『江戸の本づくし 黄表紙で読む江戸の出版事情』(鈴木俊幸)
大学の課題で、「江戸戯作」についてレポートを書きました。そもそも興味があったのは、蔦屋重三郎(蔦重)なる人物。浮世絵に革命を起こした写楽の大首絵をプロデュースした人ですね。
蔦重は浮世絵や戯作を扱う本屋。当時の本屋は、本の企画から作者・画工の手配、木版印刷、販売までを兼ねた、いわゆる書肆でした。
今回、整理できたのは「書物」と「戯作」の違い。それは、江戸で言うなら武士と町人のように厳然たる区別があったそうで、扱う本屋も分かれていたとか。
「書物」とは、宗教や学問の書、古典書など。「戯作」は、里見八犬伝や東海道中膝栗毛などが知られている読本、それから「草双紙」。
草双紙とは、江戸で生まれた絵を中心とした薄い冊子の読み物。初めは子ども向けだったのが次第に大人向けになり、登場したのが「黄表紙」。
黄表紙とは「巧みなパロディを用い、時事性も兼ね備え、絵解きや言葉遊びなど、最先端の機知を盛り込んだ大人の文芸」とのことだが、実際どんなものだったのか?
そこで、この本。黄表紙のおもしろさがよくわかる!
ここで紹介されているのは、戯作者として超有名な山東京伝(1761〜1816)による『御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)』という黄表紙で、登場人物が江戸の出版物。主人公はもちろん青本(黄表紙のこと)、人気の廃れた上方出身の八文字屋本と行成表紙本が、青本を妬んで赤本・黒本をそそのかし悪だくみをはたらき、てんやわんや。最後には「書物」であらせられる源氏物語と唐詩選に諌められる…というお話。
著者の鈴木俊幸氏によると、黄表紙はくだらないストーリーを楽しみながら、絵に描かれている細部から当時の風俗や流行を読み解くことが醍醐味だそうな。彼の読み解く文章の調子がノリノリで、読んでて楽しい!そして、いろんな本や浮世絵なんかも登場して、18世紀後半の江戸の出版事情もよくわかる。
もちろん、黄表紙そのものの全ページが掲載されていて、書き入れの文字を現代活字に翻字してくれているから私でも読めて、クスッと笑えちゃう。あー、くずし字、読めるようになりたいなあ!
そんな黄表紙も、松平定信による寛政の改革のときは、出版統制(1790年)でお咎めを受けた。お上を揶揄する内容はウケたけど、許されなかったらしい。その後は、教訓色が強まって、質も変わっていったとのこと、なんだか残念。『御存商売物』は1782年刊なので、改革以前の平和で笑いに満ちた江戸の気分を味わえます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?