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【祝!本屋大賞ノミネート】逆ソクラテス

 ずっと読みたくて年末年始のお休みに読んだ本、「逆ソクラテス 伊坂幸太郎」が本屋大賞にノミネートされました!パチパチ!!
以下感想文になります。まだ読んでいない人にネタバレしない(してたらごめん)程度に書きますが、ゼッタイ後悔させないので、ぜひこれを読む前にもう「逆ソクラテス」買って読んじゃってください。あとちょっとでも前情報知りたくない!って方はここからAmazonさんに直行いただき読んでから戻ってきてください。とにかく、学校の先生とか子どもと接する仕事をしている人(そしてスポーツに携わっている人)は全員課題図書にしたいくらいだから、そういう職業の人はすぐに読んで欲しいです。もう私の感想文なんて読まなくていいです。この本さえ読んでくれたら。

 ソクラテス、って誰だっけ。あー、哲学者でなんかプラトンとかいう弟子いたよね。性格悪いとか言われてたんじゃなかったっけ。「無知の知」の人でしょ、あれ?「人間は考える葦である」は誰だったっけ?、無知の知って他人の無知を指摘するのは簡単だけど自分が知らないってことを認めるってことは知恵がある人より優れているみたいな意味だったよね?その逆ってこと?程度の認識で、読み始めたこの本。表題の「逆ソクラテス」を含む短編が5つ入ってる。
 帯にね、「敵は先入観。世界をひっくり返せ!」って書いてあるわけですよ。ある種の挑戦ですよね。「この話ひっくり返りますよー」って先に言っちゃってる。最近良く書店で見かける「ラスト20ページで絶対に騙される!」みたいな煽り文句のPOPが付いてる本みたいな、instagramでアイドルの彼氏と同じ服を着たりそのアイドルのグッズをちらつかせたりするアレのような(違うかw)。でもオチの匂わせは基本的に読者への挑戦だと思ってる。

 私は伊坂幸太郎氏の小説は昔から大好きで、初めて読んだのは重力ピエロだったかアヒルと鴨のコインロッカーだったか。それからハマって8割くらいは読んでるんじゃないかな。だから、「はいはい、伊坂さんの最後に色々つながってびっくりする系なんでしょう。分かってるよ、それでも好きだから読むよ、わたしゃ」って気持ちで読み始めた。

 結論としては、「分かってるよ」なんて思っていた読む前の私を、伊坂さんに土下座させたい。ストレートが来ると分かっていて打席に立ったのに、あっけなく空振り三振した気分である。なんならその投手の投球の素晴らしさにうっかり涙を流してしまうほどである。野球、1回もやったこと無いし最初から最後まで試合を見たことすら無いけど。

 5つの話とも、言いたいことは「それは先入観ではないか?」ということに尽きる。敵は先入観、世界をひっくり返せ!って言われて読んでいてもなお、私の考えは先入観にまみれていることに気付かされる。例えば「この人はこういう人だから」と決めつけていないか、「この子はこうだから」という先入観から判断していないか、背景が描かれていない小説の登場人物ですら「この人はこういう人だからきっとこうなるだろう」なんて勝手な予測をしてしまっているのだから、きっと日常生活でも先入観に左右されてしまっていることがたくさんあるだろう。自分の子のことも「この子はこう」とか「この子はずっとこうだった」みたいな先入観で見てしまっているかもしれない。そしてその先入観はとても脆いものである。例えば私が実は誰もが知っている会社の取締役だったとしたら、もしくは何かのスポーツのメダリストだったとしたら、娘のこととかも書いているけど全部創作で実は母親でもなんでもなく男性だったら。きっと今あなたが読んでいるこの文の印象だってガラリと変わる。それくらい先入観というものは思想を縛り付ける力は強いくせに崩れるのは脆くあっという間だ。

 もうひとつこの本のテーマをあげるとしたら「人は変われる」ということだと思う。「こういう人だ」とまわりに思われていても、人はいつでも、まわりの予想を裏切るリスタートを切ることが出来る。人はみんなそのチャンスを与えられてるし、与えられるべきだっていう。心に残った台詞を紹介したい。

 単に、あいつは悪人だから崖から突き落として消してしまえ、ってことはできないってことだよ。悪人を魔法や処刑で消し去るのは難しい。(中略)犯人はいつか社会に出てくることのほうが多い。そうだろ?同じ町で生きる可能性だってある。
(アンスポーツマンライクより 磯憲の台詞)

 この、犯人にすらこんなことを言えてしまう磯憲(先生のあだ名)の教え子が世界をひっくり返すのだ。自分が子どものときに大人や先生を見ていた視点を思い出す。この小説に、こんな先生に、小学校高学年や中学生くらいのときに出会いたかった。これをそのまま道徳の教科書にしても良いくらいだと思う。大人になってしまったが、もう一度自分の心に問い直したい。私は誰かのリスタートを「どうせ変われない」と自分の視界から消してしまってなかったか。間違ってしまった人の不幸を祈っても、何も解決しない。現実にはその人の人生は続いていくし、その人生は私の人生とも地続きなこの世界なのだ。

 きっとこの世界の全員がこの本を読んだら、ネット上の誹謗中傷など無くなるんじゃないか、と思った。芸能人やネット上の人物の一部しか私達は知らない、それこそ先入観でしかない。その人達が間違いを犯したからと言って、崖から突き落として消してしまえというわけにはいかない。(ネット上やテレビ上から)目に見えなくなっても同じ町で生きていく可能性だってあるんだから。ついネット上の情報やテレビでのイメージでだけ判断しがちな、自分自身への自戒を込めて。


最後に、
学校の先生には第一話「逆ソクラテス」を
今クラスの中心グループの子たちには第二話「スロウではない」を
人によって態度をコロコロ変えちゃうあなたに第三話「非オプティマス」を
スポーツの指導に関わる人には第四話「アンスポーツマンライク」を
いじめや差別に悩むクラスには第五話「逆ワシントン」を
特に、おすすめしたい。

そして、全ての人にこの「逆ソクラテス」をおすすめする。

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