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長崎異聞

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橘醍醐は、女心が分からぬ。 かれは次男であり家名は告げぬ。なので長崎奉行で小役を賜る。端役である限り無聊だけは売るほどある。 時は慶応26年、徳川慶喜の治世は30年近い。 その彼…
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記事一覧

長崎異聞 47 最終話

 橘醍醐は、警固を命じられた。  長州兵が征圧した、門司港への渡橋である。  大日本共和国…

百舌
3週間前
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長崎異聞 幕間

 このお話、ようやく最終話に辿り着きます。  思えばこの異世界長崎も、着想は夢見からでし…

百舌
3週間前
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長崎異聞 46

 勝敗は始まる前に決していた。  鬼軍師の掌中で藻掻くのみだ。  夕闇が薄明となり、それを…

百舌
3週間前
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長崎異聞 45

 ふと脳裏に巌流島の決闘が浮かんだ。  橘醍醐の預るこの搦め手からは、その島は遠望できな…

百舌
4週間前
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長崎異聞 44

 対岸では動きがあった。  暴発した12£ナポレオン砲の砲身は千々に引き裂かれ、黒煙に包ま…

百舌
1か月前
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長崎異聞 43

 橘醍醐は武士である。  今様の言葉でいえば、士分である。  彼も芝居小屋の演じ物の如くに…

百舌
1か月前
6

長崎異聞 42

 橘醍醐には政治はわからぬ。  ただ武略においては、別だ。  病弱であった兄が家督を継承できるかを危ぶみ、醍醐は家に部屋住みとなって無聊を囲った。長じては無為な時間を惜しみ、武芸を磨き兵学を漱ぎ、旗本八万騎の一角であろうとした。  部屋済みというのは曖昧な存在で、当主の不慮の事態に備えている実子である。それで旗本は家名を繋ぎ、葵御紋への盾であろうとした。  だが旗本の素顔が露呈した瞬間は、長州征伐を目前にした時であろう。醍醐の年端をいえば、元服にも至らぬ頃である。  往時は江

長崎異聞 41

 これにより露は、亜細亜へ侵略を開始する。  そう蔵六、いやさ兵部省大臣、大村益次郎卿…

百舌
2か月前
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長崎異聞 40

 高尾丸は無事に係留作業を行われていた。  縄梯子が掛けられて、真っ先に橘醍醐は船に登っ…

百舌
2か月前
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長崎異聞 39

 出迎えの馬車が来た。  天蓋にも丹念な彫金の為された客車を引き、黒駿馬の二頭立てで現れ…

百舌
2か月前
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長崎異聞 38

 蒼緑の瞳に強情が篭もっている。  梃子でも動かぬ心境が鈍く光る。 「村田さまには通詞が必…

百舌
3か月前
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長崎異聞 37

 音曲が止むと、空気が固い。  息が詰まる程、緊張がある。  左右に五人、背後に三人か。 …

百舌
3か月前
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長崎異聞 36

 憫笑が満ちている。  意を隠して蔑んでいる。  その空気を糊塗するように楽団が、緩い音律…

百舌
3か月前
10

長崎異聞 幕間

 今日は資料集めです。  長編になりがちな最近のお話。  殊に幕末なんて資料が溢れていて、複雑怪奇な展開になるジャンルに手を出してしまって。いささか後悔しております。  しかも悪い癖でございまして。  私はラストを想定して書き出したりはしません。  毎回のヒキで、ああこう書いてしまったよ。どう辻褄を合わせていこうと苦心している毎日なんです。  しかしながら門司租借地というのは、本当に自分で書いて驚きまして。門司には洋館群がありまして、しかも明治~大正期なので現役で使用されて