#284 大胆な行動

秋も深まっていき、日に日に寒さが増してきた12月。街はすっかりクリスマスを感じさせる彩りで華やいでいた。ワクワクする楽しさと共に寒さのせいなのかどこか物寂しさも感じる季節の気がした。
僕は突然、浪人中の今しかできないことをしようと床屋へ行き、5厘刈りにした。スポーツ刈りを超え、頭部の髪を全て剃り上げてしまった。
もう失敗することのできない2浪目の受験に向け、気合を入れる意味も大きかった。とは言え、頭がかなり寒く、あと髪がないので頭に受ける衝撃も凄かったので防寒と防備の為ニット帽を欠かさず被るようにした。予備校では話す人がいなかったので誰一人触れてくる人はいなかった。新聞配達所では配達員達も少年も最初は驚いていたが、見慣れるとすぐに日常に同化していった。
僕は五厘刈りが全く似合わない事に気付き、これも最初で最後だなと思った。
春大学に入学する頃にはそれなりに髪も伸びているだろうと思った。
自分の決意でした髪型だったが、やった後何だかとても恥ずかしい気持ちになった。
二重で濃い顔の人の方なら似合うのが、僕みたいな一重で薄い顔の者には似合わない髪型であることを実感することが出来た。
友達も恋人もいない2浪生活だからこそ、踏み切れた行動だと思うのでチャレンジして良かった。
暖房の効いている室内ではニット帽が暑い時もあったが、恥ずかしくて帽子を取るのを憚った。頭が暑いと眠くなり、集中力を欠くので仕方なくニット帽を取ることもあった。思っているほど、他人は見ていないとは思うが自意識過剰で何だか恥ずかしく感じてしまっていたのである。
五厘刈りは家族にはかなり不評だった。品がない。みっともないと言うようなことを言われてしまった。それならお坊さんや高校球児はどうなるのか反論してみたが、あなたはお坊さんや高校球児でないしょと一蹴されてしまった。僕は似合わないとは思っていたが、大胆な決断を実行したことに後悔はなかった。
続く…

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