ラジオドラマ脚本の読み方

小説と違ってドラマ脚本は、慣れない人には読みにくいものです。
映画やテレビドラマの脚本なら、見たことがある方は多いでしょう。名前とその下にセリフが書かれ、ト書きがあるアレです。
でも音だけのラジオドラマ脚本は、ほとんどの方が見たことがないと思います。そもそも、あまりラジオドラマを聞いたこともないでしょうし。

これからこのマガジンで、過去に書いたラジオドラマ脚本をUPしていこうかなあと思ってるんですが、ラジオドラマの脚本はちょっと特殊。慣れないと少し読みにくいかもしれません。
そこで簡単に、読み方を説明しておきます。

まず、映画やテレビドラマ脚本は、たとえばこんな具合。
*************************
〇学校の校庭(夕暮れ)
   学生たちが下校している。
   拓也が遠くから走ってくる。
拓也 お~い、おい、一緒に帰ろうぜ!
綾乃 いやよ! あんたなんかと。

〇綾乃の部屋
綾乃 ああ。私、なんであんなこと言っちゃったんだろう…。
**************************

陳腐なシーンなのはお許しを。説明のためなので。
読めばなんとなく情景が目に浮かぶでしょう。
これは登場人物が一人とか二人だからいいけど、複数の人が出たり入ったりすると、
「あれ、これ誰のセリフだっけ?」
なんて混乱することも多い。上に名前が書いてあってもいちいち読まないからですね。
さらに、読んでるうちにいつの間にか別の場所になっていて、
「あれ、ここはどこ?」
と思ったりもします。場所と時間を示す「柱」(ここでは〇で書かれている)を読み飛ばすからです。

このシーン、音だけのラジオドラマ脚本だとこうなります。
****************************
SE 学校のチャイム
SE 学生たちのガヤ~BG

拓也(OFFから)お~い、おい(→ONに)綾乃、一緒に帰ろうぜ!
綾乃 いやよ! 拓也なんかと。

M コーダ

綾乃 ああ。私、なんであんなこと言っちゃったんだろう…。
**************************

セリフだけ追っていればストーリーはわかるでしょう。でも、
「SEとかMとか…OFF? ON? いろんな記号がよくわからない」
と思うでしょう。その気持ちはよくわかります。私も最初はそうでした。
(ちなみに、これは説明のためにわざと記号をいっぱい入れてます。実際にはセリフだけが続くシーンが多いので、ご安心を)
説明します。

SEは、sound effect(サウンド・エフェクト)。効果音です。
映像がないので、場所が学校だとわからない。そこで、チャイムと学生たちのガヤガヤする声のSEで、ここが学校であることを示します。

Mは、Music。音楽です。「M コーダ」というのはその場面が終わったことを示す区切りの音楽。コントなら「♪チャンチャン!」だと思えばいいでしょう。これがないと、シーンが校庭から部屋に移ったことが伝わらないのです。
もっとも、これだけで「綾乃の部屋」であることはわかりません。N(ナレーション)で「部屋に帰った綾乃は…」なんて入れればわかるけど、それじゃちょっと説明的すぎます。たとえば、お母さんから「綾乃、ご飯できたわよ~」なんて声がかかれば、Nなしでもわかりますね。
「M ブリッジ」と書く場合もあります。これは、もっと長い時間経過や場所移動の時。その名の通り、ある場面から次の場面へのブリッジ(橋渡し)です。

OFF マイクから離れた音。つまり、遠くであることを示します。
ON その反対に、近くの音。だから、セリフがOFF→ONになると、その人が近づいたという「動きが耳で見える」のです。セリフだけでなく、SEでも同じ演出ができます。
映像ドラマだと、視聴者はカメラの位置からその場面を見ています。遠くにいる人は小さく映っている。音声ドラマではそれがマイクの位置になるのです。遠くにいる人の声はOFFで聞こえる。
耳で聞く物語が「朗読」ではなく立体的な「ドラマ」になるキモは、このON・OFFの使い方だと思っています。

~BG バックグラウンド。そのシーンの背景に低く流れている音のこと。
たとえば海岸を歩くシーンだと、セリフの背景に「SE 波 ~BG」。この場合「SE 波(砂浜)~BG」と「SE 波(荒磯)~BG」ではまったくシーンが違ってきますね。
怖いシーンだと、セリフの背景に「M(不安)~BG」で、ぐっとムードが出ます。こんな風に、演出面に一歩踏み込んで書くのがラジオドラマ脚本の特徴だと思います。

このサンプル脚本にはないけど、他には…
FI~ フェードイン。だんだんその音が聞こえてくる。
~FO フェードアウト。反対に、だんだんその音が消えていく。
CI~ カットイン。いきなりその音が聞こえてくる。
~CO カットアウト。急にその音が消える。
M(モノローグ) 誰にいうともなく独りで語る。
…なんてものなど、いろいろあります。
だいたい以上がわかっていれば、ラジオドラマ脚本は読めます。

ちなみに、ことさらセリフに「綾乃」とか「拓也」と名前が入っているのもラジオドラマ脚本の特徴。顔が映っていないので、最初は誰が喋っているのかわからないからです。

……とまあ、簡単に解説してみました。
コツは、「頭の中で、勝手にその音を鳴らしながら読む」です。
たとえば「SE 学校チャイム」とあれば「♪キンコンカンコーン」、「M ブリッジ」とあれば自分の好きな音楽をあてはめ、「SE 風~BG」とあれば口で「ひゅう~~~」と言ってみる。こうするとぐっと読みやすくなり、頭の中に映像が浮かんできますよ。

ここから先は

0字
その内容だけ興味がある方は一本ずつ購入できます。過去のものも購入できます。もちろん定期購読だと全部読めます。定期購読の方がお得です。

オモテもウラも藤井青銅

¥500 / 月 初月無料

基本は毎週1本掲載です。内容は、 「書き下ろしエッセイ」 「これまでに書いたドラマ脚本、落語、腹話術などの脚本、番組台本」 「単行本未収録…

お読みいただき、ありがとうございます。本にまとまらないアレコレを書いています。サポートしていただければ励みになるし、たぶん調子に乗って色々書くと思います! よろしくお願いします。