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チケット転売サービスで必要なことを分解するーチケットキャンプの残す物

チケット転売サイトのチケットキャンプが2018年5月で閉鎖されるという。
商標権の侵害はもちろん、転売を専門とする者に利便性を提供した疑いがあり、いち音楽ファンとしてやはりその運営思想は許せないものだ。

※その後の情報で、転売グループを手数料0円で抱き込んで高騰を自ら促していたことが報道で出ました。(2018/1/11)
チケキャン運営元社長ら書類送検 詐欺容疑で京都府警(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20180111000086

数々の問題を引き越したサービスではあったが、少なくとも、ユーザー数が200万人(2016年発表)を超える「使いやすい」サービスであったことは確実だ。
今後プレイガイド始め様々な団体がチケット販売、リセールの仕組みを作るだろう。
そこで、サイトが全て消える前に、チケットキャンプが提供していた「メリット」をメモしておきたい。

2017年12月30日現在のチケットキャンプトップページ


チケット購買者に提供したメリット

「いつでもそこにある」、ワンストップサービス

 チケットキャンプは「まあチケキャン見ればあるよね」という状態を消費者にもたらした。アーティストごとのターゲティング広告の大量投下に始まり、リターゲティング広告では価格変動を閲覧コンテンツに応じて出していた。後追い記事を同ドメインで展開するコンテンツマーケティングも素早く展開(これが「ジャニーズ通信」などであった。DeNAの閉鎖された媒体群を思わせる記事化のスピードとSEOの強さであった)、さらに有名タレントを使ったマス広告による信頼感と存在感を創出した。 誰かのライブが見たい、となるとチケットを探さねばならない。しかし有名なアーティストはファンクラブで完売していることも多い。無名アーティストはe+で売っているのかローソンチケットで売っているのか、ぴあでも売っているのか、探すのは難しい。中規模のアーティストであればどこかのプレイガイドでは売り切れていても、どこかでは売っていたりする。チケット購買に対するそんな複雑な体制は、「見ればとりあえずある」状態になったチケットキャンプにユーザーを向かわせた。見たい場合に出せる金額は人によって違うだろう。なるべくお金を使いたくない層は依然血眼になって時間を使ってチケットを探し出したが(SNSでの「お譲りします」は今も健在であるしokepiなどの定価以下限定の交換・譲渡サイトもある)どうにかして見たい層、どうやって入手したら良いかわからない層はチケットキャンプで買ったのだ。


チケット出品者(転売者)に提供したメリット

ユーザビリティの徹底追求

チケット流通センター、チケットストリートなど、同じようなサービスがある中、チケットキャンプだけが伸びたのは広告やアプリの存在のおかげだけではない。そこには使いやすいUI/UXを素早くアップデートしていったという事実がある。専門家ではないので、気がついていた使いやすいさを箇条書きにしておきたい。他にもあると思うのでぜひコメントください。
 
チケット検索利便性
・アーティスト/ツアー別/公演時間など大凡使いたいと思うソート機能が搭載されていた
・検索条件でリアルタイムアラートの設定が可能だった(アプリ、メール)
 
個人間取引の場としての安心の提供
・終了した取引を見られる(=相場がわかる)
・住所などの個人のデータは公演後X日経つと相手に見えなくなるなどの匿名性を指向した
・あんしん決済の提供(メルカリやヤフオク!などと同様支払っても品物が届くまで相手先には払われない決済方式)
・販売完了後の振込が手続き後即日だった(要振込手数料のままだったが…)
・販売履歴などをCSVでDLすることが可能だった
・入場できなかった時の保険など興行主が打ち出す転売対策に次々に保証を展開した

いずれもhttps://ticketcamp.net/countdown-japan-tickets/event-433183/48947451/より

興行主に提供したメリット

公式販売で届かない層へのリーチ

チケットキャンプの利益は出品者の手数料で基本的に成立しており、1件あたり8.64%(税込)が標準であった。これは、イベントに対して払ったにもかかわらず、興行主、ひいては出演者には一銭もはいらない額である。それでも、興行主に提供していたメリットは以下であると考える。

  ・リセール市場の明確化
  ・海外在住ファンの取り込み

リセールの仕組みの必要性は長らく業界内外から言われていたものの、手付かずの状態が続いてきていた。ジャニーズ系であれば"掲示板"やファンの集まるSNSなどで交換、譲渡が行われてきた。チケットキャンプの隆盛はリセール市場が確かに存在することを示した。

日本の大規模なアーティストのファンクラブは基本的に会報が郵送できる国内住所を持つ人にしか登録を認めていないところが多い。本来はファンとのコミュニケーションの場であることを想定しており、昔は郵送しかその手段がなかったからだと思われる。実際にはどこもかしこもチケットを取るための年会費化している。よって海外ファンからは重宝されていたのがチケットキャンプであった。UI/UX、個人間決済の使い勝手のよさも、ここには寄与していたはずだ。

音楽・イベント業界に”還元されるべきだった”将来あったであろうメリット

メタデータ、統計データの活用

この項目は、完全に推測に基づく。さらに将来的な話である。
どのアーティストの何曜日のどこの会場のどこの席がいくらくらいの価値があり、注目度がどの程度あるのかというデータは、本来アーティスト側が会場構成や価格決定に利用するべきデータだと考える。また、アーティストを利用したいクライアントが市場価値を測るためのデータであったり、アーティストの戦略を練るのに必要なデータであったことだろう。興行のチケットが安く抑えられ、末端のスタッフが超低時給で酷使されている日本で正しく金銭を回していく元手のデータになる はずのデータであったと思う。
この先、チケットの価格の柔軟性を作り、利益を最大化するのはもちろん、一定の利益以外のところでは参加者負担が一番小さくなるようにするなどが可能にしようとすれば、このデータは貴重なものであったろう。というか、私が音楽・芸能・興行事務所の中の人ならばチケットキャンプから過去データを買い取りたいくらいである。マーケティング用に。

年末のフェスのチケットページ(https://ticketcamp.net/countdown-japan-tickets/)

念のため書いておくが私はチケットキャンプ関係者ではないし、芸能・音楽事務所関係者でもない。ただの年間所得のうちかなりを音楽・舞台関連に注ぎ込む音楽・演劇・アイドルファンであり、たまに音楽イベントを主催する個人イベンターである。イベントのために払う金は出演者に還元したいと考えている方だ。よって極力チケットキャンプの利用は避けて生きてきた。
それでもチケットキャンプが提供していたメリットを綴っておくことは、チケットの購買行動を考えるにあたり大変重要だと思い、このエントリを書いた。

日本のチケット業界はリセールや、価格設定の柔軟性において明らかに世界に遅れをとっている。「全てのお客さんに同じ価格でどの場所でも同じ感動を」という理想は美しいけれど、本当に観客にとって良いことなのだろうか?ファンクラブ内でほぼ全てのチケット販売が完結するのはベストアンサーなのだろうか?
アーティストには、きちんと作品(音楽・演劇・etc...)で収益を上げて生活して欲しい。支える職人のみなさんについてもそうだ。

公式リセールサイトである「チケトレ」の利便性と知名度の向上を願って筆をおきます。

PS:
自分で読み返していて思ったんですが、まずはプレイガイド横断検索サイトって欲しいですね。

<参考URL>
チケキャン、手数料ゼロで転売業者優遇 自ら規約違反か(2017/12/28)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171228-00000039-asahi-soci

ミクシィ、チケキャンのサービス終了 今期純利益を下方修正(2017/12/27)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL27HML_X21C17A2000000/

ミクシィ子会社、ジャニーズ商標を不正使用か 兵庫県警が家宅捜索(2017/12/8)
http://www.sanspo.com/geino/news/20171208/tro17120812290004-n1.html

チケット高額転売、不正対策いたちごっこ
電子化でもスマホ渡す抜け道 抽選販売、プログラムで大量購入も(2017/10/25)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22671400V21C17A0AC8Z00/

gumi、メルカリの中からチケットキャンプを選択した酒徳氏が振り返る、スタートアップ参加の道【社員番号1桁インタビュー】(2017.4.11)
http://thebridge.jp/2017/04/syainbango-hitoketa-interview-chihiro-sakatoku

音楽業界とチケットキャンプの対立、調整できず……中村伊知哉氏、ミクシィ社外取締役辞任(2016年10月21日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/21/news072.html

なぜ今、「転売NO」と訴えたのか――チケット高額転売問題、音楽業界の“本音”(2016年10月14日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/14/news103.html

会員数200万人の『チケットキャンプ』、新体制スタート...チケキャン事業部長寺谷氏とPM松浦氏が語る、新体制の真相と今後(08/04/2016)
https://thepedia.co/article/950/

#転売NO !(各種団体連合での転売反対サイト、意見広告などを出した)
https://www.tenbai-no.jp/

チケトレ(公式転売サイト)
https://tiketore.com/

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