見出し画像

夢で見るような色

雪、というよりは少し固さのある細かい霰、と呼んだほうがよさそうなものが空から舞い散らされてきて、そこですでに美しかったのだ。

はらはらと降っていた霰は徐々に量を増していく。風も出ている。視界を白の粒が占めていく。感触を持って確かに顔に当たる。風景を白が横切って色を滲ませていく。

少し降っているくらいの霰ならば、雨とは違い濡れはしない。だから、気にせず歩いていた。だけど、視界を薄墨がかった景色に変えてしまうほどの勢いになられては、さすがに困る。頭に、肩に、鞄の上に、細かな霰が積もっていく。すぐに溶けるそれらによって、部分がじわりと濡れていく。

冷たい霰が当たらないように、顔を下げて歩いていた。信号でだったか、頭を上げて気が付いた。空が晴れてきている。明るさが降りてくる。けれど霰はまだ降っている。灰色から青へと変わっていく空の色に、霰はまだ白を覆い被せる。

淡い、薄い、弱い、明るい、優しい、柔らかい、空の色になっていた。夢で見るような色だと思った。すでに美しかったものが、さらに美しくなっていた。

その色を見ていられた時間は、1分にも満たなかっただろう。見慣れたような青い空が広がる頃、霰は止んでいた。


お気持ち有り難く思います。サポートは自費出版やイベント参加などの費用に充てます。