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この道が続いているとして

堰が切れたんだと思う。

少しずつ、でも確実に感じていたもやもやが、
積もり積もって抑えきれなくなって、一気に溢れた。
感情の溢れ方は、相変わらず昔からこうだ。
引っ越したひとり暮らしの部屋で、はじめて声を上げて泣いた。







住み慣れた土地を離れて半年が経った。
これまでとは大きく異なる生活の中で、なんとか生きて来た。かつて日々を共にした友人たちに会うのは随分久しぶりで、その日は空がまだ暗いうちから始発の電車に乗って目的地へ向かった。


毎日のように会っていた人たちと半年ぶりと随分久しいはずなのに、半年も会わずに時間が経った気がしなかった。
その感覚が良いことなのかどうかもわからなかった。

私と違って環境が大きく変わらない彼らの話は、半年前に話していた内容のままで、時間が巻き戻った気がした。
一方で、どことなく知らない話題が多くてついていけなくもあった。


私以外の彼らの時間が、昔のままで止まっている気がした。
私の時間だけが昔のままで止まっている気もした。


一緒にいる時間があっという間に溶けてしまって、あまりに非日常な空間で、気がついたら自分の部屋に戻ってきていて、次の日からはこれまで通りの日々が始まっていた。もしかしたら私が勝手に見てた夢だったのかなと変な錯覚に陥った。







1年半前に思い描いていた未来。
1年前になりたいと思った将来像。
半年前に忘れずにいたいと思った気持ち。
今の私は、彼らと過ごしていた頃の自分に胸を張れるだろうか。



時々感じる小さいものが、
気がついたら積み重なっていて、
気がついたら膨れ上がっていて、抑えて、我慢して、
ふとした瞬間に溢れそうになって、
そんな時に誰に言ったらいいのか、
どんな風に言ったらいいのかわからなくて、
目に溜めた涙は流しちゃいけない気がして、
困ったように笑うことしかできなくて、
口籠るか、あやふやに受け流すことしかできなくて、
結局核心なんて話せなくて、
気に入って買ったはずのジャケットとパンツを着た、どこにでもいそうな仕事着姿の自分を鏡で見た時に、ふと悲しくなって、





気づいてしまった。

私、今の仕事を続けるには、
考えることをやめなくちゃいけないんだ。





今のもやもやした状態じゃずっと中途半端。
続けられても、きっとずっと心から一生懸命になれない。

自分の中のもやもやを、まとめられずにずっと心に閉まっていたのは、整理したらこの結論になってしまうのをわかっていたからかもしれない。無意識に自分の本心を避けてたのかもしれない。


気づいてしまった。
気づきたくなかった。






「しょうがないよね。そういうもんだよね。」
そう言っている同僚に悩みを言えなくて。
「物はいいようだから。八方美人になって。」
それが生きやすいのもわかってるけど。

考えることをやめないと、
彼らと同じ波長で生きていけない。
でも、考えることをやめてしまったら、
私は、私の本当の気持ちは、
一体どこにいっちゃうんだろう。


少し、辛かった。
少し、しんどかった。
少し、泣きそうになった。
少しがいつのまにか積み重なって、
気がつけばそれは少しではなくなっていた。







堰が切れたんだと思う。

仕事を終えた部屋でひとり、声を上げて泣いた。
1人で涙を流すことに耐えられなくて、ちょうど連絡を取っていた友人に電話をかけた。はじめて自分が感じていることを、包み隠さず人に話した。全て話してしまったらもう戻れないと思ったけれど、思ったより心がすっきり軽くなった気がした。




全て吐き出した次の日からは、自分でもびっくりするくらい一生懸命頑張れた気がした。決して考えが変わったわけではないけれど、いろんなものを自分の中に溜め込みすぎていたのかもしれない。

いつもはしない組み合わせの服装をした。いつもよりちょっと髪型をオシャレにした。いっそ振り切ってしまった方が強く生きれるような気がした。一週間文句も言いながら強気に頑張った自分に、案外やればできるんじゃんと笑った。



その週の華金の飲み会はいつもより楽しかった。
2軒目を終えたところで終電を逃して、結局3軒目の後にカラオケで朝まで過ごした。思い切って最近感じるもやもやを話してみたけど、あまり反応はなかった。1人だけ少し共感してくれた。






先週家を出た時間に、今週は家に帰っている。
もうなんだかめちゃくちゃだ。


外はほんのり明るくて、気がついたら随分と肌寒い季節になっていた。少し前まで華やかに香っていた金木犀は道端に散って、もう香りを感じることはできなかった。

たくさん考えて、そして考えないでいるうちに、
私を待たずして時間は刻々と過ぎていく。


まあいいか。もういいか。
考えなくたって、生きていけるよ。
全力で抗うのは、すごく疲れるよ。
でも、きっと、すごく辛くなるんだろうなあ。

某アーティストの歌詞が心の奥の方に染みて切なくなった。







そんな1週間を過ごして、次の週からも私はなんとかやっている。
職場で1番入社時期が近かった先輩の退職の知らせがあったり、1日にトラブルが重なったり、帰り際にしたくしゃみでようやく自分の体温の高さに気づいたり、やっぱり少し泣きそうになったり、
いろいろあるけどまあなんとか大丈夫だ。



自分の意思がなくなって、
人から強みだと言われていたものも活かせなくなって、
そうしたら私の人生の物語の主人公は一体誰なんだろう。
そうしたら私は一体誰の人生を生きてるんだろう。

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