[小児科医ママが解説] おうちで健診:いつまで寝返りできなかったらマズい?寝返らない原因は?
「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。
前回で4か月健診のフライヤーを終えまして、今回から6~8か月健診にうつります。はじめは「寝返り」について。
うちの子、まだ寝返りしないんだけど、大丈夫なの?
っていうか、なんで寝返らないの?
そんなポイントを見ていきましょう。
今回の主な参考文献はこちら。
生後6ヶ月で「25%の赤ちゃんはまだ寝返らない」データもあり。
受診の目安は「7ヶ月後半~8ヶ月でも全く寝返るそぶりなし」の場合か。
教えて!ドクターのフライヤーでは、受診を考える目安として「寝返りをしない場合」と書いてあります。
が、いつまでに寝返らなかったらマズイの?と疑問な方もいらっしゃると思います。
結論からいえば「7ヶ月後半~8ヶ月になっても全く寝返らない・寝返ろうとする様子がない」場合は、受診を考える一つの目安です。
なんとなく、寝返りは、生後5ヶ月ころにできるのかな?と思っている親御さんも多いと思います。
私たちも医学生の頃に「ゴロ(5、6)っと寝返り(→生後5、6ヶ月頃に寝返り)」などと覚えます。
各文献では、実際どのように報告されているのでしょうか。
たしかに平均でみると5~6ヶ月の子が多いのですが、あくまで平均。
正常の範囲としては生後8ヶ月まで、としている文献もありますね。
もう少し詳しい、日本のデータがあります。
どうでしょうか。
6ヶ月くらいだと、まだ75%くらいの赤ちゃんしか寝返りできないんじゃない?7ヶ月くらいになると、やっと90%の赤ちゃんが寝返り。
というデータもありますね。
というわけで、ざっとまとめると・・・
という見解でした。
逆方向にも寝返るのは、最初の寝返りから、数ヶ月かかることも。
「なんか右方向ばっかりに寝返るんですけど大丈夫ですか」というのも、ときどきいただく質問です。
「逆方向にも寝返るようになるのは、数ヶ月かかることもある。だからひとまずは様子を見ましょう。」というのがお答えです。
数週間~数ヶ月たって、赤ちゃんも寝返りに慣れてくると、こうした症状も目立たなくなってきます。が、これも個人差があります。
たとえば、逆方向にも寝返るようになるまでに、最初の寝返りができてから、どれくらいの期間がかかったか、日本の赤ちゃんの報告があります。
33人の赤ちゃんをみたときに、27人の赤ちゃん(81%)は1~2週間以内で、逆方向にも寝返るようになりました。
が、残りの6人の赤ちゃん(19%)は、最初の寝返りから2~4ヶ月かかって、やっと逆方向に寝返るようになったという報告があります。
(脳と発達 1983; 15: 503-506.)
なおこの研究では、この寝返りの方向は、向き癖とは関係がなかったとのことです。
というわけで、基本的には、一方向にしか寝返らない状態がつづいたとしても、数週間~数ヶ月、ひとまず様子を見ましょう、としています。
「寝返らない」原因ってなに?
じゃあ、生後7ヶ月後半~8ヶ月になっても全く寝返ろうとしない。そんな「寝返らない」原因は何なのよ。って話になってきます。
たとえ生後8ヶ月で寝返らなかったとしても、その後ハイハイと同時に寝返ったり、1歳をこえて歩きだしたり、というお子さんもいます(詳細な報告が見当たらず「○%」と明確には伝えられないのが申し訳ありませんが)。
が、一応、寝返らない赤ちゃんを見た時に、小児科医は以下のようなことを考えます。
一つずつ見ていきましょう。
①腹ばい・うつぶせの姿勢が嫌い。
医学的なきちんとした○%!という報告がないのですが、わりと多い原因の一つです。
寝返ったあと、赤ちゃんは腹ばい・うつぶせの状態になるわけですが、これが嫌い。だから寝返らないよ~という赤ちゃんが一定数います。
寝返らないけど、体ごと横向きにするのはよくやってます~という赤ちゃんも多いですね。
②寝そべっているだけじゃ手の届かない世界に、興味がない。
寝返りをし始める赤ちゃんは、体ごとゴロンと左右に向けて、自分の体の左右をよく見ていることがあります。
実際に、寝返りをし始めることの赤ちゃんは、「目で見ている方向と、体を回そうとする方向が一致している頻度が高くなっている」という報告もあります(発達心理学研究 2011, 第22巻, 第3号, 261-273)。
「自分の見たい方向に、体を回して見る。」
当たり前じゃん!って感じですが、赤ちゃんにとっては非常に大きな一歩です。
体を動かしてまで「何かを見たい」という気持ちがうまれること。
バウンサーやプレイマットの上に、あおむけでぽんと置かれて、ひたすら天井を見ている状態からの、進化です。
自分の周りの世界に、ますます興味がでてきていなければ、こうした気持ちはうまれません。
「目が合うか」「指さしするか」「なん語や言葉をしゃべるか」というのも、もちろん赤ちゃんの対人社会性を見る大事なポイントです。
が「寝返り」という動作ひとつにも、こうした赤ちゃんの「気持ちの成長」(精神発達)が関係しているんですね。
③筋肉の緊張が弱いor強いために、寝返ることができない。
④筋肉をうまく使いこなせない。
寝返るためには、体ごと横を向いたり、そのタイミングでうまく首をそらせて持ち上げたり・・・と、赤ちゃんにとっては、全身の筋肉を使う重労働です。
体を動かすというと、筋肉の「力」をイメージしがちですが、実はこうした運動の発達には、筋肉の「緊張」も非常に大切です。
筋肉の緊張が弱すぎる・強すぎる場合も、うまく寝返ることはできません。
とくに重大な病気でなくても、もともと筋肉の緊張が弱めなお子さんもいます。
が、場合によっては、筋肉や神経の病気(筋ジストロフィー、ミオパチー、脳性麻痺、先天性の遺伝子や染色体の病気など)で、筋肉の緊張が正常でない場合もあります。
また、1つ1つの筋肉や神経自体の機能はわるくない。
でも、全身の筋肉や神経をうまく連動させて、一連の動作をするには、ちょっと不器用。
そんな体質のお子さんもいます。
医学的には「(発達性)協調運動障害」などといいます。
そのほか、寝返りができる頃に、迷路性や視性立ち直り反射といった、神経の発達の過程で獲得していく反射が見られることも報告されています。
(脳と発達 1983; 15: 503-506.)
つまりこうした反射がうまく発達していない場合も、寝返りがうまくできない原因になります。
寝返りが平均よりも遅れたお子さんのうち、こうした疾患や状態が何%みられるのか。これも医学的な詳細な報告はなく、申し上げられません。
(いずれも多い割合ではない、というのは臨床上の感覚です)が、寝返らないお子さんを見たとき、小児科医は頭の片隅で、こんなことも考えているよ、というのが伝われば幸いです。
いかがでしょうか。
寝返りの時期や受診の目安、また、寝返らない原因を見てきました。
次回は、寝返りをしない時に、なにか自宅でできる対策・トレーニングはあるのか。また、寝返りできた!と思ったら、寝ているときに寝返ってうつぶせになって困っちゃう。
そんな点を見ていきたいと思います。
(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)
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