ケーキを選ばない
欲しいものがふたつ
あるいはそれ以上あるとき
私は選びません。
どちらか選ぶんじゃなく
どちらも手に入れます。
小学生の頃
父方の祖父母と待ち合わせのために
ホテルのラウンジでお茶をするときに、
私はケーキセットを注文しました。
ケーキをのせたワゴンがお席にきました。
いちごののったケーキやモンブラン、
抹茶、オレンジのチーズケーキ、
四角い端正なチョコレートケーキなどなど。
私は
「これ、と、これ」とふたつ、指しました。
このエピソードは
私の実の父親を大層喜ばせました。
自分の娘は贅沢な子に育った、と。
しかし贅沢な子にもし育ったとしたら
それは父の力をさらに上回る甘やかし放題をしてくれた、母方の祖父母の力によるものではないかと思います。自分の手柄のように誇らしげな父を横目に。
先のケーキセットの話に戻ると
ふたつ指差したときに
どうして周りの大人がニコニコしているのか
本当に、ラウンジを後にしてから説明されるまでわかりませんでした。
ひとつしか選べないなんて聞いてないし。
パリで或る画家と話した折に
(彼は私の知る中で最も運転が上手い人のひとり)
私は欲しいものがあったらどちらか選ばないことにしているの、
と話したら
父より歳上の画家は
「もちろんだよ。ひゃく、選ぶなんて君らしくないよ。どちらも手に入れるべきだ。」と
ごく当たり前のことだよ、と
それは欲張りだとかそういうことじゃない、と
穏やかな笑顔で大きく頷いてくれました。
彼は私の人生におけるメンターのひとりです。
大事なパーティのドレスの色も
ぬいぐるみの名前も
決めてもらっています。
両方取るということは。
2倍以上の努力をすると最初に決定していることになります。
どちらか片方を諦めない代わりに
時間と労力を賭けると
自分自身に宣言する、という行動指針です。
じつはひとつのものを追求している行為です。
二兎を追うと言っても
半分ずつの集中力
片方の目で追う
訳ではないのです。
ひとつ努力したあとにすぐ次のチャレンジが
用意されていることになります。
このおかげで私は
自分自身に飽きずに済んでいるのです。
燃え尽きることなく次に火を移す。
ひとつ手に入れたら、もう次のケーキが欲しい。