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4年間推しだった彼へ

失恋したんだ。また。こんな高スパンで失恋ってするもんだっけ。
いいんだよ、別に、泣いていないし、今回は。

私には「推し」がいた。(以下Aくん)もうかれこれ4年も推してしまった。
一度も会話をしたことがないし、多分相手は私の名前も何も知らない。
「大きな同じコミュニティに属している」だけの関係性であった。
私は彼のことを推していたし。今まで生きて来た中で一番どタイプな見た目だった。周りから共感を得たことは少なかったが、私と同じように彼の外見が好きだという女の子は数人いた。

よくある、好きな人には好きってやつ。私は大好きだけどね。

そんな彼と話すこともなく、たまに横をすれ違えば「何気に声が低いんだな。」なんて思うくらいで、それ以上でも、それ以下でもなくて。

そんな彼の連絡先を友達伝いにもらったのは今から1ヶ月くらい前のこと。
帰り道に何て一発目のラインは送るべきか思案しながら、お酒の勢いを借りて挨拶をした。
彼からも同じような挨拶が返って来て、何気に疑問文をたくさん送ってくれるからどんどん会話が続いて。

そしたらカフェに行くことになった。私の顔も何も知らないのに、この人すごいな。なんて思いながらも心の中でガッツポーズして、その日を迎えたのであった。

4年間推してしまったんだから、こちらの情報量とあちらの情報量の差に気をつけながらお茶を飲んだわけだが、中身も100点だった。

「あなたを4年間推して来たけど、外見も中身も100点ですね。」

って言葉をジンジャーエールで流し込んで、うなずいていた。
最高だったんだよ、あの時間。帰り道に友達に急いで連絡して「最高すぎる。」なんて何度も伝えていた。


その後も、なんだかんだで4回ほど週一のペースで出かけてた。
この歳になって、紹介で4回出かけていたらそりゃ色々考えるわけで。

彼が恋愛経験ないことも、超奥手なことも分かっていたし、友達にも何度も言われていたのに、やっぱりはっきりさせたくなってしまった。
よく「女性は白黒つけたがって、男性はグレーが好き。いろんな関係が女性側から破綻させてしまうのは、その違いによるもの。」なんて言うけど今回がその良い例だろう。

彼に「好き」とも「付き合って欲しい」とも言っていないがそれ以外の全ての言葉を伝えてしまった感はある。「私のことをどう思っているの?」なんて聞き方をした。こんな自己防衛的な聞き方をするからいけなかったんだろうか。傷つきたくないのに、何かを得ようとするなんて、ズルすぎたか。

「うーーん、今は友達感が強いと思っている。でも色々考えないわけじゃないけどね。」

「色々考えるって?」

「そりゃ、付き合うとか。そう言うこと。でもまだ出会って1ヶ月くらいだし早いかなぁとか考えちゃう。俺、付き合うことへのハードルが高いんだとね。」

「そうなんだ。」

こんな話をしていたら、めちゃくちゃ気まずいし、彼は自分の兄の滑らない話をしようとするし。こんな状況でする話なんかダダ滑りするに100万賭けたっていい。
でも、私は彼のそんなところも好きだったじゃないか。

「そういえば、俺のことなんで知ったの?なんかのグループで一緒になったかな、とか考えていたんだけど。」

そんなの口が滑っても4年間外見がどタイプすぎて推してました。
何かにつけて友達にその話をしていたし、なんなら元彼にも話していました。
なんて、さすがに言えなくて。でも、もはや失うものなんて何もないんだしもう今後気軽には話せないだろうし。
後悔の荒波に揉まれながら少し脚色した答えを伝えた。

「いや、普通にかっこいい人だな、って思っていて。あと前に、日焼けしたのを友達にからかわれてた時に、ボランティア行って焼けたって言ってたから、絶対良い人なんだと思った。」

後半の文章だって嘘ではないから良いだろう。

「あぁ、1年の時のボランティアね。」

しまった。3年前の友達と彼がしている会話を覚えている女ってどうなんだ。彼の反応が微妙なのが答えだろう。もういい、もういいんだ。

こんな風に、お互いの気まずさを他の話で埋めながら、心地悪い時間を過ごして、でもはっきりさせたい性は、こんな時に存分に発揮されてしまう。

「で、今後会う予定もないから作れば会うだろうけど、でもそれを繰り返すのは、とか「言いたいことは分かる。」

彼の言い方が強くなったことに一抹の不安を感じながらこれ以上の言葉は聞いてはいけない気がした。答えが欲しかった癖に、もらう直前になると、やっぱ聞きたくなくなるのも私の性だろう。それが期待している答えじゃないことも分かっているから。

「中途半端な関係も良くないし、失礼だから。」



「つい最近、少し気になる人ができたんだよね。」


「へぇ〜そうなんだ。」


ふーーん。
いつから?私たち初めて会ったのは1ヶ月前だけど。
「その気になる人とは、俺もまさかって不思議な感じで出会ったんだよね」なんて、こっちの気も知らずに1トーン上がった声で話してるし。


「でも、俺もその2人で、どうすれば良いか、って言うか。本当にこんなこと言うのはダメだと思うし、最低だと思うし」

「いや、最低だとは思わないよ。」

きっと本当に最低なら、私のこともキープするでしょ。
でも、本当に同じレベルで迷っているなら、気になっている人がいるなんて言わないだろうし。ここにおいても彼の誠実さを感じてしまうのが悔しいけど。



こんなことがあってからは、お互い気まずくて、前みたいに気軽に話せなくなったわけで。それが嫌だから「好き」も「付き合って」も言わなかったのに、まんまと同じ結果になってしまった。
後悔しても仕方ないけれど、やっぱりまだこんなこと聞かずにもっと仲良くなってたら、気になる子よりも私の方が良いと言う答えをくれたのかもしれないと言う淡い期待を抱いてしまう。



こんな話をとある知り合いにしてみた。
彼は私の周りにいる男性とは真反対のタイプだけど、話す内容にはどこか知的さを感じさせる時があるから見た目に反して面白い話が聞ける。

「てか、めんどくさい。その、言わなければ〜みたいなやつ。て言うか、どうせ告白しても付き合うハードルが高いとか言われて振られるし、今回みたいな聞き方でも、こうなるし。言わなければ、なんてどっちにしろ変わらなかったよ。」

「てかさ、みんなソイツが女の子と手も繋いだことないし、チューもしたことない童貞で、奥手だからそれアリにしてるわけでしょ。気になる子とも出かけてるか知らないけれど、じゃあそれ童貞でも奥手でもない男がやってたらどう思うの?女の子天秤にかけて遊んでる、とでも言うでしょ。」

「奥手で童貞だから、同じ女の子と10回出かけても何もできない、ならわかるけど、そうじゃないんでしょ?あなたと出かけても全然話せる人だし。だとしたら、その気になる人ともそうだろうし。女の子と二人きりで出かけるのがデートと思わないなら、奥手で童貞だけど女の子とそう言うことはできる人なんだ、ってことでしょ。
あと、彼の中ではまだ、自分が選ぶ側だってのがあるんだよ。何かしらと恋愛を天秤にかける癖があるんだろうね。だから今までモテないわけじゃないのに彼女ができたことないんだよ。」

「てか、そんなの俺からしたら、恋愛のハードル云々とかガキが、って言いたくなるけど、いいねぇ〜青春じゃん。まぁ俺があなたの立場なら、舐めんなよって思うけどね。だって4回出かけて気になる人がいました〜ってじゃあ私との4回はなんだったの?って話だし。まぁ仕方ない、綺麗に振られたってことだよ。知らないけど。」

なるほどな、と聞きながら「Aくんはそこまで考えて色々できる人じゃないなんて思うけど。」「てか、あなたが思う以上にAくんは素直で良い人なんだから。」なんて言葉が出かかったけれど、言い出せなかった。

一意見として、なんだか妙に納得してしまった。

「そっか、そうだよね。」

元気のない私の言葉に

「な〜んてね、俺も童貞って言ったらなんでも許してもらえるなら、童貞って言おっと。」

これは彼なりのユーモアなんだろうけど。それまでの言葉の攻撃力500だかんな。

でも私は、A君の「わざわざありがとう。もらったお菓子は大切に食べるね。」ってお菓子に大切なんて言葉をつけるところを見たら、やっぱり彼は素敵な人だったと思うし、彼の素敵さは私が分かってるからいいんだ。

そんなこんなで私と推しの4年間は終わりました。
震えるほどの失恋の後にやっと、と思ったら今度はナチュラルに失恋したわけで。

でも、彼と4回出かけている時の自分のウキウキしている姿は思い返しても楽しかったし素敵だったと思う。だからいいんだ。「自分のことが好きになれるような恋をするべきだ。」とよく言うけれど、だとすれば今回は良い恋だった。それだけで良いって思うことにする。

と、綺麗事が言えるまで少し日にちがかかったのも事実で。
まだ、やっぱり色々考えてしまうのは、さっきの言葉を借りれば私もガキなんだろうな。

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