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[小児科医ママが解説] 喘息って、結局なおるの?

前回は「喘息"っぽい"って何よ?結局、喘息なのどうなの?」ということで、子どもの喘息の診断は難しいけれども、いくつか基準が提唱されていることなどをお伝えしてきました。

今回は、喘息って結局なおるの?という点です。

非常によくご質問をいただきますし、親御さんとして、一番きになる点でもありますよね。各国の論文・報告をまじえながら、見ていきたいと思います。

発症は2~3歳がピーク。治るかどうかは 6~65 %?!

小児気管支喘息 治療・管理ガイドライン 2017(日本小児アレルギー学会)の内容を、かなりザックリまとめ&抜粋すると、以下のように書いてあります。

●そもそも喘息の有病率は10 %くらい。(年齢層や地域によって差あり)
●喘息を発症するのは乳幼児期、とくに2~3歳がピーク。が、最近はもっと低年齢でも診断される例も増えてきている。
喘息が大人になって治るかどうか、は、報告によって6~65 %とかなり幅がある男の子、喘息の症状が軽い、吸入抗原(スギなどの花粉や、空気中のカビなど)にアレルギーがない、他のアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎や鼻炎など)の合併がない例では、治る可能性が高いのでは、というのが一般論。

・・・大人になったら喘息が治るかどうか 6~65 % ですよ、って、幅が広すぎる数値ですよね。

というのも、お子さまは「喘息」とそもそも診断するのがむずかしいこと、またひとくくりに喘息といってもいろんなタイプがあるので、そもそも1つの疾患として扱うのがむずかしい疾患でもあることは、前回も紹介しました(記事:喘息"っぽい"って何よ?結局、喘息なのどうなの?)。
まぁここまで幅が出てしまうのは、仕方がないといえば仕方がないのです。

というわけで、もう少し具体的に、世界の報告を見ていきましょう。


ゼイゼイが軽いと46 %は治るかも。【重症・女性・花粉症】は治りにくい?


Melbourne Asthma Study

開始は1964年と古いですが、7 歳のお子さん484人を、50歳まで追跡調査した大きな研究です。

①“Prevalence, natural history, and relationship of wheezy bronchitis and asthma in children. An epidemiological study.”(Br Med J. 1969;4:321-5.)
②“Phelan PD, Robertson CF, Olinsky A. The Melbourne Asthma Study:1964-1999. “(J Allergy Clin Immunol. 2002;109:189-94.)
③“Outcomes of childhood asthma to the age of 50 years.” (J Allergy ClinImmunol. 2014;133:1572-8.e3.)


ゼイゼイの症状がかるい順に、4段階にわけています。
(1) mild wheezy bronchitisグループ:感染に伴うゼイゼイが5回未満
(2) wheezy bronchitisグループ:感染に伴うゼイゼイが5回以上
(3) asthmaグループ:感染していないのにゼイゼイがある
(4) severe asthmaグループ:3歳前から発症→10歳前までの2年間に少なくとも10回以上発作 or 10歳担っても持続した症状がある

結果は、以下のようなものでした。
●(1) (2) は10歳以前に46 %が治った。
●(3) が治ったのは14〜21歳の間が一番多かった。
●50歳の時点でゼイゼイが治っていた割合は、(1) (2) 64 %、(3) 47%、(4) 15%。
50歳まで喘息が治らないリスク因子としては、重症の喘息であること、女性であること、小児期に花粉症があること。

ザックリ、メッセージをまとめるなら、幼少期のゼイゼイが軽いほうが、早く・そして高い割合で、その後ゼイゼイが治りやすそう。重症・女性・花粉症は、大人になった時にゼイゼイが治りにくいリスク。といったところでしょうか。


65 %は治るかも。【女性・アレルギー性鼻炎・湿疹・母親の喘息】は治りにくい?


Tasmanian Longitudinal Health Study

こちらも開始は1968年と古いですが、やはり7 歳のお子さん8,583人を、46歳まで調査した報告です。

①“Respiratory disorders in seven-year-old children in Tasmania. Aims, methods and administration of the survey.”(Med J Aust. 1969;2:201-5.)
②“Factors influencing asthma remission:a longitudinal study from childhood to middle age.”(Thorax. 2011;66:508-13.)

結果は、以下のようなものでした。
・全体の65%が、大人になった時にゼイゼイが治っていた。
・男性のほうが治った割合が高かった。
・アレルギー性鼻炎・湿疹・母親の喘息、などがあると、治りにくかった。

女性・アレルギー性鼻炎・湿疹・母親の喘息は、大人になった時にゼイゼイが治りにくいリスク。といったメッセージがつかめます。



27 %は治るかも。大人なるほど治りにくい・再発もあり。


Dunedin Multidisciplinary Health and Development Study

1972年〜1973年に生まれたお子さん613人を、3 歳~26歳まで追跡した報告です。

①“A longitudinal, population-based, cohort study of childhood asthma followed to adulthood.” (N Engl J Med. 2003;349:1414-22.)
②“Leptin, adiponectin, and asthma:findings from a population-based cohort study.”(Ann Allergy Asthma Immunol. 2009;103:101-7.)

結果は、以下のようなものでした。
・子どものときにゼイゼイがあった人のうち 27.4 %が、大人になった時にゼイゼイが治っていた。
・一度症状が良くなったけど、再発したのは 12.4 %。
・26歳までゼイゼイが続いたのは 14.5 %。
・ちなみにその後38歳までの経過も報告されて、やはり38歳までゼイゼイが続いていたのは11 %。

大人になるまでに一度良くなっても、再発することもある。26歳~38歳の間にゼイゼイが治るのは数%のみ。といったところが、大まかなメッセージでしょうか。


6歳以後もゼイゼイが続くと、治りにくい。


Tucson Children’s Respiratory Study

1980年~1984年に生まれたお子さん1,246人を、出生から成人まで追跡した報告です。

①“Tucson epidemiologic study of obstructive lung diseases. I:Methodology and prevalence of disease. “(Am J Epidemiol. 1975;102:137-52.)
②“Peak flow variability, methacholine responsiveness and atopy as markers for detecting different wheezing phenotypes in childhood.” (Thorax. 1997;52:946-52.)
③“Tucson Childrenʼs Respiratory Study:1980 to present.”(J Allergy Clin Immunol. 2003;111:661-75;quiz 676.)
④“Outcome of asthma and wheezing in the first 6 years of life:follow-up through adolescence.”(Am J Respir Crit Care Med. 2005;172:1253-8.)
⑤“Poor airway function in early infancy and lung function by age 22 years:a non-selective longitudinal cohort study.”(Lancet. 2007;370:758-64.)
⑥“Wheezing and bronchial hyper-responsiveness in early childhood as predictors of newly diagnosed asthma in early adulthood:a longitudinal birth-cohort study.” (Lancet.2008;372 : 1058-64.)


幼少期のゼイゼイの症状の程度の順に、4つのグループに分類。大人になってから、それぞれのグループで、どれくらいゼイゼイが続いていたかを検討しています。
(1) never wheeze:幼少期にゼイゼイしたことはなかった
(2) transient early wheeze:乳幼児期の早期にゼイゼイあり→6歳までに治った
(3) late onset wheeze:幼児期の後期からゼイゼイあり→6歳でも続いていた(4) persistent wheeze:乳幼児期の早期からゼイゼイあり→6歳でも続いていた

結果は、以下のようなものでした。
・小児期から平均22歳(18〜24歳)までゼイゼイが続いた割合は、(1) 8 % (2) 13 % (3) 42 % (4) 59 %。とくに(1) と比較して、(3) (4) のグループで、割合が有意に高かった。
●16〜22歳の間に新たに喘息と診断された割合は、(1)4 %  (2) 9 % (3) 15 % (4) 13 %。とくに(1)と比較して、(3) (4) のグループで、割合が有意に高かった。

ゼイゼイが6歳以後も続いているほうが、大人になってもゼイゼイが治りづらい。というのが大きなメッセージです。


どうでしょうか。


対象としているお子さんや地域、グループわけの方法なども異なるので、一概に結果をおしなべることはできませんが、たしかに総じて、【男の子、ゼイゼイが軽い、6歳以後にゼイゼイが治る、花粉症やアレルギー性鼻炎がない】といった因子があると、大人になったときにゼイゼイが治りやすい・喘息と診断されにくい傾向があるようにみえます。


とはいっても、お子さんによって本当にケースバイケースなのがゼイゼイ・喘息のむずかしいところ。

お子さんが必ずしも上記に当てはまらないからと言って、大人になったら喘息になっちゃうんだ、と悲観することはありません。

どんなお子さんにとっても・いつでも大切なことは、今できる治療を、きちんとしてあげること。治療について、かかりつけ医とよく話し合って、なんのために・いつまで治療するのかを把握してあげること。

私たち小児科医も、そのお手伝いが少しでもできればと思っています。

(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)


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