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〜うしおととら〜 妖怪、人間ごちゃまぜの多様な世界で生きるヒント 

小学館より発売されている藤田和日郎さん作の少年漫画。
コミックス、完全版、全集なども出版されていて、
ファンの多い作品だ。


私がうしおととらを初めて読んだのは……年代は伏せておこう。
とにかく中学生の時だった。


友達に借りて読んだのだけど…
それがまさか、こんなに長い長い戦いの旅のはじまりになるとは…!


なんてことはないけど、
今でも時々、無性に読み直したくなるほど大好きな漫画の一つになった。


とにかく元気さと、
ばかがつくほどまっすぐな正直さがとりえの中学生の”うしお”と
”獣のやり”により何百年も封印されていた世紀の大妖怪”とら”が、日本中の妖怪たちや人間たちを巻き込み、巻き込まれながら、因縁の深いある妖怪を倒すために奔走するというストーリーだ。


ある妖怪の痕跡をおいかけて日本中を旅することになったうしおととら。
各地で出会う妖怪や人間がこまっているのをどうしてもほっとけなくて、自らすすんで問題に突っ込んでいく。

うしおは自分のためだけに戦うことはない。
いつもいつも誰かを助けるために体をはってぼろぼろになっている。
それも大義名分なんてなんにもない。
ただそれを見過ごしてなかったことになんてできない。
そんな自分自身はいやだから。
自分はお天道様にまっすぐ顔をむけられているか?
それだけで体が勝手に動き出しているのだ。


そんなうしおの姿に最初は嫌っていた妖怪や人間もいつのまにかうしおと一緒に立ちむかっていく。
戦いが終わる頃にはすっかりわだかまりがとけてうちとけあっている。
そんな仲間たちのことをみていたり、実際にうしおに会ったりしてその人柄にふれたものたちは、
妖怪も人間もとわずにいつしか皆で協力しあっていく。

そして、過去世から続く長い長い果てのない戦いの中でうしおたちが見る景色とは……。



藤田和日郎さんの作品はとにかくストーリーが壮大。
そして登場人物たちがなんとも味わい深い。
ストーリーに引き込まれていたら、あっというまに出てくる皆に感情移入してさらにはまっていく。

なんていったって最強、最恐、最高なとら!
それに、かまいたち三兄弟、妖怪の西の長、東の長、そしてたくさんの妖怪たち、
まゆこやあさこといったうしおの幼なじみたち、
お役目様や、うしおの父、寺の僧侶たち…などなど
たくさんの登場人物がでてくる。

しかしやはり私の最推しはうしおだ。

好きなエピソードをあげればキリがないほどたくさんある。

鯨の妖怪に飲み込まれた少年とあさこを助けにいくエピソード。
両親を亡くし寂しさからひねくれてしまった少年とどう扱っていいか困惑している町のまわりの大人たち。
あさこと少年、うしおととら、そして町の大人たちも巻き込み妖怪に立ち向かっていく中で、みながそれぞれ変容を遂げていく。

うしおととら(とらは他の人には見えていない)がのった飛行機に巨大な妖怪が襲ってくるエピソード。
その飛行機に乗り合わせていた飛行機事故でパイロットだった父親を亡くした少女や、同じ事故で尊敬していた先輩を亡くしたパイロットが、うしおの後ろ姿をみてまた立ち向かう勇気を得る。

どのエピソードも皆うしおととらの姿に立ち会ったものは、見失っていた本当の自分自身の強さや気高さを取り戻していく。



数あるエピソードの中でも私が一番うしおの心の強さを感じたのは、ようやく人間と妖怪も連合して因縁の深い妖怪に挑むまであと一歩の時。

その妖怪がうしおを脅威とみなしさまざまな刺客を放ってくる。その中にうしおの記憶だけを喰う小妖怪があった。
おぞましいほどの数を放ち、うしおに関わったことのあるものがすべて人間も妖怪もうしおの記憶をなくしてしまう。あのとらさえもうしおのことを忘れてしまっているという孤立無縁の状態。

うしおは最初はそのことに戸惑う。
それでも妖怪からの別の刺客が次々とうしおのことを忘れてしまったみんなに襲ってくる。
みんなから忘れさられてしまって本当は悲しくて悔しくてつらいはずなのに、
それでもなんだい!って顔をあげて皆を守るために立ち向かっていく。
やりをかかげて髪をなびかせぐいっと顔をあげて笑顔を見せる。
そのうしおの背中から太陽が昇る。

そのシーンが切なくてだけどその圧倒的なうしおの力強さが頼もしくて大好きだ。




このストーリーの中で語られる妖怪は強さが全ての弱肉強食の世界だ。
とらはもちろんほかの妖怪もそうだった。



一番最初にとらがうしおに憑くことになったのも、
獣のやりという妖怪にとって最恐の武器をうしおが使いこなすことができて、うしおがとらよりも強かったからだ。
とらはうしおに逆らえない、というところから関係性がスタートしている。

とらもとらでしかたなくうしおのいう事をきくこともあるが、うしおが獣のやりを使っていない時、いつでもうしおのことを狙っているぞという態度を見せている。

しかし、うしおのばかみたいに他人を守ろうとするところ、どんなつよいものにも自分が守りたいもののために立ち向かうところを近くでみつづけているうちにだんだんととらの態度が変わっていく。

とらは自分がやれば一発で倒せる相手にうしおがぼろぼろになっているのが、おまえがやられたらそんなお前に勝てないおれまで弱いことになるではないかと許せない。
お前はそんな相手に負けるわけにはいかないぞと、
うしおがピンチの時に手をかすようになる。

うしおはうしおでお前の助けなんていらないと言いながらもとらの手助けにピンチを救われる。
そして何度も戦いを続けていくうちにだんだんと二人のコンビネーションができていく。
二人の関係がやがて信頼に変わっていき、
それを見ていたほかの妖怪たちもだんだんと変わっていく。




今の社会情勢や自分の身近なまわりの人達のあいだでも、もっとインクルージョンしていこう。
アンコンシャスバイアスがあることを知ろう、気づこう。
相互理解をふかめよう。
というような動きが活発になってきている。

まわりの世界も常に変化しているし、
自分も変わっていかなければと思う。

だだその中で変化の荒波に翻弄されてブレブレの軸にならないようにするためには、
うしおのように一本筋が通ったものをもっていることが必要不可欠だとつくづく思う。


自分の大切にしたいこと、
プライオリティ、
これだけは守りつづけたいということ、
それらのことがわかっているから、
何を変化させていくのかが見えてくる。


うしおは大切にしていることが実にシンプルだ。
だからみんなそんなうしおが好きになる。


いろいろあるけど、しょげてしまいそうな時には、
涙なんてなんだい!って笑って吹き飛ばせるそんな人になりたいな。

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