見出し画像

椅子に合わせていた体

なぜか急に父が椅子を買ってくれることになった。椅子に使われているネジが1本、いつの間にかなくなっており、何とかならないかと父に聞いてみたことはあった。しかし、そんなものわからないということで話は終わったはずだ。その上、聞いたのもだいぶ前のことだ。本当になぜ今、新品を買ってくれることになったのかわからない。

ともあれ、有り難い申し出ではあるので買っていただくことにした。父はチラシで目星を付けていたらしく、家具店でそれらしき椅子を薦められた。椅子を買い換えることなど考えてもいなかった私は、特別にこだわりを持っていない。提案のあった椅子に決めて、持ち帰ることになった。

ただ一点、懸念があった。新しい椅子のほうが、古い椅子より少し大きいのである。そして私は脚が短い。もしかして椅子の座面が高いのでは、と心配した。それが的中してしまった。座面を下げきっても、足の裏全面を床に付けることができない。かかとが浮くのだ。もちろん座り心地も違うので、落ち着かない。

いかに今までの椅子に私の体が慣れきっていたか。長い年月がかかってはいるが、私の椅子に座る基本の体勢が、その椅子に規定されてしまっていた。多分これは椅子以外でも起きることで、家具の位置関係だったり、空間の大小だったりに、人体は予想以上に影響を受けているのであろう。部屋にはその人が表れるというが、実は部屋がその人を作っているのかもしれない。

椅子を換えて良かったこともある。今までの椅子は回るとキイキイと音がしていた。それがしなくなったことは、微細なストレス解消なのかもしれない。ここで気が付いた。もしや、椅子の音が階下まで響いていて、父が見かねた、じゃない、聞きかねたのだろうか。そうだとしたら騒音を立てていて申し訳ないことをしていたものである。


お気持ち有り難く思います。サポートは自費出版やイベント参加などの費用に充てます。