一人で読書する夜は1115

秋の夜はことさらに静かで長い。本を読んでいるとつい、じいっとして身体や足先が冷えたり、背中や肩が凝ったり、する。

だから

「今夜は、本を読んで過ごそう」

と思い決めた日は、あたたかなカシミヤひざかけを引っぱり出す。曾祖母の使っていた古いもので、だいぶフエルト化が進んでいるけれど、気に入りのものだ。

毛糸のルームソックスを重ね履きし、飴色ポットにたっぷり熱々コーヒーを淹れて、ドイツ製の湯たんぽに湯を詰めれば、準備万端である。雰囲気次第でアロマキャンドルを焚くのもいい。今日は、昔友人から土産に貰った少し甘いスパイシーな香りのにする。

ソファの端にクッションを重ねて枕にする。背中の下あたりに湯たんぽを当て、ひざかけで体をくるんで灯を点ければ、万全な読書態勢の出来上がり。

問題は、本である。

今この瞬間の私は、何を読みたい気分だろう?

夢中になり没頭するには一気に読み進められる推理小説や冒険物語も良いけれど、最近は数時間読むと目も疲れる。

根を詰めずに気楽なエッセイを流し読むも、また良し。ひっそり美しい小川洋子や小川糸の小説などを、ちいさくておいしい砂糖菓子のように少しずつ齧るのも秋の愉しみと思う。

心が疲れていて少し励ましてもらいたい時は、ガリコ『ハリスおばさんパリへ行く』モンゴメリ『アンをめぐる人々』など旧い付き合いの本を手に取る。経験を得ることの価値を味わえ、生きることの普遍的な辛さがあるとしても尚、勇気と希望を持ち続ければ人生は悪くない…と思える。年をとることの有難みを思う。

孤独は人間皆に平等に与えられた尊厳と思いつつ、誰かと少し話したい夜なら、アーノルド・ローベル『ふたりはいっしょ』トーン・テレヘン『ハリネズミの願い』など読み、長いこと会っていない友人に久しぶりに連絡してみようかな、何と書こうかなど思い巡らせながら眠りにつくのも良い。

逆にゆっくりひとりを楽しむなら、佐藤さとるや神沢利子、ミヒャエル・エンデなど、所謂児童文学も純粋に読書の愉しみを与えてくれる。今の私の血肉となってくれた幾多の作品達、読めば心の満ち足りる精神の栄養分と思う。

感覚的に日本語を浴びたいのなら、詩集を選ぶのも悪くない。詩人の鋭く尖った言葉のエッセンス、独特な感情の霧の中を歩いてくぐり抜けると、先刻迄とは違う心理状態、自分というパズルが一旦バラバラに崩された後、新たに違うデザインで並べ替えられたような斬新さを味わう。

今夜は何を読もうか。



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