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【1989年100日旅】26日目。モスクワ
1989年5月1日は旅の26日目。モスクワ。日本人学校で仲が良かった友達の家に一人で遊びに行った。日本人学校では家族ぐるみで付き合うことが多かったからか、親の職業が何かを子供たちは常に意識していたように思う。その子のお父さんは大使館勤務で、家は2件分をぶち抜いた広いものだった。
その子の家にはメイドさんが2人いたので「じゃ、お母さんは掃除とかご飯作りとかしなくていいんだね。何をしてるの?」と聞いたら、「社交よ」と冗談交じりに言われた。『秘密の花園』みたいだ、と思った。その子のアパートの庭にはブランコがあって、乱暴な乗り方を楽しんだ。
当時のソ連は子供が一人でもバスに乗れるくらいには治安が良いといわれていて、その日はその子の家から夕方には一人でバスで帰った。でも、治安がよくたってバスの乗り間違いはある。とんでもないところに連れて行かれたら、親に連絡しようがない。モスクワ大学の部屋には電話がなかった。何度もバスの番号を確かめる。119番。119番。
乗ってからだって安心できない。乗り過ごす可能性や、急にバスが壊れる可能性だってあるのだ。むっつりと黙りこくった、ボテロの絵のようなおばさんたちの間に座り、じっと窓の外を睨んだ。
そんな感じの26日目。旅は残り74日。
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