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ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ ボリューム2』

『ソニー・ロリンズ ボリューム2』は、ソニー・ロリンズがマックス・ローチ・クインテットのメンバーとして西海岸へツアーをした時に録音されたリーダーアルバム『ウェイ・アウト・ウエスト』から約1ヶ月後に吹き込まれます。

本アルバムはソニー・ロリンズ(テナー・サックス)のリーダーアルバムです。メンバーは、ジェイ・ジェイ・ジョンソン(トロンボーン)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、セロニアス・モンク(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)のカルテットです。セクステットではなくクインテットなのは、シルヴァーとモンクは曲によってピアノを弾き分けることもあってピアノは一名分扱いです。

『ソニー・ロリンズ ボリューム2』は1957年4月14日に録音されます。収録曲はレコード基準で、①ホワイ・ドント・アイ、②ウェイル・マーチ、③ミステリオーソ、④リフレクションズ、⑤ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム、⑥プア・バタフライです。A面は①と②、③、B面は④と⑤、⑥と収録されています。レコード会社はブルーノート、プロデューサーはアルフレッド・ライオン、録音技師はルディ・ヴァン・ゲルダーです。

作曲基準でまとめると、①と②はソニー・ロリンズのオリジナル楽曲、③と④はセロニアス・モンクのオリジナル、⑤と⑥がジャズのスタンダードナンバーです。聞き進めて行くと「ロリンズの音楽世界」から幕開け、「モンクの音楽世界」を経由して、「ハードバップの音楽世界」に到着するジャズの世界を味わえます。

一枚岩のジャズというよりも、異なるジャズの世界を旅している感じです。レコードよりもCDで聞いた方がヒシヒシと世界の違いが聞こえてきます。レコードは穏やかな切れ方をしています。A面がロリンズで始まりモンクで終わる。B面はモンクで始まりハードバップで終わると。

聴後感は


ソニー・ロリンズのテナーサックスはハリと艶のある音を出し、ジェイ・ジェイ・ジョンソンのトロンボーンは渋く温かみがあるのにキレある音で効果的なコントラストを作り上げます。

聴こえは、ホーン楽器編成に由来すると思います。ジェイ・ジェイの演奏するトロンボーンは低音を鳴らす楽器です。ロリンズのテナー・サックスもサックス類のなかでは相対的に低音を出す楽器です。合奏すると楽器の音の特性で音が重なり、低音一色の聴こえになります。ここを意識してか、ロリンズは高音域を奏でることで艶と輝きを出してジェイ・ジェイの低音域と聴こえの配分、バランスをとります。

「ウェイル・マーチ」


「プア・バタフライ」

シルヴァーとチェンバースとブレイキーのリズム隊は、現在から振り返り、現在に近い時代の評判を語るとシルヴァーとブレイキーはファンキージャズを築いた巨人でありますが、本アルバムではファンキーというよりもハードバップ的な演奏です。祝祭的なバッキングでリズムをつくります。

このドライブ感にのって「ホワイ・ドント・アイ」、「ミステリオーソ」、「ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム」の曲後半でロリンズ、ジェイ・ジェイ、ブレイキーのあいだでホットなインタープレイを繰りひろげます。

「ホワイ・ドント・アイ(インタープレイは約4分あたりから)」

ロリンズはインタープレイへ変わる合図とも言うべき”間あるいは休符”を置きます。そこにブレイキーが一打を入れて、インタープレイが始まります。盟友のマックス・ローチ(ドラム)とのインタープレイの場合、そこに向かってローチのドラミングが徐々に盛り上がっていきますが、聞けば聞くほど不思議なのですが、ブレイキーとのインタープレイ開始は前のめり感少なく一打はピタリと以心伝心で絶妙な入り方をします。

セロニアス・モンクが参加

『ソニー・ロリンズボリューム2』を聞き進めると驚くのは、セロニアス・モンクの参加です。レコード基準でA面の順序で「ホワイ・ドント・アイ」、そして「ウェイル・マーチ」と聞いて、A面の終わりの3曲目の「ミステリオーソ」に入るとサウンドがガラリと変わります。盤面を裏返してB面の1曲目は「リフレクションズ」でモンクの音楽世界から始まり、同曲の演奏が終わると、また違う世界に入っていきます。

「ミステリオーソ」

「リフレクションズ」

モンクの参加理由を音楽評論家の中山康樹さんは演奏の様子とブルーノーの経営者でもありプロデューサーのアルフレッド・ライオンの狙いをこのように書いています。

モンクは自作《ミステリオーソ》と《リフレクションズ》のみ参加する。だがシルヴァーもまた、《ミステリオーソ》でピアノを弾くことになる。二人のピアニストがひとつの椅子に腰かけ、お互いの演奏に耳を傾けながら鍵盤を分け合う。オープニングからJ.Jが登場するまではモンクが、J.Jのトロンボーン・ソロからシルヴァーが弾き、最後に再びモンクに“弾き継ぐ”。ブルーノート以外にはありえないことがこの曲では起こっている。
同じくモンク作《リフレクションズ》では、シルヴァーがピアノの席を離れ、J.Jも抜ける。すなわちロリンズ、モンク、チェンバース、ブレイキーのカルテットが出現する。いうまでもなくライオンは、この四人によるレコーディングも「狙っていた」」(中山康樹『超ブルーノートノート入門』集英社新書、2002

狙った効果、その聴後感はソニー・ロリンズと仲間たちとのブローイングセッションではなく、ソニー・ロリンズ・ウィズ・セロニアス・モンクと仕上っています。ロリンズはモンクのオリジナル曲を演変します。テーマを合奏し、ソロではロリンズが築くメロディにモンクがハーモニーをつけたり、オプリガードを交えます。リズム隊は縦横無尽なロリンズとモンクの演奏を崩さぬようにテンボを保ちます。スライドピアノにもビシッとリズムを合わせます。

ソニー・ロリンズは歌唱曲いわゆる歌モノを元曲とするジャズ・スタンダード・ナンバーを歌心をもってテナー・サックスを吹くと言われます。そもそも原曲が歌モノではない、元歌を出身地としないセロニアス・モンクのオリジナル曲に歌詞がついているかのように歌っているかのように演奏します。聞いているこちらもハミングを誘います。ところで本アルバムの録音は1957年4月14日です。

録音日に諸説ありますが1957年4月12日と16日にセロニアス・モンクは所属するリバーサイドにプロデューサーのオリン・キープニューズのもとピアノのソロアルバム『セロニアス・ヒムセルフ』をレコーディングします。録音技師はジャック・ヒギンズです。

『セロニアス・ヒムセルフ』の国内盤のライナーノートにはプロデューサーのオリン・キープニューズの録音コンセプトが要約されています。

ニューオリンズのマーチ・バンドからはじまったジャズの編成にピアノは無かった。
一方ラグタイムにはじまるピアノは、ソロ楽器としての伝統を守り続け、バンド編成に加えられたあとも、ソロイストとしての誇りをもち続けた。個人的な見解かもしれないが、トリオを離れてソロピアノを弾くオスカー・ピーターソンは、単にベース奏者とドラマーがいないだけのピーターソンで、ソロイストとしての別のピアニストが現れたという感じはしない。ところがジェームズ・P・ジョンソンをはじめ、昔のピアニストはソロをやる場合と、バンドで弾く場合とでは明らかにちがったピアニストにきこえた。もしそのようなピアニストを現代に求めるとしたらセロニアス・モンクを措いて他になかろう。これがこのアルバムを企画した理由だ」(「セロニアス・ヒムセルフ』 SMJ-6053M)

『セロニアス・ヒムセルフ』はモンクのピアノソロだけではなく、ジョン・コルトレーン(テナーサックス) とウィルバー・ウェア(ベース)が1曲のみ参加しています。「モンクス・ムード」です。1957年4月16日に「モンクス・ムード」は録音されます。
「モンクス・ムード」


聴後感は、コルトレーンがソロを吹くかというとそんなことはなく、メロディのユニゾンに努めます。

モンクのメロディにテナーサックスの音色を重ねていきます。あくまでもモンクのソロ演奏にテナーサックスの演奏を重ねて深みをそえます。コルトレーンのテナーサックスの独奏にモンクが伴奏をつけて「モンクス・ムード」を吹きあげるという完成ではないです。モンクのソロに徹しています。

同時期の録音でピアニストと録音曲はセロニアス・モンクであっても、セッションを狙ったプロデューサーのアルフレッド・ライオンとソリストの際立ちを狙ったプロデューサーのオリン・キープニューズによって、作りあがるサウンドが異なることに自然な感慨があります。

ソニー・ロリンズは本アルバム の録音後、リーダーアルバムの吹き込みだけではなく、ケニー・ドーハム(トランペット)、アビー・リンカーン(ヴォーカル)のアルバムに参加し、リバーサイドレーベルのプロデューサーであるオリン・キープニューズとの仕事が増えていきます。

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