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女の答えはピッチにあるをリアルにやってみた結果

「女の答えはピッチにある」この本をご存知だろうか。

2021年サッカー本大賞を、アビー・ワンバックの「わたしはオオカミ」と共に受賞した作品である。

 この本はサッカー観戦が大好きだった作者のキム・ホンビさんが、30代半ばにしてサッカー経験も無しにアマチュアの女子サッカーチームに入団して奮闘するエッセイである。帯に「真のフェミ本」とあるので男性には敬遠されるかもしれないが、私はぜひ男性のサッカープレーヤーたちにも読んで欲しいと思った。

 先日、twitterでは #Mismapasion(同じ情熱)というタグが盛り上がった。レアルマドリード女子に所属する選手が自分とレアルマドリードのアセンシオ選手の写真を並べて #mismapasionとつぶやいたところ、多くの人に叩かれて炎上してしまい、ツイートを消さざるをえない事態に。そこでアセンシオ選手が自らのツイッターで投稿したのがこちら。

 この投稿をきっかけに #Mismapasion のタグで多数のチームの公式がツイートすることに。そしてこのタグはたくさんの人へと広がり、サッカー界だけでなく、いろんな分野の人にまで広がった。

 話を「女の答えはピッチにある」に戻そう。どうして、女子サッカー選手が同じ情熱だ、というだけで叩かれるのか。女子サッカーについて「男子と比べてスピードが遅い」「迫力が無い」なんて言う人もいる。女子ゴルフについて、女子バレーについて、女子卓球、女子バトミントンについて、そういう風に言う人がいるだろうか?それらの競技だってスピードやパワーにおいて女子は劣るはずである。どうしてもサッカーは男子のもの、という先入観があるのではないか。おじさんが草サッカーをするというのはイメージが出来ても、おばさんが草サッカーをするというのはイメージが難しいのではないか。確かに、おばさんがママさんバレーに興じるのはよくあることのような気がする。かくいう私もサッカーは男のものだという先入観に侵されているのかもしれない。サッカーの街浦和の小学生だった私は、球技大会は男子も女子もサッカーだったのだけど、中学にあがると男子はサッカー、女子はバスケだったし、娘の中学校でも球技大会は男子はサッカー、女子はバスケだったらしい。男女ともにバスケ、は聞いたことがあるが、男子がバスケ、女子がサッカーは聞いたことがない。なんでなんだろう。

 この本の主人公のキム・ホンビは30代半ば、運動神経バツグンで、小さい頃からのサッカー好きだったにもかかわらず、サッカーをプレーする側にはまわらずに30代になった女性である。運動神経の部分は大きく違うのだが、私も小学生の頃にJリーグが始まってからサッカーというものに魅了された1人だった。生でサッカー観戦する時の、形容しがたいワクワク感と興奮は私を虜にしていた。でも、プレーする側になる、という選択肢が頭に浮かんだことが今まで無かった。私の通っていた高校には女子サッカー部があった。しかもみんな高校になってから始めた初心者ばかりで、楽しそうだったのでちらっとその時は入部も頭をかすめたのだが、中学校のテニス部が地獄のような上下関係としごきだったため、もう運動を頑張るという気持ちになれなかったことと、通学にも片道1時間半くらいかかるし、などと理由をつけて入部しなかった。男性サッカープレーヤーたちはそもそも、サッカーを始めることに対する敷居の高さが違う。少年の時であっても、大人になってからも。

 そんな私も去年の6月ごろから(この本に出会う前なのだけど)ママサルを始めることにした。ママサルというのはママたちのフットサルの略で、次女がジュニア時代に在籍していたチームがやっている個サル(個人参加のフットサル)のママ版(ママでなくとももちろん良い、女性対象、初心者歓迎、激しい当たり無し)である。その日に集まったメンバーでフットサルのトレーニングと最後にゲームを行う形式で月に6回くらい開催されている。それに参加するのも、私にとってはすごいチャレンジだった。昔からサッカーを観るのは好きだが、親子サッカーみたいなイベントで少しボールを蹴ったことがある、くらいで、全くサッカーをプレーしたことのない私。ああ、キムホンビのサッカーシューズのタグを外すのにもノロノロしていた気持ちが痛いほど分かる。ましてや、運動神経だって取り立てて良くもない30代後半の私が、である。(キムホンビの参加したチームは私のママサルよりも断然本格的なアマチュアチームなのだけれど)
 仕事の関係で月2回ほどしか参加出来なく(しかもコロナ禍で中断もあって)全く上達の兆しは見えていないが、毎回心が踊る楽しい時間だ。そんな時、この本と出会った。「私のための本だ」と思って即購入した。この本の中でキムホンビが成長していくと私まで成長している気がした。ホンビが試合に出るシーンは私までその場にいるような気がした(笑)そして月2回の個人参加じゃなくて、毎週練習したい…ホンビみたいに仲間と試合に出てみたい…とまで思うようになってしまった。
 それから、サッカーが、観戦する側じゃなくてプレーする側に(というのにはまだまだおこがましいけど)なった時から、スポーツ用品店ってこんなに楽しいところなんだって思うようになった(笑)今まで娘のものを買いに行ったり、夫に付き合わされたりする場所だったのが、このスパイクかっこいい!とか、トレーニングウェア欲しいなってなることの楽しさよ!現に練習頻度より多めにトレーニングウェアが私のクローゼットに増えていっている。それから、余談だけどプレーする側にまわると、子どものサッカーに文句なんか言えなくなる、なんならリスペクトしか出来なくなるという特典も付いてくる。ボールが来たら周りなんか見えないし、がら空きでドフリーの味方なんていましたっけ?ってなるし、どこ蹴ってるの??なんてしょっちゅうよ。

 そんな時、先週の話なんだけど、ママサルに来ている人から、小学校でやっているレディースサッカーチームの(フットサルではなくサッカーの!)練習に参加しないか?と誘われた。私はもう心はキムホンビになったような気持ちで「行きます!」と即答した。キックはちっとも正確じゃない右足のインサイドと、よわーい左足のインサイドしか蹴れないし、リフティングは2回出来たら良い方の私が参加してよいのか、遠足前の小学生のようにドキドキしていた。その小学校は次女がジュニアチームのときに試合で何度か行ったことのある小学校だった。あのときは脇で見ていただけだったけど、私がここでプレーするんだと思ったら不思議な感じがした。
 そしてまさに、そのピッチに女の答えを見つけた気がしたのだ。その日集まったのは14人。30歳くらいの人から(見た目で判断したら失礼だけど)おそらく70歳に近い方(!)までがサッカーをする格好をして集まっていた。それに私は衝撃を受けた。でも、そうだよね、これが当たり前の姿なのである。別に女性が何歳だってサッカーして良いに決まってるし、主婦はスポーツジムでプールの中で歩いたり、エアロビクスしたりしなきゃいけないわけじゃない。なんのスポーツ選んだって良いんだ!って当たり前のことに、なぜか気がついていなかったことに、雷に打たれたみたいだった。昔からサッカー観るのが好きで、次女がサッカーをやっていて、夫も社会人チームでサッカーをやっていて、こんなにサッカーが身近にずっとあったのに、なんでこんなに当たり前のことに気が付かなかったんだろう。

 親子ほどの年齢差のあるメンバーでやったサッカーは、小学生用のコートだったけど(これ大人用のフルコートでやっている次女や夫を尊敬するわ!)単純にすごく楽しかった。フットサルも楽しいけど、また少し違ってサッカーも楽しい!と思った。サッカーもフットサルも(彼女はビーチサッカーも)大好きな次女の気持ちが少しだけ分かる気がした。そして思った、シュートが蹴れなくても、ドリブル出来なくても、足が遅くても役に立てることがあるのがサッカーの良いところだなって。もちろん集まったメンバーには高校時代からサッカー部でやっていたというすごく上手な人も居て、今から始めてその人に追いつくことは出来ないけど、その人を助けることや、その人のやりたいことを邪魔することなら私にもできるようになるかもしれない。そんな希望を感じた。代表の方が練習終わりに言ってた「80歳までサッカーやろうよ」って。本の中のキムホンビはターンやリフティング、アウトサイドドリブルなんかを習得しているから、すでにだいぶ遅れをとっている私だけど、もっと上手くなりたい、もっとみんなの役に立ちたい。だって私にはまだ41年もあるんだから!!

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