん吸い込むことは、おすすめできません。体に余計な緊張が加わってしまい、苦しい音楽しかできなくなってしまいます。

適切な息の量というのは、自分の体がいちばん理解しているものです。親しい方を見つけて、「こんにちは、お元気ですか」とにこやかにお声をかける時の息。これが、基本となるニュートラルな息です。

このにこやかで朗らかな息で呼吸していると、体の内側の状態も整ってきます。余裕をもって音楽に寄り添っていられます。音楽は、自分の心と体の内側を通り抜けていく、とても親しい友達だということを理解できるようになります。

呼吸法については、以前電子書籍を発行したくて原稿を書き溜めていたことがありました。いま読み返すと拙い部分もありますが、記録のためにリンクを貼っておきます。


自分自身も回復の途上

……と、物をわかった風に書いていますが、去年はこの大事なことを見失ってしまった一年でした。音楽を自己表現や自己実現のツールと捉えてしまった時期もあり、自分の意思で音楽を扱おうとしていたこともあったように思います。そして、心と体のバランスを崩してしまいました。

昨日は皆様とご一緒に呼吸法の基本に立ち返ることで、私自身も大事なものを取り戻すことができました。会の皆様方に心より感謝申し上げます。

自分の録音の中で、いちばん穏やかな息で歌っているのがブラームス作曲の「君の青い瞳」。慎みをもって深い恋心を歌い上げる、真珠のように美しい作品です。

ブラームスの音楽は、とても好きです。今年は年末にシューベルトとブラームスの演奏機会が控えているので、とても楽しみです。ゆっくり勉強していこうと思います。

ゆったりとした呼吸で自分自身を深く癒やしながら、これから先の未来を楽しみに描いていきたいです。



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