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出版の可視化対談 青銅×古川(2)

今回の本「一千一ギガ物語」はどんないきさつで出版にいたったか。ひとり出版社「猿江商會」の社長・古川さんを訪ね、アレコレと話してみました。その後編。(前編はこちら←

★タイトルと仕掛けと装幀

青銅 ぼくは最初、ただショートショートが並んだシンプルな短編集を考えてたんです。そしたら、原稿を読んだ古川さんが「全体を貫くあらたな仕掛けが欲しい」と。
古川 お手数おかけしてすみません…。ただなんか、過去の作品を復刻するって、編集者はなんにもしてない感があるもので。
青銅 正直なところ「めんどくさいことになったなあ…」と思いました(笑)。でも、そのアイデアはいいと思ったし、タイトルも、千夜一夜物語と「一千一秒物語」(稲垣足穂)のイメージから『一千一ギガ物語』というのを提案してくれたので、「面白い!」と受けざるをえない。
古川 とはいえ、青銅さんの原稿が「一千一メガ物語」と書いて戻ってきたので、「メガじゃなくギガです!」と訂正しました。
青銅 容量が少なくて、お恥ずかしい! で、全体を貫く仕掛けをどうしようか…と考えてるうちに、新型コロナで緊急事態が始まってしまった。
古川 直接会って打ち合わせもできなくなりましたね。
青銅 それで逆に、「そうか! 今、中高生は学校が休校になったり、リモート授業が始まったりしてる。それを描けばいいんだ」と思いつきました。
古川 ひとつの作品として「芯」ができた瞬間ですね。
青銅 全体の仕掛けができると、収録する過去の一本一本も細かく直したくなって、あちこち手を入れました。星さんは生前「私の作品は古びないと言われるけど、それは重版のたびに古びないよう細かく直しているから」とおっしゃってました。たとえば「電話のダイヤルを回した」を「電話した」にするとか、かつては「コンピューター」だったけど最近は「コンピュータ」だからそう直すとか。
古川 そうそう。音引きはけっこう大事です。
青銅 今回、まさか本の装幀を星さんへのオマージュで考えてくださるとは思いませんでした。
古川 ショートショート集をつくるに際して、やっぱり星新一さんの過去の作品をあらてめて読んでおこうと、たくさん買ったんですよ。その中の1冊に、『人造美人』(1961)という星さんの最初の単行本が偶然ありまして。これがまた古い本のわりに、一周回ってすごくかっこよかったんですね。で、オマージュというほどのことでもないですが、どうせなら、その本と同じ判型で、同じ製本にしたいなと思い、「小口折表紙」という仕様を提案したわけです。原価は若干高くなりましたが…。
青銅 嬉しかったです。星さんの初出版からちょうど60年後。暦も一周回ったわけですし。ウチには、ヨーロッパ旅行のとき星さんからもらったコートがあるんですが、本ができあがったらその前に供えたい!

人造美人

★「風が吹いている♪」どころではない

古川 とまあ、そんなこんなを経て、ようやくこの『一千一ギガ物語』が世に出ることになったわけです。
青銅 最近、なんだか世の中的には空前の「ショートショート」ブームになっているらしい。しばらくぼくがショートショートを書かないうちに、こんなことになってるとは! はからずも、絶好のタイミングになりました。
古川 もちろんこうしたブームというのは、この本にとっては大きな追い風ではあるんですが、実はいま、文芸の世界というのは、それとは比べ物にならないくらいの逆風が吹いているんですよね。逆風っていうとちょっと違うかもしれませんが、ひと言でいえば「売れる本しか売れない」んですよ。そう、東野圭吾と宮部みゆき、それと加藤シゲアキしか売れないんです(笑)
青銅 改名しますかね。東野シゲアキとか?
古川 僕の中では、けっこうまじめに「フジイセイドウ。」案もありましたよ。
青銅 カタカナで「。」付き? それもよかったかもしれませんねえ。
古川 本が売れない理由はSNSとかSNSとかSNSとか、まあ色々あるんでしょうけど…。
青銅 色々あるなあ。
古川 結果的に文芸の世界は極端にイスの数が少なく、有名な文学賞をとっているような作家さんでも、売れている人はほんのわずか。大手の出版社が新人の作品を刊行できるのは、いってみれば「当たれば大きい宝くじ」を買う体力があるから。強力な営業力と潤沢な宣伝予算をつぎ込んでも、いずれどこかで1等を当てれば回収できる。そういう見通しがあるからこそなせる業だといえるでしょう。
青銅 藤井青銅は「売れないくせに何十冊も出し続けてる謎の作家」と呼ばれてますが、それは売れてる方のおかげなんですね。ありがとう、東野さん、宮部さん、加藤さん!
古川 そこでわが身を振り返ってみるとですね……。青銅さんには申し訳ないのですが、営業力も宣伝力もほぼゼロ。なんたって、僕ひとりしかいませんから(笑) そよ風程度の逆風でもどこかに飛んでっちゃいます!

★「咳をしても一人、損をしても一人」

古川 著者である青銅さんを目の前にしてとても言いづらいのですが、そういうわけで『一千一ギガ物語』の前途はそれほど明るいとは言えません。いや、ほぼ真っ暗です(笑)
青銅 真っ暗かあ……。
古川 実はそうした真っ暗闇については原稿依頼の段階で青銅さんにはお話してるんですよね。僕的には、青銅さんならそんな暗闇仕事でも、きっと意気に感じてやってくれるに違いないと踏んでましたし。だって、面白いじゃないですか。
青銅 はい。迷った時は面白い方を選ぶ。これがぼくのポリシーですから。
古川 オードリーが言う「青銅イズム」ですね。僕はこれまで光文社と大修館書店という2つの会社に勤めていましたが、そこだとこの企画は絶対に通りませんでしたよ。会議にかければ、やれ「類書はあるのか」「著者のSNSのフォロワーは何人いるんだ」「そもそも藤井青銅って何者なんだ」みたいなことを散々言われるのが目に見えるようですからね。
青銅 それはよぉ~くわかっています。だから、ひとり出版社がいいと思ったんです。
古川 実際は、青銅さんのtwitterのフォロワー数が意外と多いので驚きましたが。
青銅 ぼくのフォロワーの7割はオードリーファンです。で、残り1割がウッチャンナンチャンファン。1割が伊集院光ファン。で、1割が柳家花緑ファン。
古川 青銅さんのファンは?
青銅 ゼロ。いや、マイナス1割ですかね。藤井青銅のフォロワーは、藤井青銅さえいなけりゃもっと多い。
古川 『人は見た目が9割』という本がありましたが、『藤井青銅のフォロワーはオードリーファンが7割』なわけですね。まあでも、それでもいいんです。この吹けば飛ぶような「ひとり出版社」は、僕が面白いと思えばそれでOK。たとえ1冊も売れなくてもその全責任をひっかぶる覚悟さえあれば、誰にも文句は言われません。
青銅 またまた、カッコいい!
古川 そういう意味では「ひとり出版社」っていうのは、ほんと最高なんですよ。あ、妻に捨てられなければ、の話ですが。

在庫棚

★出版界のYoutuberか?

青銅 Twitterで「今度の本は、ひとり出版社から出ます」とお知らせすると反響が大きかったんです。
古川 「ひとり出版社」というのは、出版界では十年以上前から話題ですが、多くの人にとっては初めて耳にする言葉かもしれませんね。
青銅 ひとりだから、売るのはネット書店のAmazonとか楽天が主戦場。宣伝も個人のSNSがメイン……というのは、実はネットを主戦場にするYoutuberとかTikTokerに似ている。そこらへんに、若い方が「新しい! 面白い!」と思ってくれたみたいです。
古川 HitoriShuppansher!
青銅 いいですねえ、ちょっと長いけど(笑)。この本、街の本屋さんでも手に入るんですか?
古川 それはもちろんです。ただ、従来の出版社の場合は、本屋さんが注文してもしなくても、取次という問屋さんから「だいたいこの書店ならこれくらい売れるだろう」という感じでお店に配本されるわけですが、うちの場合はそれがありません。本屋さんが「これ面白そうだから売ってみよう」と注文をしてくださったお店にしか置かれない。だから何とかして書店員さんの目に留まるように大騒ぎしなきゃいけないんです。Amazonの数字はたしかに大きいですけど、やっぱり出版社である以上、本屋さんに売ってもらって一人前ですから。
青銅 「たった二人で大変だな。おしっ、その本、売ってやろうじゃないか」という本屋さん。ぜひ、注文を! よし、決めた。全国の本屋さんで、「ウチの店で、藤井青銅の『一千一ギガ物語』仕入れたよ」という方はSNSで発信してください。見つけたら、ぼくが必ずRTして拡散しよう!
古川 必ず?
青銅 ただし、ぼくに見つかるように発信してくださいよ。あと、「あそこの本屋さんで売ってましたよ」という方からの報告も待ってます。それからこの対談読んで、「こんなおっさん二人だけじゃ頼りないぞ。ちょっと宣伝を手伝ってやろう」という方もSNSで発信してください。これも、可能な限りぼくがRTします。
古川 なんかラジオの企画っぽいですね。デジタル版のはがき職人みたいな。
青銅 ぼくがやってることは、ずっと変わらないんだなあ。これを読んでるあなた、一緒に面白がりましょう。よろしくお願いします!

「一千一ギガ物語」表紙

Amazon 楽天 ヨドバシ.com Honto …などお好きなnet書店でどうぞ。

さらに、この本を入荷してくれた本屋さんは、藤井青銅のTwitterにむけ、つぶやいてください。ぼくがロコツにRT宣伝します。だって、選んで入荷してくれた本屋さんだもの!
あと、「この本屋さんで売ってたよ」という報告も待ってます!

お読みいただき、ありがとうございます。本にまとまらないアレコレを書いています。サポートしていただければ励みになるし、たぶん調子に乗って色々書くと思います! よろしくお願いします。