REFLECTS→それでいて、胎道


僕   はい、じゃはじめまーす。

パチンと手を叩くと同時に目を閉じる。暫くして目を開けると驚いた表情。

状況を飲み込むと、私は話し始める。

私   (観客席に向かって写真を撮り、床に置く)どうもこんにちは、従順なわんコロのような可愛さと健気さ。私です。これから皆に私、のことについて話していきたいんですけど、んーまずね、私には弟がいます。年の離れた弟がいます。弟は自由奔放な性格で、好きなことを好きな時に好きなだけやる中々素敵な弟です。大胆な割に緊張しいで、いつもボケーっと考え事をしてる、少し不思議な奴でもあるんですけどね。弟が生まれたのは…弟が生まれたのは、確か私が小学三年生くらいの時で、生まれた当時は凄く可愛くて…凄く可愛がっていたのを覚えています。

(舞台を物色するようにしながら)あー…皆さん自分の生まれた頃の小さい時の記憶って覚えてますか?私覚えてるんですよ。せかいが始まって、私が始まって、そこにはお母さんがいて、お父さんがいて、おばあちゃんがいて、なんだか体がポカーと暖かくて。優しかったなあ。それが限りなく幸福で、限りなく、全てでした。

これね、覚えてる人って中々いないんですって。幼児期健忘っていって、脳が大人になるために幼いころの不安定な記憶を忘れていっちゃうらしいんです。ふふ、私って幼いんですかね。でもこれ凄いもったいないと思いません?

自分の最もピュアで愛にあふれた最高の日々が、まるで臭い物に蓋をする様に閉ざされていくんですよ。いや、怖っ。

まー私逆に、弟が生まれてからの記憶の方がまばらなんですけどね。

   時計を見る仕草

私   …あー、最近考えることがあるんですよ。私って普段、どこにいるんだろうって。今はもちろん、うん。ここに居ます。皆の、前に。じゃなくて、いつもの私って。

自分のこと考えるときって、昔のこと連想したりしますよね。私もそうなんです。だから…

   舞台ツラがきになり、じっと見つめる。

私   ここにピーンと線があるじゃないですか。(ツラを指して)

ここに、よいしょ、乗って歩くと、なんとなく、わかる気がするんですよ。なんとなくそこにいる気がしてくるんです。なんとなく、見てる気がしてくるんです。

僕   パチンと手を叩くと同時に目を閉じる。暫くして目を開けると俺は…

   水槽。弟は寝起きの様子で虚空に話しかける。

弟   夢を、見ているみたいです。ずっと。ずーっと。ずっと。もう嫌なんですよ…もう死んでやりたくなる…あー嘘だ。死にたいとかじゃないただただ虚無だ。いや分かってんだよ…漫然とした虚無がこのまま普遍化してくのが一番怖いってこと。廃人の一途をたどってるわけでしょ?

あー。ハハハ…もうぐにゃぐにゃだあ。空はずっと濁った泡で埋め尽くされてる。そりゃこんな気分にもなるわな。あー、早く海行きたい。

   波の音が聞こえる。

携帯電話を見つけ不審がるが、やがて動画に自分を写し語り始める。

弟   生きてるけど生きてないような、夢の中のような実感のない、そんなところに俺はいます。いるっていうか閉じ込められてるというか。なんかもう、最近ここの外にいた自分がよく思い出せないんですよね。生まれた時からもうここにいたのかな。みたいな。

   次第に波の音が大きくなり、秒針の音が聞こえ始める。

弟   姉ちゃんがいたことは覚えてるんですよ。元気でまじめで、いろんな人と仲良くていつも楽しそうで、俺の知らない凄いこととかたくさんしてて。半面ボケーっとしてて底が浅いような感じの人。だいぶ年上だけど、いつもいろんな所に連れてってくれて、大好きだった。

目覚まし音に雑踏が加わり聞こえ始め、雑音が耳を支配していく。

苦しむ弟。しばらくして、急に音が鳴りやむ。

弟   あ。

   のそのそとツラへ歩いていき、ツラの空中をファスナーで開けるような仕草をし、観客席をのぞき込む。

弟   あー…。

   手を叩き目を閉じる

弟   空っぽでした。

僕   パチンと手を叩くと同時に目を閉じた僕はそろそろ目を開ける。すると…

   目を開ける    

ファスナーをくぐり外に出る

僕   僕のお芝居はこれで終わっちゃう訳ですけど。例えばここにあなたと僕とを分ける隔たりがあって。皆はもちろん当たり前だと思うだろうけど、彼らはそれに気づいたり気づかなかったりするんですよ。皆は、どうですか。愛してやってやれますか。僕は…どうっすかねぇ。あぁ、愛って何とかそういうこと言いたいわけじゃないんで。じゃ、終わりで。



 空いたファスナーを閉じて一礼。




一人芝居の自画像脚本です。上演時間15分くらい。

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