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[小児科医ママが解説] K2シロップ:吐いた。こぼした。飲み忘れた。飲みすぎた。どうすればいい?

赤ちゃんが産まれると「K2シロップ」という言葉を耳にしますね。
頭の出血を防ぐのに、大切な「ビタミンK」が入ったシロップです。

現在の日本では、「産まれた時に飲む」というのは、すべての赤ちゃんで共通しています。

が、赤ちゃんが初めて退院した後、K2シロップをどう飲ませるかは、病院によって様々です。

K2シロップの飲ませ方は、産んだ病院によって違う。


いま日本の病院では、①3回法 と ②3ヶ月法 が混在しています。

①3回法
(1)生まれてすぐ
(2)退院時 or 生後1週間
(3)1ヶ月健診
の3回だけ飲む

②3ヶ月法
・生まれてすぐ
・そのあと、生後3ヶ月になるまで、週1回飲みつづける
合計13回飲む

2018年の調査では、①3回法 が 55.6%の病院で採用されているとのことでした。

ただし ①3回法 できちんと飲んだお子さんでも、ごく一部ですが脳内の出血が見られた報告があります。
そこで最近は、②3ヶ月法がより良いのではないか?という流れになっています。

というわけで、②3ヶ月法を採用している病院でお生まれになると、
「週1回飲んでくださいね」と言われるご家庭も増えてきていると思います。

赤ちゃんがK2シロップを飲んだ後に吐いた時・こぼした時、などの、
トラブルシューティングをまとめました。

下記はすべて、日本小児科学会の見解を踏まえたものです。
新生児・乳児ビタミン K 欠乏性出血症の予防法に関する Q&A

吐いても、次の週にまた飲めばOK。


新生児〜生後3か月はまさに、吐き戻しも多い時期ですよね。
K2シロップをせっかく飲ませても、吐いてしまうお子さんも少なくありません。

日本小児科学会では「吐いても、追加の必要はない」としています。
つまり「吐いてしまったその1回は、スキップ」しても問題ないということですね。

というのも「少なくとも 9回以上内服することで、出血を予防する効果があるだろう」という研究報告もあるからです。
(Hansen KN, Minousis M, Ebbesen F. Weekly oral vitamin K prophylaxis in Denmark. Acta Paediatr. 2003;92(7):802-5)

13回全部パーフェクトに飲めなかったらどうしよう!
と焦る必要はない、ということですね。

飲み忘れたら、思い出した段階で、また週1回で再開。


週1回ということで、たとえば「火曜日に飲もう!」と決めていても、
昼夜関係なく赤ちゃんのお世話をしていると、曜日感覚なんてもはやどこかへ…

そんな疲れ切った状態だと、忘れてしまうこともあると思います。

日本小児科学会では「気づいた時点で、まず1回飲んで」とのこと。
そしてその後は、またその日から「週1回」のペースで飲めばOKとしています。

こぼしたぶんのシロップを、病院でもらえるかは、ケースバイケース。


産まれたばかりの赤ちゃんにシロップをうまく飲ませるのも、なかなか難しいもの。こぼしてしまう時もありますね。

ただし、例えば「1回、K2シロップをこぼしたので、1回分のK2シロップを追加でもらえるか」は、ケースバイケースです。
日本小児科学会でも「産まれた病院・クリニックで確認するように」としています。

退院した後もK2シロップが処方できるような体制なのか。
自費(つまり親御さんがお金を払えば、追加のK2シロップをもらえる)なのか。
これらは、医療機関によって様々かと思います。

そもそも「少なくとも 9回以上内服することで、出血を予防する効果があるだろう」という研究報告もあることを踏まえると、「1回分こぼしたくらいであれば、大丈夫」と考えても、医学的には妥当です。
(Hansen KN, Minousis M, Ebbesen F. Weekly oral vitamin K prophylaxis in Denmark. Acta Paediatr. 2003;92(7):802-5)

また「ミルク(人工乳)が半分以上を占めている場合は、1 か月健診以降であれば、ビタミン K2シロップの投与を中止してもよい」という医学的な見解もあります。
母乳にはほとんどビタミンKが含まれていないのですが、ミルクにはビタミンKが含まれているからです。
日本小児科学会新生児委員会ビタミン K 投与法の見直し小委員会, 「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイド
ライン (修正版)」

間違えて「毎日」飲ませていた!→気づいた時点で、週1に戻せばOK。


3ヶ月法では「週1回」飲む決まりですが、間違えて「毎日」飲ませていたようなケースです。
ほかにも「週2回」や「週3回」など、とにかく規定より多く飲ませていた事に気づいた場合、どうしたらいいか。

日本小児科学会では「気づいた時点で、週1回にすればOK」としています。

というのも、ビタミンK製剤を規定の量で口から飲ませている限り、ビタミン K 過剰症は報告されていないからです。
日本小児科学会新生児委員会ビタミン K 投与法の見直し小委員会「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン (修正版)」

海外でも、様々な投与方法が


日本でも「3回法」と「3か月法」が混じっていてややこしい!
と思いますが、海外に目をむけると、もっとグチャグチャなことになっています。

イギリスやオランダでは、まさに今の日本のように「3回法」と「3か月法」が混在しているようです。
一方で、デンマークではシンプルに、原則としてすべての赤ちゃんに「3ヶ月法」をとっているようです。

フランスでは、母乳栄養の場合について、「母乳のみの期間」が終わるまで週1回飲みつづける、というものです。
生後5か月くらいで離乳食を始めるとして、完全母乳のお子さんであれば、5か月くらい飲みつづけることになりますね。

アメリカはそもそも、産まれた直後の新生児に、ビタミンKの製剤を「筋肉注射」します。
日本ではNICUなど、産まれた直後に入院が必要となるお子さんにはすることがあります。
が、健康なお子さんでは、なかなか筋肉注射を採用している医療機関は少ないと思います。

筋肉注射のほうが、脳内出血予防の効果があるのではないか。
一方で、白血病のリスクになるのではないか。
そんな議論もあります。


いかがでしょうか。

赤ちゃんを産んだ退院した後って、色々と大変なのに、
赤ちゃんに飲ませなければいけないお薬があるというのは負担ですよね。

3回法や3ヶ月法。はたまた、違う方法が今後でてくるのか。
未来はわかりませんが、いずれにせよ、
「ビタミンKが、赤ちゃんの脳内出血を防ぐ効果がある」というのは明らかです。

少しでも安心、安全に、赤ちゃんのお世話ができる一助になれば幸いです。

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