#266 新聞奨学生の日々

4月中旬になり、新しい寮となるアパートが完成した為引っ越しを行った。
場所はこれまでの寮よりは新聞配達所より離れているが、バイクで3分位の距離だった。寮の前には中学校があり、平日の昼間や夕方には生徒の声が時折聞こえてきた。古い寮より部屋は狭かったが、何と言っても新居なので新しさ故の清々しさがあった。
僕は実家から勉強に関するものと生活に必要な最低限のもの以外荷物は持ってこなかった。テレビもステレオも本棚も持って来なかった。
その為、部屋はがらんとしており生活に音も無く、部屋が静まり返っていたので慣れるまではさみしさを感じずには居られなかった。
ただ、生活が常に時間に追われ、いかに勉強時間を確保するかに執心していた為、そのようなさみしさを感じている時間も限られた。後は時間の経過と共に慣れて行き、気付けば無音が当たり前と感じる様になっていった。
寮の部屋で勉強することはほとんどなく、部屋はほぼ寝るだけにあると言っても過言ではなかった。突貫工事で作られたアパートの様で、隣部屋や下の部屋への物音がかなり激しく聞こえてきた。少年は午前中、配達員の方々が寝る時間にガタガタと物音を立てていた様で良く、配達員のおじさんに怒られていた。

朝予備校へ向かい、午前中は講義。午後は自習室で勉強。夕方に寮へ戻る。隣に住む新聞奨学生の少年と夕食を食べに行く。少年は予備校へ行かず、ほぼ寮で寝ていた。
二人で夕食を食べながら、いろいろ話をした。
多くの日はこの時間がまともに人と会話をする唯一の時間となっていた。少年にとっても状況は似た様なもので、夕食の時間は雄弁にいろいろ話してくれた。
少年の素性や今の思いや将来に馳せる気持ちも少しずつ分かっていった。
食べ終わると寮へ戻る前に翌日朝刊に挿入するチラシをまとめる作業へ。これが1時間〜2時間近く掛かった。作業が終わり、寮に戻る頃には20時前。シャワーを浴びて寝て、夜中の配達に備える。
こんな感じで新聞奨学生としての浪人生活は過ぎていった。

続く…

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