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塗り絵を塗る

ある日、母から「さやたにこれ買ってきた」と、「自律神経を整える塗り絵」を差し出されました。ええ?なにそれ。
妹も加わり、みんなでやろうよー、と二人は乗り気。私は最初、「こういうのは思い通りに出来なかったとき心が死ぬので」と断りました。本当に私にはそういうことがストレスになるのです。
はみ出したらジ・エンド、色の組み合わせが上手くいかなかったら、ジ・エンド。すぐに終わりを迎える心。何回終われば気が済むのか。

妹と母は、諦めずに私に出来そうな塗り絵を選ぼうとしてきます。これは?これなら出来るんじゃない?…なんだかんだで私もそういう、絵を描くとか色を塗るとか、そんな作業は嫌いではないので、なんとなく「うう〜ん」と言いながら流されていきます。…ひとつの絵を選び、「これなら出来る気がする」と言ったものの、まだやれる気がしない私に、母が「じゃあ2色とかで塗ったら?」と。… 
そ れ だ !!

縛りがあればあるだけ、私はその中では自由になれます。
いきなり俄然やる気が出てきた私。
「何色にしようかな、青と茶色にしよっかな」
私の中で、ピースがパチパチ嵌まるように、構想が浮かびます。
よし、青と水色、茶色と黒の4色でそれぞれグラデーションをつくっていこう。
そこからは没頭して他のことなど頭に入りません。
必死で色を塗っていきます。なるべく私が終わらないように、細心の注意を払って。

1つの模様を塗り終え、息をつき、二人に見せました。
「めっちゃ綺麗じゃん!!」「いいねー!!」
二人のそんな言葉に、嬉しくなって頬が緩みます。
「おかーさんのも見て」と言われ、母の塗り絵を見て、ここがいいとかひとしきり妹と感想を述べ、妹(美大卒)の塗り絵をみて、狂気を感じ、また自分の塗り絵に戻る、そんなことを繰り返し、夜が更けていきました。

そして、私の塗り絵はまだ完成を迎えてはいないけれど、日々少しずつ塗っては、自分で「うん、良い」と頷き、母や妹に見せにいっては褒めの言葉待ちをする、面倒な私です。
最近は、ここをこう塗って…と最初から決めてしまわなくても、なるようになれと何も考えずに塗り始めることが出来るようになりました。そうして出来上がったものも、案外上手く塗れていたりします。
少しくらいはみ出ても、完璧に看過は出来なくても、うん、まあ…いいか……くらいには思えるようになりました。
いいぞ、私、いいぞ、私の心。

自分を励ます言葉も、許す言葉もまだあまり持てないけれど、この塗り絵をしているときみたいな気分で日々を過ごしていければ、きっといいんじゃないかしら。

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