熱狂の作り方ーBTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE - LA
(トップの画像は自分でスマホで撮影したものです)
ロサンゼルスに来るといつも「スペイン語」の存在が米国において大きいことを感じる。ロサンゼルスは日系人を含めたくさんの移民で構成される街だ。
BTSの単独公演を初めて見るために、LAに飛んだ。タイミング的には2020年の「Dynamite落ち」組で、そんな新規ファンがそんなことしていいのか?とも思ったけれどこの機会を逃したらリアルでコンサートを見られるのはいつになるのかわからない、と思った。長年いろんなオタクをしているので行動力だけはある。常にコンサートに行くために整えていた環境もある。BTSでは新規だが、この公演を見なかったらエンタメ好きとして片手落ちになる気がした。
幸運なことに自力で最初の販売でチケットがとれた。
BTSの2年ぶりのオフラインコンサート。米国カリフォルニア州ロサンゼルスで11/27,28,12/1,12/2の4日間行なわれ、21万4千人を動員した。1日約5万人で、だいたい東京ドームのコンサートキャパシティと等しい。会場のSoFiスタジアム(「ソーファイ」と読みます)は2020年9月にオープンした新しいスタジアムで、NFLのホームの1つである。音楽の単独公演としてはローリングストーンズが今年10月に公演したのに次いで2回目の音楽イベントだったそうだ。
パフォーマンスを見せることに集中したスタジアム公演
何目線?と言われそうだが、第一の感想としてはスタジアムクラスのステージにしては視線が分散しないように作ってあるな、だった。
スピーカーがメインステージに配置されているだけで、後方には存在せず、視界を遮るようなことがない。
特殊効果も火や紙吹雪くらいの最小限で、それもどこか1箇所で上がることはなく目線が演出で分散することはなかった。
短辺に設置されたメインステージとアリーナの真ん中あたりまでの長さの花道、床面ディスプレイの埋め込まれたセンターステージ。メインステージとほぼ同じ大きさのディスプレイがメインステージに設置されており、基本ここにメンバーが大写しに映っているのでどこからでも近く感じることが可能だった。観客5万人という規模の割にとても公演を見やすい配置だったと思う。
(入場にはワクチン接種証明または3日以内の陰性証明が必要だった。手荷物の確認も日本より厳しい。初日は入場列が捌き切れず開演に間に合わないファンが続出するなど、大紛糾だったそうだが)
音の面ではスタジアムの常設でサムスン製の360度の円形ディスプレイが吊るされており、260個のスピーカーが埋め込まれているそうだ。スピーカーを後方に立てなくてもいいのはこのおかげなのかもしれない。2日間参加して2回ともsec200(2階席)で見たので音にストレスは全くなかった。反響音もなかったし、遅延も感じなかった。これは4、5階席で見た友人たも遅延はほとんどなかったと言っていた。日本の各ドームやスタジアムで経験した限りではバンド公演でもアイドル公演でも座席によっては誰でもわかるレベルの音の遅延があるので、これは新鮮だった。
(スタジアムの機能ですごいなと思ったことのもう1つは食品販売もトイレもほとんど並ばないことだった。日本のドーム公演では行列で席に戻れないので開演まで1時間以上時間がないとトイレには行かない、スタジアムなら会場ではトイレに行かないことを徹底している私としてはびっくりなことだった。いつでも席を立てる、というカルチャーと飲食前提の設計の両者が生み出していると思われる)
また、今回のセットリストは昨年のアルバム「BE」からの曲が多いとはいえ、Pandemic ARMY(コロナ禍にファンになった人たち。ARMY=BTSのファンの総称)で爆発的にファンが増えているからか、ヒットメドレー的総集編なセットリストになっていた。普段のツアーで必ずあるソロコーナーが存在せず、ずっと7人を見ていられる仕様だった。
アメリカで韓国語の曲を合唱する
開演30分ほど前から、MVが流されており、すでに観客はビデオに合わせて歌っている。古いものから新しいものにくるようになっており、開演直前の数曲では無線コントロールのペンライトも早々と稼働していた。「最近の曲」とは英語詞曲でビルボードを席巻している「Dynamite」「Butter」、公演タイトルでもある「Permission To Dance」だ。これで客の歌声もテンションも準備万端だ。
1曲目は激しいと言われるBTSのダンスの中でももっとも激しいと言われる「ON」だ。コロナ前の曲だがその後、ファンの前でのコンサートがなかったなかったためファンの前では初披露となった。
あれ・・・?ちょっとBTSにしては露出多くない・・・?白い衣装が汗で張り付いていくのもあいまって、激しいダンスにメンバーの筋肉が強調されていく。特に配信のなかった3日目はなんかこう、ジャケット脱ぐ率高かったような・・・?このコロナ禍にファンに見せるための体づくりを休まなかったということがわかる。物理の筋肉を見せることで力強さをしめす曲でもあったと思う。
「Fire」「Dope」「DNA」と韓国語のヒットソングが続く。英語への歌詞変更はない。観客は雰囲気で韓国語を歌い、英語のところになるとボリュームがあがっていくような感じ。でも基本的に全曲みんな歌っている。双眼鏡で見るような習慣はないので、肉眼でペンライトをぶんぶん振り乱しながら踊って歌っている。5万人のカラオケボックスという表現がぴったりだ。(全方位の人が歌っていてもメインからの声にはあまり聞こえづらいこともなかった)
楽しい。
もう純粋に楽しい。
一番楽しかったのは「Butter」だった。コロナ禍での英語曲の第二弾。日本では「Dynamite」のほうが人気があるような気がするが、アメリカでのパフォーマンスの一推しはこの曲が多い。メロディアスというよりもラップと歌の真ん中みたいなパートも多いこの曲、歌詞も表示されないのにみんなで歌って踊ったその瞬間に今回のコンサートのピークがあった。
https://open.spotify.com/track/2bgTY4UwhfBYhGT4HUYStN?si=ede459ac770f417b
おおよその記憶でまわりのファンと一緒に歌っても誰も文句を言わないし、疲れたら曲の途中で列から出ていっても誰も嫌な顔をしない。なんのお約束もない、楽。
ヒットソングメドレーなので観客が知らない曲はない。そもそもここまでくるような人は音楽サブスクリプションサービスやYoutubeで彼らの楽曲をループで聴いているだろう。世界中にオンラインで聞けない場所なんて今やほとんど残されていない。
きっとステージのメンバーにもこの感じは伝わっていて、どんどん後半になるにつれてメンバーのテンションも上がっていく。演者が興奮していくのがわかるから、観客席のボルテージもどんどん大きくなっていく。熱気の応酬。これだ。これを見たくてきたのだ!
メンバーとチームの圧倒的な完成度
帰りの飛行機の中で映画「インザハイツ」を見てそういえば、と思ったポイントがあった。
コンサートの途中ではさまれるVTRで、アメリカの雑貨屋・・・つまり移民が営む雑貨屋で踊り出すという設定があったのだ。ダンスの種類はインザハイツで見るようなラテン系のノリとは違う、しかし明らかにそういう分類を超えたところに彼らのダンスの実力はある。歌は音程をはずさない。(後日配信を見たらまあまあほわほわしてたのでそんなこともなかった笑)特に私が見たのは3日目、4日目だったので1、2日目から修正してきた分かなり安定していたようだ。たまにははずすのでリアルタイムに歌っているんだとわかる。SNSに“Fancam“があり個人撮影の映像を見ることができる。初めての場所で、スタジアムクラスで、イヤモニで、ダンスしながらこれをやり遂げるには相当な練習と技術チームが必要だろう。
BTSは韓国では音楽番組に出ないし、バラエティにも基本的にもう出ていない。ドラマ出演もしない。膨大な練習量が技術力そのものも、精神面でも彼らを支えている。技術力に裏打ちされた表現、ファンの熱気を受け止めてその場でパフォーマンスに昇華する精神面の強さ、その2つのこと自体が国を超えて共通言語を生み出す。
世界中から集まった「ARMY」たち
世界中のランキングを席巻しているBTS、それはリアルなんだろうか?その疑問を溶かした、今回LAで出会ったファンたちを紹介したい。
最初はロサンゼルス国際空港の入国審査。ちょうどメキシコからの便の到着とかぶり、私たちの前に複数のBTSファンが並んでいた。LINEとBTSのコラボキャラクターである「BT21」のキーホルダーやペンをたくさん付けていて、ひとめでBTSを見にきたということがわかった。話しかけると、親子で今回1公演だけ見るために来たのだという。カバンに刺したボールペンのキャラクタが持ってるのがスケートボードだよね?という話から「昨日J-hopeがスケートパークにいたの見た?」と言ったら「見た見た見た」と盛り上がった。メンバーがオフ日に海岸線のスケートパークで目撃され、写真が拡散されていたのを見ているのだ。
(ちなみに渡航にはワクチンの2回接種、陰性証明、感染を助長する行為をしない宣誓が必要)
12/1に隣の席だったフィリピンからカナダに移住したというジョングクファンとはコンサート中もステージの一挙手一投足にギャーギャーいいながら大きく盛り上がった。
最終日、5階席が遠過ぎて3階の立ち見エリア(酒を飲みながら立ち見できるエリアがスタンド席の後方にある。開演前のわくわくした気持ちをかかえてステージを見ながら飲むお酒は最高だった)にいた地元の二人組。日本から持ってきたBTSの印刷されたロッテのガムをあげると、老人ホームで働いていたときに日本人の入所者から日本料理を習ったのだと話してくれた。本当は来春に日本旅行を計画していたが、とりやめたそうだ。
最終日、となりにきたのはママARMYだった。褐色の肌に細めのブレーズ。娘が先に好きになって、自分もはまったのだという。娘さんは当日はアリーナ(フロア)にいて、隣は姪っ子なんだそうだ。リーダーでラップ担当、作詞も作曲も手がけているRMのキャラクター「KOYA」のぬいぐるみポーチを持っていて、髪も紫(BTSのファンのシンボルの色)にしていた。クレイジーだと人には言われるといっていた。でも私たちはRMはめちゃめちゃ賢くてカッコいいよねと盛り上がった。(隣の人にはだいたい「誰が一番好きなの?」と聞くのがお約束)
私たちにはBTSを見にきたという共通点しかない。それしかないこと自体が私たちを繋ぐ。アイドルがコミュニケーションツールであるということに異論はない。見ているのは純粋に音楽ではないのではないか、という意見はその通りだと思う。観客が愛するのはコンテキストも歌唱力もラップ能力もダンスも含めた「アイドル」だ。
ステージのかっこいいパフォーマンスに巻き込まれてシンガロングして踊り狂う。地鳴りのような観客の歌声で一体感を物理的に体感する。
さらにこの熱狂をこの場にいない友達にシェアする。
撮影可能×場内Wi-Fiで起こること
今回これを書くにあたり、あまり内容には触れないことを決めていた。なぜかというと、内容はだいたいネットで見られるから。1日目と3日目の違いなんていうのも私が憶測で書くよりも、ファンがアップロードしている動画を複数日分確認すればすぐにわかることだ。特にアルバム曲の「Blue & Grey」は、バラードなので比較すると修正点がよく見えます。
アメリカでのコンサートはスマホで撮影できることが普通で、SoFiスタジアムの中はWi-Fiが飛んでいて結構スピードが出る。みんながんがん写真をとって動画をとって、その場で友達に送っていくのだ。コンサートの熱狂を、ファンが一番自分が熱狂した部分をそのまま友達に伝えていく。マスコミのようにすべての人に感動を伝えたいわけではないんだと思う。1人が自分の仲間に伝えていく。マーケティングの教科書みたいな話だが、それが目の前で起こっていた。
※撮影についてはもともとスタジアムの規定ではカメラのレンズ長を指定した規定があるのだが、それよりも厳しいカメラ規制、スマホ含む動画撮影NGが3日目を前にして事務所から出た。実効性はなかった。
https://weverse.io/bts/notices/1744?shortlink=d55dddec&pid=Social_twitter&c=BTS_NOTICE_PTD&af_click_lookback=1h&af_sub1=BTS_NOTICE&af_force_deeplink=true
この体験を、糧にする
今回の遠征は最後の最後まで状況がどうなるのかわからず、長いオタク人生の中で一番辛かった。正直、今も辛い。渡航前日に行くことをやめることさえ検討した。久しぶりに英語のニュースや官公庁のページしっかりちゃんと読みこんだ。でもやっぱり行ってよかったと終わった今なら言える。ステージは、音楽は、とっても楽しい。私の生きる糧だ。BTSだけの話ではない。こうやって楽しむことをはっきりと思い出した。たとえまた1年世界が止まっても、音楽の楽しさを信じて生きていける。
長い追記ーメンバーごとの感想
RM
Who is your bias?(bias=お気に入り)と聞かれるとRM、と答えているうちに本当にRMペン(ペン=韓国語でファン)な気がしてきた。あまり「bias」と宣言できるほどなのかずっと自分でもよくわからなかったけれど、実際に生でみて、コンテキストで好きなだけではなくて彼のパフォーマンスを好きなんだなと確信できてよかった。世界文学集を幼少期に読破して今も暇さえあれば本を読んでいるリーダー。
英語でMCができることもあり、本当に大活躍だった。最終日の長い英語のコメントで「また今度こうやってあえるのはいつになるかわからないけど、35になっても40になっても音楽をやって会いにきます」といって涙ぐんでいたRM。当たり前なんだけど目の前で見てダンスうまいじゃん!とびっくりして申し訳ありませんでした。
#12/6、BTSは年末年始休暇をとることが発表された。これを見越しての上記の発言だったのだろう。
Jin
ラストの日に「みんな可愛いのがすきなんでしょ?RJをつけてきたよ」というJin。ファンの大好きな彼のキャラクタの40センチくらいのぬいぐるみをはちまき状にリボンで頭に固定する荒技すぎる技。パフォーマンスもすごく誠実だった。12/4がお誕生日でJINからファンへのプレゼントとして公開されたまぐろを釣りたいパラパラソング「スーパーツナ」がやばいので貼っておきます。
SUGA
ちょっとはすに構えた表情をみせるのにきっちりカメラに向かってサングラスはずしたり、長い前髪を書き上げたりするシュガ。自覚のあるあざとアイドルが爆発していた。ラップ担当で外部プロデュースも手がける彼にはメンバーでも一番「アイドル」から遠いイメージを持っていた。そんなことはなかった。客を圧倒的に把握している。今回アメリカでの人気を体感したひとり。歓声がすごかった。
肌がつやつやなので管理方法を教えて欲しいメンバーナンバーワン。
J-hope
とにかく客席煽りが上手い!がんがんに盛り上げるしなやかなパワーがすごい。米国でのインタビューなどではあまり発言することがないはずなのにUSのファンを魅了していて、彼のキャラクタであるMangを身につけた人も多かった。ダンス隊長でもあり、常に美しいウェーブが2階席からも常にはっきりと見えた。軽やかな身のこなしで、しかもリアルにいつも笑顔。
JIMIN
表情が!表情が。VTRの部屋の扉をしめてしょぼんから悪い顔になるところが大画面で見てもとってもとってもよかったです。そしてムキムキの筋肉に線の綺麗なダンス。ボーカルメンバーで歌が安定するのは当たり前みたいに思っちゃうけど、本当に安定するのはすごいことだ…
V
楽しさが身体からもうパンパンに発揮されていてテンション高かったV。生で見ると顔面の美しさに圧倒されるとは聴いていたが想像以上だった。コンサート中メンバーにちょっかいをかける率も高くて、ぴょんぴょんしているのが見ていて温かい気持ちになった。
Jungkook
英語が、発音も綺麗だし変に伸ばしたりしないしわかりやすかった。高校生のときに中学生レベルの英単語も怪しかった人とは思えない…。人間てこんなに成長するもの?そして完璧に身体を作り上げ、露出する覚悟。ほとんど衣装で隠されていたけれど前腕を埋め尽くすタトゥー。まゆピアスに口ピアス。無言で身体に刻まれていく彼の痛みを伴う表現に共感する人は多いのだろう、と思った。
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