キャンドルサービス
メイクルームに座る。
その瞬間を待ちわびたように、ウィッグを抱えたスタイリストが駆け寄ってきた。
この1時間余り、急流に踊る木の葉のように、来賓者と時の流れに翻弄されている。
最後のお色直しでやっと座ることができる。
全くぅ、新婦には椅子の温まる余地もない。
テーブルに並んだ料理には、ひと箸もつけていない。
事前にこの料理は頂いている。
「本番で新婦はお料理を楽しめないので」というホテルレストランの粋な計らいだった。
そのホテルの担当者はそう言った。それで挙式の前月に一連の料理を頂いている。それで冷めていく皿に、下げられていく皿に黙殺を通せる。
白無垢の和装から、白鳥のドレスにお色直しをしたとき、暫く新郎と並んだ瞬間があった。その僅かなひと時も、向けられる視線に、かけられる言葉にひと息もつけない。
名刺か何かをパラパラめくるように、様々の来客が高砂に酒杯を掲げてくるけど、会釈でしかお相手できない。そのきまりの悪そうな、断片的な笑顔を胸に刻んでいる。
最後は翠のロングドレスを選んだ。
あえて翠にした。
それに金刺繍にこだわった。
キャンドルサービスで、あの笑顔を挽回して回るの。
そして。あの子。
彼の出してきた参列者リストに、ちょっと引っ掛かる名前に気がついた。
その子の下の名前に聞き覚えがある。
しかも寝言で云っていた名前なのよ。
「この子は?」
「大学時代の友達だよ」
「久しぶりなの」
「ああ、折角だから」
ふうん、とその場は下がっておいた。
挙式前には喧嘩を何度も繰り返した。
レストランウェディングをホテルに提案したり、事前打ち合わせなど最初は協力的だったんだけど。段々とトーンが色薄くなっていった。
それを噛みこんで飲むことも、今後は肝心というのも分かってはいる。
レストランの入り口が封じられて、新郎が待っていた。
もう能天気に酔っている。その腕をとって、華々しい笑顔を見せなくてはいけない。
さあ、最初の卓。
次は友人たちの。
その次にその子。
その卓には私の同級生で固めている。
話題は大丈夫だったかしらね。
「おめでとうございます」の声がした。
聞き覚えのない女性の声。
少し緊張しているのが、わかる。
ええ、そうね。
とても私は今、幸せよ。
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