sayamaru

詩やエッセイが好き。元テキスタイルデザイナー。83’生まれ。2020.10、ALS・筋…

sayamaru

詩やエッセイが好き。元テキスタイルデザイナー。83’生まれ。2020.10、ALS・筋萎縮性側索硬化症。進行は中程度。目標は完全復活。miyasukuという視線入力ソフトでカーソルを動かし、スイッチを中指でクリックしながらマイペースに活動中。やれるだけやってあとは宇宙におまかせ。

最近の記事

詩・鉢植え

夏休みのはじまり 子供がミニトマトを 持って帰ってきた 身長と同じぐらい 元気に成長していた たまにしか 水やりしてなくても 立派な実をつけた 常に目をかけなくても 子が育つのと似ていた もうすぐ二学期 鉢植えは半分枯れた なのに緑の部分は いきいきして まだ実をつけてくれる 私も半分枯れたようなもの 何もできないから 言葉を残そう ミニトマトみたいに

    • 詩・ばんそうこう

      家族がみんな 出かけた朝 テーブルの足元に 子供のラジコンが 帰る場所には 戻れずにいた ごめんよ 何もしてやれないや お互い スイッチで 動けるといいね 四駆のタイヤに ばんそうこう あら こんなところに やさしさが ひとつ 世界で 傷つけあう人々に 私は ばんそうこうを あげたい

      • 詩・翡翠檸檬茶

        台湾の林森北路で飲んだ ヒスイレモン茶 身がきゅっと 引き締まるような 酸味と 後から安心するような 甘味 緑茶に渋みはなく 異国にいながら どこか懐かしい香りに 暑さも汗も 日々のイガイガも 洗い流されていくよう あの頃が いちばん良かった といえば 今を生きていないみたい 浸る思い出に 励まされて なんとかやっている そんなときもある 酸いも甘いも 味のひとつ 光も闇も 人の世の一部 今がいちばん とは思えなくても いいのです これから あの頃は二番 と思え

        • 詩・素直

          渇いた体で 眺める空 入道雲の ソフトクリーム 真ん中を つめたい夏が 滑り落ちてく ああおいしい 山のような宿題 今日だけは 見て見ぬふり まあいっか ひまわりが 小さく咲いて わあきれい 今日 何もしなかった 今日 何もできなかった ああ最高 たまには ちゃんと 素直でいたい

        詩・鉢植え

          詩・ほめる

          できたよ 四つある宿題 一個終わったあ ほめてほめて そうなの すごいね 頑張ったね って素直に なんで言えないの そんな厳しさ いらないのに 前後左右に 取り巻くもの 呼吸のように ジャッジして 誰に正しく 何に正しく ありたいの ちゃんと見えすぎる 度のきついメガネ 外したら もう許してよ ってつぶやいて かけなおしたら 見なくても大丈夫なものは 見えない都合のいい メガネに変わってた ほめてほめて 私も言ってみようかな

          詩・ほめる

          詩・遊び

          病は私を笑わせる 筋力を奪いに来て 変な土産を置いていく 声が出ない カスカスに割れている 喉はさながらハーモニカ 龍角散でも治らない 「レトルト温めて」が 「ヤクルト温めて」に 聞こえるそうだ なんでやねん 普通に飲めない 俯いてストローが基本 勢い余って お団子ヘアにぶっ刺さる どうしてこうなった 私にも分からない あと五分でヘルパーが そうか分かった 暇を持て余した神々の遊び というコントが好きな私への啓示 おもしろヘアーに 見合うフレーズが 降りてこない焦り

          詩・遊び

          詩・大丈夫

          昔のこと 住むところもあり 家族もいるのに 帰る場所がなかった 学校にも 会社にも 私の席はあるのに 居場所がなかった 駅にも 交差点にも 人があふれてるのに 一人だった 前に進む気力もなくて 心を開く勇気もなくて もうだめだ どうにもならない だとしても その日々はいつか終わる 苦しみから 逃げてもいい 許してもいい 負けではない やさしくしてあげよう いたわってあげよう ねぎらってあげよう 海を見てたら おかえりって 言ってくれた 大好きな曲は 大丈夫

          詩・大丈夫

          詩・お味噌汁

          薄い味に 厚めの油揚げ 母が昔作ってくれた あのお味噌汁 濃いめの味に 小さなさいの目の 絹ごし豆腐 おじいちゃんが 昔作ってくれた あのお味噌汁 台所には だしの香りが 漂って 引き寄せられる 味見係 いつでも いいよと言って 小皿をくれた 特別なことは 何もない ありふれた風景 胸が詰まる時 思い出す ほっとする時 思い出す 特別だった風景

          詩・お味噌汁

          詩・みどり

          六月の晴れ間 公園の木々が みどりに波寄せて 髪をとかす風 太陽を含んだ 葉の上の雨粒 寒い時季の 枝葉は落ちて 根っこに養分 蓄えて みどり 今ここにある すべてを 光らせている そのままでいいと いわれても そのままでは いたくない 枯れることに 意味がある 見えないけれど 動いてる 季節がめぐる 命がめぐる みどりのように

          詩・みどり

          詩・バッドヘアーデイ

          なんだかしっくりこない 今日の髪型 コーヒーがこぼれた 白いシャツの日に限って あわててたら テーブルの脚に小指をぶつけて 乗りたかった電車が ホームの彼方に消えていく 昼休み直前にかかる電話 貴重な十分返してよ 好きな定食は売り切れ レジでお会計すれば 財布に偉人が誰もいない ああツイてない つまらない いらない バッドヘアーデイのおかげで 何もない日が ツイてる日 てことは ほとんど毎日 ツイてる日

          詩・バッドヘアーデイ

          靴が脱げたあの子

          「靴脱げたやん!もっかいやり直し!!」 運動会のかけっこで派手にコケた四歳児。 顔を真っ赤にして、込み上げてくる悔しさと恥ずかしさと怒りを爆発させた。周りの保護者や子供たちも先生も動揺してざわついている。ひざを擦って血が出ているのも、まあまあ痛かっただろうに泣きもせず。本人はなぜか「やり直して下さい、そこをなんとかお願いします」どころか「コケたんだから、やり直して当然でしょ」と言わんばかり。ちびライオンのようなエネルギー体が、ゴールした子供たちを睨んでいた。なんて子だ。

          靴が脱げたあの子

          詩・やさしくない

          地球の芯に何があるのか 誰も見に行ったことがないのに 鉄があると分かるのか 私に誰もなったことがないのに やさしい人だと分かるのか どこかで聞いた 地球の芯には水晶があると 想像してしっくりきた だから私の中では それでいい どこかで聞いた 私の話はしっくりこなかった だからその人の中では それでいい 人にやさしいと 我慢してる私は 自分にやさしくない

          詩・やさしくない

          詩・ときめくもの

          ひよこまんじゅうの箱は 花柄で六角形 真ん中にひよこの絵 子供のときの宝箱 きれいな色彩と やさしいタッチが たまらなく大好き 毎日引き出しから 取り出しては眺めて たぶん最初のときめき 箱の中には サンリオのシール りぼんの付録のレターセット 透明ジェルみたいなシール セボンスターのペンダント 桃の香りの丸い粒々 瓶に入った星の砂 大事にしすぎて 使うことなく なくなった宝物 もったいないから 使いなよと言われて もったいないから 使えないと答えた 大人は分かっ

          詩・ときめくもの

          詩・私の太陽のにおい

          からっと乾いた洗濯物 まだ温かい干したてのふとん 走って腕に飛び込んできた子供 夏の暑さに負けないひまわり 肌寒い日の窓辺で日向ぼっこ 太陽のにおいはそばにある 洗いたてのふかふかになった犬 その胸に顔をうずめて 鼻をこすりつけて じゃれ合ったあとに「ワン!」 と叱られてしょんぼりする 今はもうできないけれど 思い出せばすぐそばにある 私の太陽のにおい

          詩・私の太陽のにおい

          詩・筑前煮

          思い出すのは なつかしい味 でもなく あたたかい食卓 でもなく 延々と小言を 聞かされて おいしくなくなった 筑前煮のこと 具材が減ってきて 見えてきた 出汁に浮かぶ油 まあるい油は 水玉みたいで 小さな円と円の境目を お箸でつついて ひたすら大きくして やり過ごすのが任務 少し甘めの出汁も 耳が痛い話も 全部子供のためだった 親になった私の任務は 思い出してもらえる 記憶をいっぱい作ること できれば苦いのは少な目で

          詩・筑前煮

          詩・ぱちぱちと

          目をぱちぱちさせて 世界を見れば 手をぱちぱちと たたきたくなる 景色が見える 線香花火がぱちぱちと きらめいて やがて消えて せつないと知る 泡がぱちぱちと はじけるように 案外と短い時を 薪がぱちぱちと 燃えていくように 生きられると いいよね

          詩・ぱちぱちと