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暮れ方のはしりがき

数ヶ月前から、日記を書かなくなった。

書かなくなったのか、書けなくなったのか、真意の程は定かではないが、結果書かなくなったのは事実だ。日記を書かなくなって、1日があっという間に過ぎるようになった。1週間が過ぎ去って、気付けば1ヶ月が終わっていた。この1ヶ月早かったなあ、という月が、1ヶ月、2ヶ月と過ぎて、振り返ったら同じような日々しか思い出せなくなった。


日記を書かなくなって、文章を書けなくなった。

頭の中では文章ができるのに、いざ文字に起こそうとすると手が止まってしまう。書きたいことはたくさんあるのに、喉の奥に詰まった言葉のように、表に出せなくなってしまった。結果、一文字も書けなくなった。


いいんだ。
日記を書かなくなって、文章を書かなくって、生きていける。
生きていけるんだけど、ひとつ、つまらない自分になってしまった気がした。




金木犀がようやく花を咲かせた。
今年は咲かないと思っていた。街中に香りが漂っている。赤黄色の金木犀。こっちに引っ越してきてから、白い金木犀もあるのだと知った。


柿ピーを食べられるようになった。
これまで柿ピーのピーしか食べれなかったのだが、久しぶりに口にすると柿も美味しかった。いつのまにか、ひとつ大人になっていた。


好きな小説の実写映画化が決定した。
登場人物の1人は、まさに想像していた俳優さんで驚いたが、他のキャスティングがしっくりこない。こだわりが強すぎるのもよろしくない。


眼鏡をなくした。
普段は裸眼だから使う場面なんて限られているはずなのに、どこを探しても見当たらない。しかもケースごと。普段使わないからこそ、予想外の痛い出費だ。新しい眼鏡を作るのに1時間半もかかった。


好きな風景に出会った。
湖と山と花畑と電車が合わさったその場所は、空気が澄んでいて静かで穏やかで、まるで絵画の中にあるようなところだ。車で通るついでに寄った場所だったが、もう一度行きたい。


実家の猫が踵を骨折したと連絡が入った。
心配で同僚に話すと、「猫の踵ってどこ?」と冷静に返された。後から確認すると、足の腱が切れたらしい。それでも痛そうだ。


久しぶりにローラーのついた滑り台を滑った。
小さい頃から思っていたが、どう考えても痛い。お尻が痺れる。うまく滑れた試しがない。なぜローラーの滑り台がこんなに多いのか謎だと思う。スカートが巻き込まれて少し傷んだ。


ずっとほしかった本を買いに行った。
文庫本のカバーが気に食わなくて、これまでずっと買えていなかった。1冊だけならまだしも、シリーズで3冊となると躊躇ってしまう。とはいえ、単行本3冊もそれはそれで嵩張りすぎる。単行本のデザインや質感と、文庫本の手軽感が、ずっとせめぎ合っている。結局本は買えなかった。


アパートの前の飲料メーカーの倉庫が移転した。
最近静かだと思っていたら、いつのまにか看板が白くなっていた。目の前が駐車場で開けていたのが好きだったのに、高層マンションなんぞ建とうものならどうしようと思っていたが、つい先日看板に新たな運送会社の名前が入っていた。私のベランダの安寧は保たれた。


15日が誕生日の友人にメッセージを送った。
おめでとうと送った直後に、15日だったか25日だったか不安になって、申し訳ないと思いつつも、「どちらかだと覚えていたんだけど、25日だったらごめん」と送った。誕生日は20日だった。逆にサプライズだと言われた。20日に改めておめでとうを言った。


はじめて救急車で緊急搬送された。
思ってたより健康って大事で、思ってたより医療費は高い。搬送される時の「○歳、女性」という言葉に、「そんな風に聞くと私若いな」なんて変に冷静だった。ちょうど見ていた医療ドラマと状況が酷似していて、「これ先週見たやつ、、!」と感動したことを後日妹に言うと、「進研ゼミかよ」と突っ込まれた。


社内で一番尊敬している先輩とご飯に行った。
以前から尊敬していたが、もっと好きになった。ちょうど良い距離感にいるその人には、本音も弱音も言いやすかった。より仲良くなりたい気持ちと、これ以上近づいて、逆に取り返しのつかない亀裂が入るのを恐れる気持ちがせめぎ合った。直後、先輩は直属の上司になった。手放しに話していた時とは違い、時には詰めなければいけない立場になった。現実は難しい。


髪を切った。結構切った。
ずっと髪を括って生きてきたが、括れない長さまで切った。美容師さんに「本当に切っていいんですか?」と聞かれたので頷くと、容赦なく切られた。短い髪が似合うか不安だと言ったら、「似合う似合わないじゃなくて、似合わせるんですよ」と言われた。私もその頼もしさと自信がほしい。
思いの外反響は良く、短い方が好みだという声も多かった。お世辞なのか、長い髪が相当似合っていなかったのかと疑った。単にスーツとの相性が良いだけだとも思った。
取引先の担当者に、「パートナーと別れたんですか」「思い詰めてるんですか」「仕事でやらかして頭丸めたんですか(その担当者は過去に実際やったらしい)」などと言われた。肝心のパートナーには長い方が好きだと言われた。暫くは短く生きるつもりだ。




決して、書くことがないわけではないんだ。

1日の中でそれなりにいろいろあるし、いろんなことを考える。楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、感動したこと、悔しかったこと、大きいことからちょっとしたことまで、実際書いてみると1ページしっかり埋まる。しっかり埋まるということは、それくらいしっかり日記を書く時間をつくらなければならない。

いっぱいいっぱいで1日を終えて、明日書こう、まとめて書こう、週末に書こう、そう思って月日が過ぎていってしまった。



書かなくなって、書けなくなって、悲しかったのは、文章から離れてしまった自分に対してもだけれど、自分が自分の気持ちを疎かにしてしまっている気がしたからかもしれない。いつのまにか、書くことが、自分を大事にすることになっていたのかもしれない。

少しずつでいいから書いていこう。思っているよりも気楽に書いていいのかもしれないし、思っているより良く書けているかもしれないし。

目まぐるしく毎日は過ぎていくけれど、もう少し自分を大事にしながら向き合っていこう。

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