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ハザマ演劇人が思うこと (主に小劇場について)


私のいまの演劇的立ち位置はハザマ(狭間)だ。

演劇的立ち位置というのは、
勝手に自分で考えた
作り手(演者とスタッフ)と観客の2つの位置のこと。

以前までの私は完全に作り手側だった。
これに少し書いてあるけど、かなり演劇を身近に感じていた。

でも今はどうなんだろう。
2020年に入ってからほぼ現場に関わっていない。むしろ観客側に寄ってきている。

そこで、私は作り手と観客側のハザマで泳いでいるのだとわかった。


ハザマにいると演劇の善し悪しがたくさん見えてくる。
そのどれもに共通しているのが、需要と供給が一致してないことが多いということ。
もったいないなぁと思ってしまうことがよくある。

そんなハザマ演劇学生だから言えることを、それぞれの観点から記録用に二つの項目について書いてみようと思います。

※これから書くことは私個人の意見なので、他の演劇人がみなそうではないです。悪しからず!



1.演劇に対する不満


《作り手》

"場が"少ない


この場合の"場"というのは、劇場と稽古場のこと。

演劇人以外の人たちに「劇場」と言えば?
と質問したら、まずどこを思い浮かべると思いますか?
都内だけで考えると、
東京芸術劇場劇場、新国立劇場、帝国劇場、歌舞伎座、東京宝塚劇場、パルコ劇場などなど…

ここら辺の大きい劇場を思い浮かべることが多いと思う。
でもこんな所に立てるのは芸能人級の方たちや売れっ子劇団ばかりで、私たち一般ピーポー演劇人はほぼない。

そんな一般ピーポー演劇人はどこで公演を打つのか。それは小劇場です。

小劇場ナニソレ?と思った人。
簡単にいうと、キャパが300席以下という規模の小さな劇場のことです。
一般ピーポー演劇人にとって、ここはなくてはならない存在。

都内だけでも数えきれないくらいあるけど、
有名なのは演劇の聖地である下北沢にある小劇場だと思う。
本多劇場、ザ・スズナリ、駅前劇場とかとか。

それでもここらに立てるのはひと握り。
常に何ヶ月、何年先まで劇場の予約は埋められています。


稽古場も同じです。
都内の稽古場なんて劇場よりも限られているので、常にこちらも毎回争奪戦。
私が高校生の時に外部で役者として出た舞台の稽古場は、まさかの主宰の実家でした。
(それはそれで楽しかったけどね!)

こんな感じで、あまりにも演劇ができる環境が整っていないことが演劇人(特にスタッフ)の一番の不満だと思う。

中には劇場と稽古場が併設されている神みたいな学校もある、という例外も一応書いときます。
学生って恵まれてるな、私、恵まれてるな…。



スタッフ(特に制作)が足りない


これは脚本・演出家をはじめとする主宰者が一番悩むことだと思います。
役者志望の人は世の中に腐るほどいるのに、
彼らを支えるスタッフは常に人員不足という矛盾。

特に小劇場界隈のスタッフ事情は深刻です。
小劇場スタッフは制作会社からの派遣スタッフでまかなうことは少なく、
演劇人同士の知り合いなど横のつながりや信頼で成り立っているようなものが多い。
だから新入りの受け入れは少なく、人手は最小限。

信頼のおける仲間と舞台を作りたい気持ちはよくわかるけど、
一人あたりの負荷が重すぎてブラック企業かな…?と思うこともしばしば。


私はこのスタッフ側にほぼいたので、この悩みはものすごくわかる。

スタッフと言ってもイベントスタッフのような仕事量だけではないです。
演劇のスタッフを簡単に分けると、
舞台美術、照明、音響、衣裳、演出部、制作の6部署もある。
これらに加えて、小道具、メイク、振付師、殺陣師、映像などといった部署を追加されることもある。


この中でも私が経験してきた中で、圧倒的な人員不足が「制作」です。

自分がこの制作をずっとやってきたというのもあるけど、個人的にこの部署はマジできつい。
劇団にもよるけど、仕事内容は予算やチケット管理、看板・チラシ・パンフレット作り、当日運営などすっごく簡単にいうと雑用係です。

もちろん、やりがいもあります。
座組みの"母"であり"顔"でもあるので、縁の下の力持ちとしてみんなを最後までサポートできるのは他の部署にはない達成感がある。

ただ時間も仕事量も多いのに、"報われない"といったことを一番感じてしまう部署でもあると思うのです。


ぶっちゃけ、この制作は音響照明のような特別な技術はいらないので、やろうと思えば誰でもできる。かつ必要不可欠すぎる部署。
なのに人員不足、というのが一番の問題点だと思います。


最後にひとつだけ。
私は外部でも当日運営のお手伝いとして制作を担ったこともありました。
そこでも感じる制作不足、そして詳細は言えないけど制作陣に対する割に合わない態度と給与。

一度劇団専任の制作をしている先輩にこういう話を聞いたことがあります。

「劇場スタッフ、特に制作はどんなことがあっても演劇を好きでいれる覚悟と嫌いになってもいい覚悟の2つをもってないと続かないよ。」

この先輩の言葉にスタッフの思いや葛藤がすべてつまってると思いました…切実に求むスタッフ…!!




《観客》

①チケット代が高い


これは演劇に限らず、すべてのエンタメ関係に言えることでもある。
その中でも演劇は特別にこの不満が高いと思っている。

例えば芸能人が出ている大きな舞台や東宝、松竹などのいわゆる商業演劇と言われる所のチケ代の相場は平均して3000円〜8000円ほど。

うん、高い。
ちなみに2.5次元舞台になると1万円クラスのものもある(震え)

でもチケットが売れるのは、
お金かけてあるだけの良いものが観れるという観客の期待に応えているからだと思っている。
(商業でもつまらない舞台もあるので例外はあるよ!)


では小劇場はどうだろう。
これが不思議なことに、商業演劇のチケ代と同じでも「たっかーー!!」って思ってしまう率が圧倒的に高い。

これはかなしいけど、商業演劇ほどの期待がないからなのかもしれない。


以前の私なら商業・小劇場演劇関係なく、
好きな劇団や役者、演出家が作る舞台ならお金はすんなり出せていました。

でも最近の私はチケ代に躊躇してしまうことがよくあります。
作り手側(特に役者と制作)のチケットを売りさばきたい気持ちは死ぬほどわかるけど、チケ代を超える魅力がないと行けなくなった。


加えて、観劇するとなると+αで交通費もかかります。
特に郊外に住む人(地方なら尚更)は一回の観劇で往復で1000円以上はとられる…これはかなり大きい。
つまりチケ代だけで観に行かないというわけではないのかもしれない。

こんな風に私の演劇に対する金銭感覚はほぼ一般人化しつつある。(前が狂っていた)
だから演劇に親しみがない観客側の「3000円もあったら飲みに行く、映画を見る」っていう感覚は普通だと思います。


でもひとつだけ、私はチケ代で感謝していることがある。それは学生(高校生)割引です。

これに私は特に高校時代めちゃくちゃ助けられた。
映画でもあるじゃない、と思ったそこのあなた。
舞台を1000円ちょっとで気軽にたくさんの演劇を楽しめるなんて犯罪レベルなんですよ…(作り手は語る)
中には500円設定をしたツワモノ劇団もいたけど、あれはもはや違法。

作り手の気持ちを考えると心中ご察し案件(?)だけど、
一番いろんな価値観を得られて、感性を豊かにできる演劇を10代のうちに提供してくれた各劇団の方々には本当に感謝しています。


観客側の本音。
それは数ある娯楽を差し置いて、
演劇というコスパの悪いジャンルに、お金をかけることに意味があるのか。
一時間以上飲み食い禁止され、座り心地の悪いイスに座ってまでも、値段相応の舞台が観れるのか。

そんな風に、観客はチケット代を通して
演劇に賭けをしているのではないのかと思いました。



②過度な身内ノリはやめてください


観客の嫌いなものランキング上位になるものだと思う(当社比)

これを上手く使えばその劇団のファンになるけど、下手したら二度と観たくないと思われてしまう高度な演出でもある。

個人的には好きではないです。
昔ある小劇団の舞台を観劇したときに、
観客の3分の1しか笑わなかったという、さっむい身内ノリギャグに出会ったことがある。
内容も劇の内容に合ってればまだしも、特定の役者に向けた個人的なもので一気に冷めたのを覚えています。


でもこの身内ノリは劇中だけとは限らない。
役者やスタッフの対応など色んなところでみられます。

・知り合いの演劇人が来たらタメ口で対応をする受付スタッフ
・客席に半数以上の知り合いの演劇人がいた時のノリや空気感に対する、一般人の居心地の悪さ
・終演後の役者面会のときに演劇人同士のノリがすでに出来上がっている時の、一般人の挨拶のしづらさ

などなど。これらは小劇場界隈によくみられる。
こんな風にコミュニティが閉じた排他的な空気感が好きじゃないんです。


だから反面教師として、
自分が制作チーフの時は全てのお客さんに対してなるべく平等に対応することを心掛けているし、それを班員にも伝えている。

作り手はあくまでお客さんに
「観に来ていただいている」というプロ意識みたいなのを持って欲しいなぁ、とハザマになって強く思います。

意外とね、観客は細かいところ見ているよ☆ 



③フライヤー(チラシ)から
情報が読み取れない


これが一番の不満である気がする。私は一番不満です。

常に色んな劇団にこう問いたいと思っている。
「フライヤーの意味って知ってる?」

とはいえ、フライヤーの意図は劇団によって様々だと思います。

・エモい写真とポエムの一言で演劇人の関心を持たせる
・イケメン俳優の写真で女性客を惹きつける
・フライヤーの形が二つ折り以外で観客の興味を引く

など、劇団によって違う個性豊かなフライヤーを見ること自体は好きです。


でも観客が一番知りたがっている肝心の情報がないことが不満なのです。そう、内容!!

あらすじをはじめ、
どんな舞台なのか(コメディ/サスペンス/SF/ラブコメetc...)ということが
一切分からないことが何よりのストレス。
だって「ここは夢の国だよ」って言葉だけで、高い入場料を払いたいと思いますか…?


実際にフライヤーを作ったことがあるからわかるけど、なぜか内容を載せたがらない主宰が多い。(人によるけどね!)
あえて書かないで興味を持たせたり、書かない方がオシャレって思っているんだから不思議です。

まったく観客の需要に合っていないな、本末転倒だな、と心の中で思っていたのはここだけの秘密…。

だから多くの観客は劇団四季や宝塚、原作から派生した2.5次元舞台など、間違いなくハズレはないと思える作品を観に行く。
これが結局チケ代の不満にもつながるのだろうけど…。


そこまで観客は優秀でもないし、エスパーでもないです。
演劇は本当に宣伝をはじめとする広報活動がもったいないと思う。

世の中には良い舞台がたくさんあるんだから、
演劇人はフライヤーは勿論、SNSの活用やHP作成、観たいと思わせる宣伝(特に役者)、予告動画や前回公演の動画を少しだけ公開するなど、少しでも観客が安心して観れる努力をしてほしいと切に思います。

まあ、特大ブーメランでもあるんだけどね。(小声)




2.観客に”ウケる演劇”とは


ウケる演劇。(造語)
これは売り上げが伸びる演劇のことなのですが、これに対する作り手と観客の思いが噛み合ってないなあとつくづく思うのです。

もちろん、全員がお金目的で演劇をやっているとは思ってない。

・自分の世界観、価値観、思いを舞台上でただただ表現したい
・役者ができればそれでいい
・趣味程度でやっている

などなど、
演劇を始めたり続ける動機は人それぞれだし、
そこは自由でいいと思います。

ただ「売れたいと思っている演劇人の考える売り方」がちょっと惜しいなあと思う。

そこで作り手が考えているであろう、
売れる演劇の価値観とそれに対する観客の思いについて二つ書いてみます。あくまでビジネス寄りの視点で!
※私の高校時代の友だち(元演劇部員)の意見も参考にしてます。


①THE王道!のエンタメ
やっとけば大丈夫でしょ系


この考えは一理あるし、正しいと思います。
大衆が求める娯楽ってやっぱり”泣けて笑えて楽しいモノ”だし、何より演劇初心者でも観やすいのがエンタメのいいところ。


ただ、この大丈夫でしょ感が危ない。
なぜならエンタメ作品は一番難しくて、
ごまかしが効かないから。 

それはなにか、劇の内容です。
いくら舞台美術(セット)や衣裳、照明などが凝っていてきらびやかでも、内容が面白くなければそれまで。

私みたいな演劇人やコアな観劇おじさん、批評家とかはスタッフのこだわりをよく見ているけど、初見のお客さんでそこまで見ている人は少ない気がします。
あくまでアクセント、セット程度だと思う。


つまりエンタメ作品は脚本重視ってことなんだけど、これを理解してない演劇人が多いなあって感じます。

とりあえずエンタメだからセットにお金かけて豪華にして、照明の色はバチバチに使って、衣装は派手で、小道具もたくさん用意して…って大体周りから固めがち。
気持ちはわかるけど、その前に脚本を固めろ~~!って言いたい。


だからと言って小難しくてセンスある台本にしろとは言わない。
誰が見てもわかりやすくて楽しめる王道がエンタメでは一番ウケると思います。

エンタメは一番難しい演劇のジャンルだけど、
観客が一番求めているジャンルでもある。

ここを上手く当てれたらヒットするんだろうなあって思います。



②この世界観すごいだろ?な抽象劇系

個人的に抽象劇はウケる演劇と思っていない。
が、ウケると思ってやっている演劇人が一定数いるのも事実。

抽象劇について簡単に説明すると、
世界観に合わせた具体的な舞台セットや衣裳を作らず、パントマイムで場を表現したり、一人で何役も演じたり、セットを変えずに場面転換するような劇のことです。(この逆が具象劇)


なぜこれをウケないと言っているかというと、
好き嫌いがかなり分かれるから。
私はこのジャンルの対象は演劇人に限定されると思うし、多分演劇に親しみがない人はストレスを感じやすい。

正直、抽象劇は作り手にとってはやりやすいです。
エンタメ作品ほど緻密なストーリー構成はいらないし、費用もかからない。
何より演劇・芸術をやってる感がちゃんと出る。


だけどこのやってる感じが勘違いであり売れない原因の一つでもあるのです。

それを感じたのがまだ演劇に今ほど熱がなかった高校生の頃。
一度だけある抽象劇作品を観て、何ともいえない気持ちになったことがあります。
役者は詩的な単語を発し、全員白いワンピースを着て、セットは白い箱のみ。
たしかに空気感はすごかったし、大人な演劇だなあなんて思った。
でもたしかな満足感は得られませんでした。


なんか批判してるみたいだけど、そんなことはない。
何なら抽象劇の舞台に役者として出たことある。(突然の裏切り)

私が考える抽象劇をウケさせる一番のポイントは役者の演技力です。
観客は場所・人・状況などの情報があやふやで伝わらないことが何よりのストレスなので、それを演技力で補えば解決すると思っています。
あ、自分のこと棚に上げて言ってます☆

それと演出も抽象劇に置いては大事です。
内容に起承転結がないことがほとんどなので、いかに観客を飽きさせないようにするかが肝だと思う。会話のテンポとか特に!

あとこれは観客次第でもあるけど、
根底が自分が好きなものをモチーフにしていたら見やすいのかなあとも思います。


抽象劇は一番やりやすい演劇のジャンルだけど、
観客が一番求めていないジャンルでもあることは演劇人に知っておいてほしいなあ。

でも上手くいけば唯一無二の作品が生まれる可能性もあると思います。



3.最後に


まず思ったこと、めっちゃ長くない????
そしてこれそのままレポート出せそうっていう煩悩が働く。

ここまで見てくれたお優しい方々、ありがとうございます。
演劇について語ろうと思えば山ほど出るけど、今回はここまでにしよう。手がつかれた!

また機会があれば別の視点で演劇について書いてみたいです。
なんせ四年間演劇学んできたしね、アウトプット大事にする。

そして少しでも演劇に興味をもってくれたら幸いです。

私は演劇ほどナマで観ることに価値があるものはないと思っています。
ここ最近zoom演劇という新しい演劇のカタチが生まれました。
オンラインでコメント打ちながら見れたりできるなど、時代に合った最先端な娯楽にも演劇は対応できるのだとすごく驚いた。

と、同時にナマじゃないとダメだとも改めて思う。
光も入らないブラックボックスの中、演者と観客がゼロ距離で同空間を共有する、あのライブ感。まさに三密!!!🤦‍♀️

色々書いたけど、演劇は最高の娯楽です。
気軽にあの空間を多くの人に体験できる日が来てほしいなあ。
劇場で演劇人たちはいつでもお持ちしています!




p.s. みかえるへ
お題の「芸術」からはここまで派生するとは自分でも思わなかったよ。
どうだい?感想聞かせてね。お題「青春」


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