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自分がいる海でなんとか泳いでいこう

昨日、用事と用事の間が1時間半ほど空いてしまった。その二つの用事は同じ場所で行われることだったので、あまりその場から動きたくない。近所にあって暑くなくゆっくりできる施設はないか。そうだ金沢能楽美術館があるではないか。

しかも私は「金沢市文化施設共通観覧券」の1年間パスポートを持っている。これは購入から1年間、指定の17の文化施設に何度でも入場できる券である。料金は2090円。施設の一般入館料は310円なので、何度も入館しようと思っているならとてもお得である。1DAYパスポート520円、3日間パスポート830円もあるので、金沢観光で文化施設を観て周りたい人にもおすすめしたい。特にひがし茶屋街周辺には、いくつも観て回れる距離感に施設があるので良いと思う。

そんなわけで共通観覧券を提示して金沢能楽美術館に入館。まずは2階にて企画展「面に酔う─後藤祐自・能面の宴─」を鑑賞。能面師・後藤祐自の作品についての解説と、後藤氏の言葉もキャプションには書かれている。また、能面の種類についての説明などもあるのが親切だ。

そして3階では「第15回 現代能面美術展(公募)」が催されていた。ここでは応募作品の中から受賞作品が展示されていた。約100面だそうだ。まずその数に驚く。受賞作が100ということは、応募作品総数はもっと多いのだ。知識不足で申し訳ないが、能面を作る人がそれほどの数いるとは思っていなかった。

展示されている能面を一つ一つ観ていく。入選、上位入選、優良賞、特選と、進むに従って賞の位は高くなっていくのだが、その選を分けたところがどこなのかが全くわからない。どれもいいように思えてしまう。一見で優劣がわかるような世界ではないのだからそれでいいのだが。わかったようなふりをしては、長年能面制作に関わっている方々に失礼だ。

何の分野でもそうだと思うが、その分野の中での優劣の基準は、すぐには身に付かない。分野の中にあるさまざまな物事に触れていくうちに、ちょっとずつ違いがわかってくるものだと思う。そして「とてもよい」と「よい」の境界線はいつもはっきりしているわけではないだろう。時代や流行によって揺らぐだろうし、とてつもない才能の出現でも波立つのではないか。曖昧な境界を持って動き続けている海のような場所で、必死に泳ぐ多数の人々が想像された。私も同じく、自分がいる海でなんとか泳いでいこうと懸命になっている一人なのだと、何か勇気付けられた気持ちになった。


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