スマホが使えないだけなのに
iPhone11の電源が入らなくなった。急に。
朝、目覚めて枕元にあるiPhoneの画面に触れる。いつもならばここで画面が表示されて光る。だが、画面は黒いままである。何度かつついてみるも画面は変わらない。これはおかしいぞと体を起こし、電源ボタンを長押ししてみたり、バッテリーを挿してみたりするが、何の反応もない。
いよいよ心配になってベッドから出て、眠い目をこすりながらノートパソコンを立ち上げる。「iPhone 電源が入らない」と検索する。Appleのサポートページにある方法を試す。
しかし反応はない。これは本当に駄目だと思い、「それでも iPhone の電源が入らない場合は、Apple サポートにお問い合わせください」と書かれているとおり、Appleサポートに問い合わせようとした。だが、問い合わせるためにはApple IDでサインインしなければならず、サインインするには2ファクタ認証のため、デバイスに送られる確認コードを入力しなければならないのだ。そう、デバイス=iPhoneである。
どうしろと。
思いつく限りの検索をして、ようやく私はAppleのサポートにつながる電話番号が記載されたページにたどり着いた。こういったサポートの電話番号は、どこもすぐにはたどり着けないようになっている。クレーマー対策であろう。仕方がない。
この時ほど、自宅に電話回線があってよかったと思ったことはない。サポートに電話をして、最初は自動音声による対応を受ける。しかし、私の発音がおかしいのか、うまく聞き取ってもらえない。やっとのことでiPhoneのサポート希望である旨が伝わったようだったが、自動音声は「アイフォーンのサポートですね」と発音しており、ポイントはそこだったのか。アイフォンではない。
どれだけかは覚えていないがかなり待ち、ようやくサポート担当者に電話がつながった。説明した結果、修理をしてもらうことになった。予約はその場で入れてもらえた。問題は、その修理店がちょっと遠いことだ。そこは明日、頑張って行かねばならない。
さて、大変なのはここからである。その後の私には出かける予定があった。それも近所ではない。列車に乗って隣県まで行くのである。列車の時刻は既に調べて手帳に書いてあるので大丈夫だが、目的地まで行くためにスマホの地図アプリを使うことができない。私は駅から目的地までの地図をネットから印刷した。これでまあなんとかなるだろう。
結果から言うと、なんとかはなったがわりと困った。印刷した地図を忘れてしまうという痛恨のミスである。これは私がうっかりしていただけでスマホは何も悪くないのだが……。一度行ったことがある場所だったため、曖昧な記憶を元に見たことがあるような街並みを進んで、到着はできた。しかしこれが行ったことのない場所だったなら、地図アプリなしではまずたどり着けなかっただろう。想像するだに恐ろしい。
用事が終わり、ひと休みしたくなったのだが、その前に帰りの列車の時刻を……スマホで調べられない。仕方がないので駅まで行って、時刻を覚え、また飲食店がある辺りまで移動した。キーホルダーになっている時計を鞄に付けていてよかった。いつもはスマホで時間を確認していたのだ。
列車には乗れて、これで一安心である。暇つぶしに触るスマホがないので、文庫本を読んだり、景色をぼーっと眺めたりして乗車時間を過ごした。これはこれでいい。ちょっとくらい、スマホを触らない時間があったほうがいいのではないか。
だが前言は撤回される。最寄り駅に着き、歩いて帰ろうとして気が付いた。スマホを持っていないので歩数が測れていない。今日はそれなりに歩いているのに、それを記録として残すことができない。だからといって別に何も起きないのだが、もったいないような気持ちになってしまった。
自室に帰り着いて、何か音楽を、と思うも、スマホで音楽が鳴らせない。メールチェックも、SNSのチェックも、明日行くことになった修理店の詳細を調べることも、天気を確認することも、全部できない。修理代いくらかかるんだと考えると気が滅入る。なんでこんなことになるんだ。スマホが使えないだけなのに。
「だけ」なことに自分がここまで依存しているとは、正直思っていなかった。慣れてしまうとそれはあたりまえになる。あたりまえになってしまったら、それがない生活には簡単には戻れないのだ。おとなしく修理代を払うか、機種変更をしてこようと思う……。
お気持ち有り難く思います。サポートは自費出版やイベント参加などの費用に充てます。